国土交通省は1月20日、JR東日本が計画している「羽田空港アクセス線(仮称)」のうち、新たに建設する約5.0kmの事業を許可した。

  • 「羽田空港アクセス線(仮称)」。点線が新規建設許可区間

許可区間は東京貨物ターミナル駅から羽田空港新駅(仮称)までの約5.0km。大井埠頭から地下に入り、京浜運河や京浜島の地下を通って羽田空港に至る。一方、東京貨物ターミナル駅から北へ進み、東海道本線に接続する部分は既存の東海道貨物線「大汐線」を改良して整備する。新線部分、改良部分ともに開業は2029年度を予定している。

■羽田空港新駅(仮称)は高速道路直下で開削工法

新規建設区間のほとんどがシールド工法トンネルで建設される。ただし、東京貨物ターミナル駅側の一部と、羽田空港新駅(仮称)の手前から開削工法になる。羽田空港新駅(仮称)の位置は、羽田空港第1ターミナルP2駐車場と第2ターミナルP3駐車場に挟まれた場所となる。首都高速湾岸線の直下であり、ここを開削工法で建設するとなると、中央分離帯から1~2車線は通行止めになるかもしれない。首都高速湾岸線の空港中央インター付近は片側3車線で計6車線あるから、少し混雑する程度で収まってほしい。

「羽田空港アクセス線(仮称)」については、構想段階から本誌でも紹介してきた。当連載でも第161回「羽田空港アクセス線(仮称)実現で『大汐線』に乗れる日が来る!?」、第226回「『羽田空港アクセス線』一部を国が建設 - ライバルの京急も?」がある。今回はJR東日本が2019年6月に公開した「『羽田空港アクセス線(仮称)整備事業』環境影響評価調査計画書」を参照し、「羽田空港アクセス線(仮称)」の全体像を確認したい。

なお、環境影響評価手続き(環境アセスメント)については、2019年8月に東京都知事より「審査意見書」が提出されている。配慮すべき要点として、「工事完了後、事業地周辺の中高層住宅等に向けた鉄道騒音」「京浜島つばさ公園のる中間立坑、換気施設等について生物・生態系、自然との触れ合い活動」「建設発生土の廃棄・再資源化等」「周知地域区長の意見」が挙げられた。

その後、目立った動きがないことから、計画自体の大きな変更はなかったと考えられる。「審査意見書」の原本は東京都環境局のウェブサイトで公開されている。

■「東海道線接続区間」「東京貨物ターミナル改良区間」に注目

「羽田空港アクセス線(仮称)」の事業区間は、田町駅付近の東海道本線分岐部を起点とし、羽田空港新駅(仮称)までの約12.4km。このうち事業許可を得た「アクセス新線区間」が約5.0km。残り約7.4kmが改良区間となる。改良区間はさらに「東海道線接続区間」「大汐線改修区間」「東京貨物ターミナル改良区間」として3分割されている。

「東海道線接続区間」は約1.5km。田町駅から浜松町駅へ向かって約500m地点から始まる。田町駅の浜松町駅寄りに山手線の引き上げ線があり、この線路を廃止して、山手線外回りと京浜東北線の南行、東海道線の上りの線路を移設。この空いた線路の空間に単線を敷設し、東海道線の上り線と下り線を結ぶ。東海道線は上野東京ラインのルートでもあるため、これで高崎線・宇都宮線・常磐線とも直通できる。

分岐点から「羽田空港アクセス線(仮称)」は下り勾配の掘割を進む。地下に潜り、シールドトンネルとして田町駅連絡通路の下を通り抜け、東海道貨物線「大汐線」の真下を進む。札の辻橋まで下って地下15mに到達。ここから上り勾配となって地上へ顔を出し、高架線の「大汐線」に接続する。ここから約3.4kmが「大汐線」の改修区間。休止していた線路を復活させる工事となる。

「大汐線」が首都高速湾岸線をまたいだ直後から「東京貨物ターミナル改良区間」となる。東京貨物ターミナル駅に隣接する約2.5kmの区間で、現在は地上区間で一部単線になっている。ここに1カ所だけ踏切がある。北部陸橋東詰交差点に隣接する「救援センター踏切」だ。ここは高架複線で踏切を除却する。

高架を降り、地上に戻ったあたりで上下線の間隔を広げて、列車2本分の留置線を設置する。留置線の隣には東京臨海高速鉄道の単線があり、南側に車両基地がある。「羽田空港アクセス線(仮称)」は将来、りんかい線と接続して大崎・新宿方面、新木場・舞浜方面へ直通する構想がある。このあたりの線路構造が、将来を見越してどうなるか興味深い。2本の留置線が上下線に挟まれていることから、これを北側に延伸して地下へ進み、りんかい線の大崎方面へ接続するつもりかもしれない。

■羽田空港新駅(仮称)は東京モノレールより上の階層、延伸も可能か

東京貨物ターミナル駅の南側でいったん東海道貨物支線と並ぶものの、東海道貨物支線はトンネルに入ると南西に進路を変え、昭和島の地下を通って川崎をめざす。一方、「羽田空港アクセス線(仮称)」はすぐに東海道貨物支線と分かれ、許可を得た新線を建設する。シールドトンネルは大田市場の下、京浜島の東端の下を通る。都知事が懸念する中間立坑、換気口は京浜島つばさ公園内に作られるかもしれない。このあたりが地下48mで、「羽田空港アクセス線(仮称)」の最も深い地点となる。

上り勾配で羽田空港島に到達すると、前述のように首都高速湾岸線の下に潜り込み、東京モノレールのトンネルの上を通って羽田空港新駅(仮称)に着く。ホームは長さ約311m、幅8~12m。深さは約40m。真上から見ると、京急電鉄の羽田空港第1・第2ターミナル駅に遮られるような位置だが、京急電鉄の駅は東京モノレールより下の階層にある。

国土交通省関東地方整備局東京空港整備事務所のサイトに羽田空港ターミナルビルの地下断面図があった。それによると、東京モノレールより上、首都高速湾岸線の直下の地下空間には構造物がない。ここが羽田空港新駅(仮称)の空間になると思われる。「羽田空港アクセス線(仮称)」はさらに延伸して第3ターミナルに達する構想もある。羽田空港新駅(仮称)の建設にあたり、さしあたって京急電鉄の真上を避けたというところか。

■運行計画は控えめな数字に

国土交通省の報道資料によると、運行計画は片道で1時間あたり4本、1日あたり72本とのこと。環境影響評価計画書では1時間8本、1日144本となっていて、往復本数の表記となっている。ダイヤの検討はまだ先のことになるものの、1時間あたり4往復をどの方面に分配するか、興味は尽きない。

高崎線方面、宇都宮線方面、常磐線方面に1往復ずつ割り当てるとして、残り1往復はどうするか。東京駅始発を1往復設定し、新幹線からの乗継ぎに配慮するか。それならば、京急電鉄のエアポート急行に対抗して、横須賀線・東海道線方面から東京駅折返しで羽田空港へ向かう便も便利かもしれない。

順調に工事が進めば、あと8年で開業だ。楽しみに待ちたい。