朝日新聞電子版は12月18日、「『凸型』DD51、来年3月に引退へ 北斗星や出雲にも」という記事を掲載した。見出しだけ見ると、ディーゼル機関車DD51形がすべて引退、廃車されてしまうと誤解されそうだが、記事を読むと、「JR貨物が愛知県で定期的に運行していた6両が運用を外れる」との主旨だった。過去に寝台特急「北斗星」「出雲」など牽引した実績があるから間違っていないものの、この見出しだと、他社の保有車両も含めて引退すると勘違いしてしまうかもしれない。

  • ディーゼル機関車DD51形(2018年の報道公開にて撮影)。非電化区間の主力機として649両も製造された

朝日新聞の記事では、JR貨物が来年3月に実施するダイヤ改正(12月18日発表)を情報元としている。しかし、JR貨物が自社サイトで公開している報道資料では、電気機関車EF210形を11両、ハイブリッド機関車HD300形を1両、電気式ディーゼル機関車DD200形を6両新製すると発表されているものの、DD51形についての言及は見当たらない。DD51形の定期運用引退の報道は独自取材等によるものと思われる。

DD51形は国鉄時代の1962(昭和37)年から1978(昭和53)年にかけて、蒸気機関車を置き換えるディーゼル機関車として製造された。最後の車両が登場してからすでに42年が経過しており、老朽化は避けがたく、引退、廃車が近いことは想像に難くない。JR貨物の報道資料をさかのぼると、2016(平成28)年度の事業計画に次のような文章があった。

非電化区間・構内入換用DE10形式ディーゼル機関車の老朽置換となる新形式ディーゼル機関車の開発、関西線DD51形式ディーゼル機関車の老朽置換として、DF200形式ディーゼル機関車の仕様変更車の試作に取り組む。

前半の「DE10形式ディーゼル機関車の老朽置換となる新形式」は、2017年に登場したDD200形と思われる。そして「DD51形式ディーゼル機関車の老朽置換」として投入されたDF200形は、北海道の五稜郭機関区に所属していたDF200形100番台。2016年に保安装置などが改造され、200番台となって愛知機関区に移った。その後、2018年までに合計8両が愛知機関区に転属しており、この時点でDD51形6両の代替機がそろったことになる。

  • 山陰本線で2018年に運転された迂回貨物列車。愛知機関区のDD51形が牽引した

2019年11月に名古屋貨物ターミナルで開催された「鉄道貨物フェスティバル」では、「でーでーごーいちのきもち」と題したポスターが掲示され、「らいねんには走れなくなっちゃうんだ」とあり、2020年内または2020年度内の引退が予告されていた。鉄道ファンにとって、2021年春に定期貨物列車の運用から引退することは想定の範囲内と言えそうだ。

■四国を除く全国の主要な在来線で運用された

凸型の車体は、本来はもっと小さな機関車に採用される。駅構内作業用として前進後退を繰り返す場合に、運転士は移動しなくても良いからだ。しかし、DD51形は大型で強力なエンジンを持ちながら凸型になった。その理由として、点検の際、エンジンや補助機器の手入れを行いやすいことと、車体を軽くしたかったことが挙げられる。車両全体を箱形の車体で覆うより、機器の周辺だけ覆うほうが軽量化できる。

車体が軽くなると、車軸にかかる重さ(軸重)も軽くなり、線路への負荷が減る。そのため、末端ローカル線を除くほとんどの路線で運行可能になる。大型機関車並みの性能を持ち、転車台も不要。従来の大型機関車、中型機関車の運用の両方をこなし、運用範囲は四国を除く全国に及んだ。四国はもともと大型機関車がなく、先行してDF50形の配備が進んだため、配置されなかった。

蒸気機関車ファンにとって、DD51形は蒸気機関車を死地に追いやった恨めしい存在だったかもしれない。しかし、2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)などで貨物列車を迂回させた際、国鉄時代の長く広い運用実績が効いた。貨物列車の頼もしさの象徴といえた。

  • DD51形2両の牽引で札幌方面へ向かう寝台特急「北斗星」(2014年撮影)

記憶に新しいところでは、東京~札幌間を結んだ寝台特急「北斗星」「カシオペア」、大阪~札幌間を結んだ寝台特急「トワイライトエクスプレス」の北海道内区間で活躍した。「北斗星」「カシオペア」では、青い車体に流れ星を描いたDD51形が重連で牽引。凸型の車体のおかげで、展望室が機関車連結側にあっても、DD51形のボンネット上に空が見える。客室に向いた丸形のヘッドライトも愛嬌のある顔に見えた。

■JR東日本・JR西日本に残るDD51形、来春から「DLやまぐち号」も

DD51形はJR貨物の他に、JR東日本が2両、JR西日本が8両を保有している。SL列車の補助機関車や、SL列車の蒸気機関車が故障したときに代行運転する役回りで先頭に立っている。業務用途として、車両の部品やレール、線路保守用の部材を運ぶ列車にも使われる。定期運行する列車はなくなったものの、いまも現役で活躍している。

12月23日、JR西日本は2021年3~9月にかけて、ディーゼル機関車の牽引による観光列車「DLやまぐち号」を運行すると発表した。本来は蒸気機関車による「SLやまぐち号」を運行するところだが、担務する蒸気機関車C57形・D51形の検査修繕が必要となったため、代役として運行されることになった。

報道資料の本文にDD51形の文言はなく、JR西日本全体で26両のディーゼル機関車を保有していると書かれてあるのみだが、運行イメージ写真としてDD51形の牽引する姿が紹介されている。DD51形は過去にも「SLやまぐち号」の代役として起用された実績がある。

  • JR西日本が保有するDD51形1043号機(2017年9月、新山口駅でのイベント取材時に撮影)

ディーゼル機関車で牽引する旅客列車も、いまでは貴重な存在となった。蒸気機関車が牽引する列車より珍しいかもしれない。DD51形の終焉が近づいているとはいえ、重厚なサウンドと独特の油煙の香りはもうしばらく楽しめそうだ。