本誌既報の通り、JR東日本は山形新幹線「つばさ」について、新型車両E8系の投入と福島駅改良を発表した。E8系の登場は意外だった。新型車両と福島駅改良は2月16日に共同通信が報じていたが、山形新幹線に新車を入れるなら、同じミニ新幹線規格の秋田新幹線「こまち」に投入したE6系をベースに、同形式、あるいは仕様変更した1000番台などの派生車種も考えられたと思う。

  • 山形新幹線「つばさ」の現行車両E3系(写真:マイナビニュース)

    山形新幹線「つばさ」の現行車両E3系は新幹線区間の営業最高速度275km/h。新型車両E8系では300km/hに引き上げられる

新車にもいろいろあって、新形式もあれば、他の路線で運行中の車両を新規に運行するという事例もある。だから山形新幹線ではE6系でも新形式と言えるけれども、わざわざ新形式のE8系にした。つまり、秋田新幹線の流用ではなく、山形新幹線の環境に合わせた特注にした。そもそもE6系が秋田新幹線に特化した仕様で、山形新幹線には流用しにくかったかもしれない。いずれにしても、路線ごとの仕様で新車投入とは、丁寧な施策といえる。

気になるところといえば、E8系の最高速度が300km/hに抑えられている。現行のE3系は最高速度が275km/hだから性能アップである。しかしE6系の最高速度は320km/hで、東北新幹線内ではE5系と併結し、320km/hで走る。E8系もE5系と併結するから、320km/hの性能を与えても良かったはず。福島~新庄間のミニ新幹線区間では使わない性能だが、東北新幹線内で320km/hを出す必要はないのだろうか。同一路線であれば、同一性能の車両にそろえたほうが全体的なスピードアップにつながると思うのだが。

ちなみに、東北新幹線の最高速度は東京~大宮間が110km/h、大宮~宇都宮間が275km/h、宇都宮~盛岡間が320km/h、盛岡~新青森間が260km/h。今後は盛岡~新青森間も320km/hへ引き上げる方針と報じられている。しかし、「つばさ」は福島駅からミニ新幹線区間の奥羽本線に入るから、320km/hで走行できる区間は宇都宮~福島間に限られる。この区間は実キロで146.1kmと短い。

また、「つばさ」は東北新幹線内で「はやぶさ」ではなく、停車駅の多い「やまびこ」と併結する。今後もその方針に変わりがないとすれば、最高速度を発揮する場面が少なく、速度を上げても時短効果がない。320km/h仕様は過剰な性能になると判断されたかもしれない。

報道資料には加減速性能について記載されていなかったが、最高速度を抑える一方で、加減速性能を上げていることも考えられる。停車駅が多い場合、加減速性能を上げたほうがいい。高速タイプの列車に追い越された後、すぐに追いかけ、後続の高速列車に追いつかれる前に待避駅に逃げ込めるからだ。

■山形新幹線「板谷峠トンネル」構想は

山形新幹線の高速化については、東北新幹線内よりもミニ新幹線区間のスピードアップのほうが有効といえそうだ。山形新幹線では、JR東日本が今回発表した福島駅改良の他に、板谷峠区間に新たなトンネルを建設する新ルートの構想もある。その内容は当連載第100回「山形新幹線にフル規格化構想? 板谷峠越えトンネル建設?」で紹介した通り。このトンネル計画はどうなっただろう。

板谷峠の新トンネルについては、山形県が「山形新幹線機能強化検討委員会」を設置して取り組んでいる。現在、山形県の公式サイトでは、「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」の中で紹介されていた。JR東日本はミニ新幹線としてのトンネル整備費として1,500億円を試算し、フル規格に対応するには120億円の増額と見込んでいる。山形県としては、このトンネルをミニ新幹線の新ルートではなく、福島~秋田間の奥羽新幹線の一部として建設してほしいようだ。

フル規格新幹線かミニ新幹線規格かに関わらず、このトンネルによる福島~山形間の所要時間短縮効果は約10分。わずか10分と思うかもしれないが、狙いは高速化だけではない。解決したい問題は、降雪や豪雨などによる運休と遅延だろう。公式サイトによると、山形新幹線は2011~2017年で平均270本、最大で410本が運休または遅延しており、その4割が福島~米沢間の板谷峠区間に集中しているという。

山形新聞のバックナンバーをたどると、2018年・2019年も山形県知事、沿線の市町、商工会、県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟などがJR東日本や政府与党へ積極的に要望書を提出しており、あわせて地元の繁華街や大学キャンパスでの啓蒙活動も続けている様子。全国紙で大きく報じられていないが、地道な努力が続いている。

なお、山形新幹線については、ミニ新幹線規格のまま酒田方面・大曲方面へ延伸する構想もあり、関連自治体による県への要望活動が行われている。

■秋田新幹線にも新トンネル構想

秋田新幹線にも山形新幹線と同様の新トンネル構想がある。こちらも当連載第131回「秋田新幹線、新トンネルで期待される効果は? トンネル建設協議会発足」で紹介した。秋田新幹線防災対策トンネル整備促進期成同盟会はその後、どうなったか。

秋田県および秋田県大仙市の公式サイトによると、2019年もシンポジウムが開催され、31団体260名が参加したという。沿線の市長による東京への要望活動も行われている。トンネルは約15km、概算工事費は約700億円、工期は着工から11年という見積で、時間短縮効果は約7分。時間短縮効果はわずかながら、こちらも目的は時短より遅延と運休の解消にあるだろう。JR東日本も豪雨・豪雪・強風などによる自然災害にともなう遅延や運休のリスクを改善するため、安全性を向上させることなどを目的に検討している。有用性は明確で、あとは建設予算の獲得、JR東日本の負担軽減の枠組み作りという段階だ。

秋田県は「令和2年度政府予算等に関する要望書」に、このトンネルと奥羽・羽越両新幹線の整備促進を盛り込んでいる。しかし残念ながら、いまだ着工の気配はない。

山形空港、秋田空港ともに東京からの直行便がある。両空港とも稼働率は高い。しかし、座席数において新幹線は圧倒的で、山形・秋田両県にとって新幹線は重要な幹線である。JR東日本にとっても、東北地方は観光資源であり、列車の高速化、稼働率は重要ととらえているだろう。どちらも早期実現を期待したい。