JR西日本は1月14日、山陽本線姫路~英賀保間の新駅設置について、国土交通省近畿運輸局長に対し、鉄道事業法にもとづく事業基本計画の変更認可申請を行ったと発表した。姫路市が設置を求めていた駅で、位置は姫路駅から西側へ約1.8km。12両編成対応の相対式ホーム2本を設置し、ホームの屋根は6両分。橋上駅舎となる。

  • 山陽本線姫路~英賀保間の新駅設置予定地(地理院地図を加工)

朝日新聞電子版の1月14日付の記事「JR西日本、山陽線に新駅 姫路に26年春開業予定」によると、建設費用のうち国庫補助を含めた3分の2を姫路市が負担するという。姫路市の請願駅ながら、姫路市の全額負担ではなく、JR西日本も3分の1を負担する。JR西日本にとっても、乗客増と増収を見込めるから悪い話ではないということだろう。

JR西日本が発足してから、山陽本線の姫路市内では、2005年にひめじ別所駅、2008年にはりま勝原駅、2016年に東姫路駅が開業している。姫路~英賀保間の新駅が開業すれば4駅目となる。

新駅予定地の北側は市街地で、住宅、商業、工業の建物が混在し、わずかながら農地も残る。姫路駅の次の駅で、新快速に乗れば神戸・大阪・京都方面へ乗換えなしで行ける。新駅の開業に合わせ、農地や遊休地が開発されることは間違いないだろう。

■手柄山中央公園のアクセス駅に

新駅の南側には手柄山中央公園がある。姫路市が策定した「手柄山中央公園整備基本計画」によると、1942(昭和17)年に内務省の告示を得て造成に着手し、戦後の高度成長期には「姫路の勤労者がお金を使わず家族と楽しく過ごせる公園」として整備されたという。最初に設置された施設は公園と太平洋戦没者慰霊塔だった。現在は野球場、陸上競技場などのスポーツ施設をはじめ、水族館、温室植物園、平和資料館といった文化施設もある。年間訪問者数は160万人以上とのこと。

姫路市が新駅設置を要望した理由は、この手柄山中央公園の再開発と誘客をめざしたからだ。現在の交通アクセスは、姫路駅から中央公園バス停、姫路市民プール前バス停までバスで5分。山陽電気鉄道の手柄駅からも徒歩10分で行ける。

過去には姫路駅から姫路市営モノレールが手柄山まで直行しており、所要時間は約4分だった。しかし1974年に運行休止し、1979年に正式に廃止となった。遺構の一部は土木学会選奨土木遺産に認定されており、車両は手柄山駅跡に保管され、現在も見学できる。鉄道廃線ファンには有名だ。

  • かつての手柄山駅に姫路市営モノレールの車両が展示されている

このモノレールは1966(昭和41)年、手柄山中央公園で開催された姫路大博覧会のアクセス路線として建設された。しかし博覧会終了後、乗客が激減した。博覧会が終わると、集客施設は西洋の城風の建物「スリラー塔」のほか、水族館や回転展望台、ゴーカート場がある程度で、現在のように充実しているとは言えなかった。運賃も高く、山陽電気鉄道の姫路~手柄間が大人30円(当時)に対し、姫路市営モノレールは100円と3倍以上もした。しかも単線で、運行頻度が約15~20分と開いており、「姫路駅まで歩いたほうが早い」と酷評されたという。

モノレール自体、「姫路大博覧会」の博覧展示のひとつとしての意味合いもあったようで、会期中は珍しさもあって観光客が乗った。しかし、日常生活の足としては不人気だったらしい。

■市外からの集客を見込める

徒歩10分で山陽電気鉄道の手柄駅がある。バスも姫路駅から複数の系統が経由する。ただし、姫路駅から直行するモノレールは不振に終わった。そんな手柄山中央公園に、なぜ山陽本線の駅が必要か。その理由は、「手柄山中央公園整備基本計画」と上位計画の「姫路市総合計画」「姫路市都市計画マスタープラン」にある。

「手柄山中央公園整備基本計画」では、山陽電気鉄道手柄駅側のメインゲート、水族館エリア入口に加えて、公園の北側に新駅の設置を想定した新たなメインエントランスを作るとある。ほとんどの施設は昭和40~50年代に作られており、文化センターや温室植物園の建替え移設、手柄山遊園など不人気施設の廃止、新施設として「ちびっこ広場」やレストハウス、全天候型プールを作る。全体的に魅力を高め、姫路市内外からの集客力を高める。

  • 手柄山中央公園は魅力を高めるため、全体的にリニューアルされる

「姫路市総合計画」「姫路市都市計画マスタープラン」を大まかにまとめると、姫路市はCO2削減や渋滞解消の観点からマイカー利用を抑制したい。そのために公共交通を再整備する必要がある。姫路市民1人あたりの年間平均公共交通機関利用回数は、2007年度で約100回。2020年度は約120回をめざしている。

とくに姫路駅周辺の核となる地域では、マイカー利用者は目的地の駐車場に入れて、用が済めば帰ってしまう。しかし公共交通機関で訪れた人々が回遊すれば、街区のにぎわいを取り戻せる。手柄山中央公園の北側に駅があれば、周辺の人々は鉄道を利用して姫路駅を訪れるだろう。手柄山中央公園を訪れる人も、マイカーから鉄道利用に移るかもしれない。

姫路市営モノレールの失敗は、姫路駅からのアクセスしか考慮できていなかったからといえる。しかし山陽本線の駅となれば、姫路駅だけでなく、神戸・大阪・京都方面からも乗換えなしでアクセスできるし、姫新線や播但線からも乗り換えやすい。山陽本線の新快速はいまのところ、日中時間帯を除いて網干駅、播州赤穂駅、上郡駅まで乗り入れる列車があり、姫路駅から先は各駅に停車する。つまり新駅は新快速の停車駅になるわけで、手柄山中央公園にとって大きな意味を持つ。

そうなると新駅名が気になる。2016年に開業した東姫路駅の場合、姫路駅からの位置関係がわかりやすいとの理由で駅名が決定した。ならば姫路駅の西側に開業する新駅は「西姫路」だろうか。あるいは「手柄山中央公園」かもしれない。このほうが集客に貢献するし、他の類似駅名もない。公募して注目を集める方法もあるが、「手柄山ゲートウェイ」は勘弁してほしい。

ところで、山陽電気鉄道はどう動くか。現在の手柄駅は普通と朝夕のS特急が停車し、上位種別の直通特急・特急は通過する。手柄山中央公園の集客力が大きくなれば、山陽本線の新駅に対抗して、手柄駅にも直通特急・特急を停めるだろうか。「手柄山中央公園整備基本計画」では、手柄駅から訪れる人のために、公園東側エントランスも整備予定となっている。

山陽本線の新駅は、手柄山中央公園の北側にあった鉄道空白地帯を解消すると同時に、周辺のバス路線や山陽電気鉄道にも影響を与えるかもしれない。