南海電鉄は11月30日、和歌山市と連携してBRTの共同研究を開始したと発表した。和歌山県が誘致する統合型リゾートが実現した場合、市内の交通量が増大する。南海電鉄のグループ会社に和歌山バスがあり、交通問題の懸念解決のため、和歌山市にBRT導入を提案した。研究の第1段階として、南海バスが関西国際空港で運行する連節バスを試走させる。
BRT(バス高速輸送システム)はバス専用道、バス専用車線、PTPS(バス優先信号制御など)を整備して、バスの速達性と定時性を向上させるしくみ。南海電鉄と和歌山市は定員100名、最大約130名まで乗車可能な連節バスを想定し、大量輸送を実現可能な経路を探る目的があるようだ。
BRTを導入する路線は、JR和歌山駅、南海和歌山市駅とマリーナシティを結ぶ。マリーナシティは和歌山市南端の人工島で、1994(平成6)年に開催された世界リゾート博の会場になった。現在はテーマパーク「ポルトヨーロッパ」をはじめ、リゾート・レジャー施設が多い。
和歌山市駅とマリーナシティは直線距離で約10km、国道42号経由の道のりで約11kmだ。路線バスの所要時間は約26分となっている。マリーナシティ行のバス路線は平日に4系統、休日に5系統ある。内訳は南海和歌山市駅始発が2系統、JR和歌山駅から平日1系統、休日2系統、JR海南駅から1系統となっている。マリーナシティは年間約300万人の来訪があり、バス路線最大5系統の整備も納得だ。
このマリーナシティに、和歌山県がIR(統合型リゾート)を誘致している。和歌山県の資料によると、想定する来場者数は年間約400万人だという。IRができると、マリーナシティの来訪者は現在の2倍以上になる。駐車場や道路設備を考慮すると、マイカーや観光バスの往来には限界があり、バスの役割は大きい。
もちろんこの数は、現在のバス路線だけで捌ききれない。途中の停留所を利用する乗客が乗れなくなってしまう。路線あたりのバスの台数を増やせば、渋滞も起きやすい。そこで、鉄道駅からマリーナシティを直行するバスを設定し、マリーナリゾートの利用者と路線バスの利用者を分離したい。さらにBRT化すれば、必要最低限のバス車両数で運行できる。
■「けやき大通り」に専用車道を整備か
共同研究では、路線の詳細は決定しておらず、連節バス試走ルートについて「検討中」としている。しかし地図を見れば、「南海和歌山市駅から国道24号+26号、またはその東側の国体道路を南下し、ムーンブリッジを渡るルート」「その途中で和歌川を渡ってから海沿いの道を通ってサンブリッジを渡るルート」が軸になるだろう。その上で、混雑地域に専用車道または専用車線を整備する。
関係者に聞くと、「けやき大通り」というキーワードを得た。「けやき大通り」はJR和歌山駅前から西へ向かい、和歌山市役所、和歌山城に至り、西汀丁交差点で国道24号・国道26号につながる。JR和歌山駅前側は片側4車線+4車線となっており、中央分離帯はけやき並木、両側の歩道はくすのきの並木とツツジの植栽がある。かつてはここに「南海和歌山軌道線」という路面電車が走っていた。その名残か、歩道側の片側1車線ずつをバス専用車線としている。
「けやき大通り」は和歌山県庁とJR和歌山駅を結ぶ主要道として重視されている。しかし空き店舗が多く、にぎわいに欠ける上に、側道や交差点の事故多発などの問題も抱えている。そこで2010(平成22)年から「けやき大通り再生検討委員会」が設立され、車線を減らして歩道を拡張し、にぎわい空間を創出する方針となった。検討案は、車道を片側3車線+3車線とし、そのうち両側1車線ずつバス専用とするなど4つがある。BRTはこのバス専用車線を整備し、PTPSを導入すると思われる。2010年当時、けやき大通りのバスは9路線33系統あり、1日最大640台のバスが通行していた。BRTの導入に合わせて、路線バスの再編成も必要になるだろう。
12月10日付の日本経済新聞の記事「IR開業時期、20年代後半に 政府」によると、政府は統合型リゾートについて、2020年代半ばをめざしていた開業時期を「20年代後半」とする見通しだという。また、2021年1月から開始する予定だった自治体の申請を9カ月延期する方針とした。IR誘致に前向きな自治体として北海道、千葉、東京、横浜、名古屋、大阪、和歌山、長崎が挙げられ、たとえば大阪は地下鉄延伸などアクセス手段の整備を進めている。南海電鉄と和歌山市のBRT研究で実現性が高まれば、他の候補都市に対する競争力アップになる。
鉄道ファンとしては、LRTの整備や「南海和歌山港線を延伸して難波・関空と直結する」という大胆な構想も聞きたかった。研究の結果、「やっぱり軌道系アクセスのほうがいいかも」という展開に微かな期待を抱いている。