東京都は3月3日、JR埼京線の連続立体交差事業に着手し、十条駅付近の6カ所の踏切を除却すると発表した。完成は2030年度、事業費は375億円で、補助第85号線などの踏切遮断による交通渋滞と踏切事故が解消され、道路・鉄道それぞれの安全性が向上するという。詳しく調べると、東北新幹線の建設に際し、地下化する構想もあったようだ。

  • 埼京線の地上区間を走行するE233系(写真:マイナビニュース)

    埼京線の地上区間を走行するE233系。十条駅付近で連続立体交差事業に着手する

東京都の資料では、路線名が「都市高速鉄道 東日本旅客鉄道赤羽線(JR埼京線)」となっている。埼京線は路線愛称で、池袋~赤羽間の正式名称は赤羽線だ。かつては路線案内なども赤羽線となっていた。しかし、東北新幹線の建設にあたり、通過となる地元への見返りとして、赤羽~大宮間で新幹線と並行する通勤路線が計画された。この路線と赤羽線を直通させて、路線愛称を埼京線とした。ちなみに、埼京線の赤羽~大宮間の正式名称は東北本線(支線)である。

赤羽線の歴史は長い。1885(明治18)年に開業し、今年で135周年を迎える。上野~熊谷間の日本鉄道(現在の東北本線・高崎線)と、新橋~横浜間の官営鉄道(現在の東海道本線)を結ぶ目的で建設された。埼京線が赤羽駅を境に、北側は立体交差、南側は踏切が多い理由も、このような建設の経緯があったからだ。

十条駅付近の連続立体交差事業は、赤羽線の「北区十条台一丁目~中十条四丁目間」が対象になっている。環状7号線(東京都道318号線)の少し北側から上り勾配を始め、高架化した十条駅へ。南側は加賀学園通り(補助第84号線)に至る少し手前まで。環状7号線も加賀学園通りも線路の上を通るから、2つの立体交差はそのままに、この間を高架化する。

  • 立体交差工事の概要(地理院地図を加工)

除却される踏切は、北側から「北仲原」「仲原」「富士道」「仲道」「十条道」「原町」の6カ所。これらはすべて、「踏切道改良促進法」において国土交通大臣名で「改良する必要がある踏切道」に指定されている。「仲原」「仲道」「十条道」「原町」は2017年1月、「富士道」「北仲原」は2019年2月に指定された。

「仲原」「仲道」「十条道」「原町」の指定理由は、「踏切道改良促進法施行規則」の第2条の2「一日当たりの踏切自動車交通遮断量と一日当たりの踏切歩行者等交通遮断量の和が五万以上で、かつ、一日当たりの踏切歩行者等交通遮断量が二万以上のもの」。このうち、「仲原」は「直近五年間において二回以上の事故が発生」、「十条道」は「一日当たりの踏切自動車交通遮断量が五万以上」と緊急度が高かった。「富士道」「北仲原」は、「踏切道における交通量、事故の発生状況、踏切道の構造、地域の実情その他の事情を考慮して、踏切道の改良による事故の防止又は交通の円滑化の必要性が特に高いと認められるもの」だった。

立体交差を含む十条駅付近の沿線のまちづくりについては、1999年に北区基本構想にまとめられ、改定されて「北区基本構想2010」に採択された。東京都においても、2014年12月に都市計画が決定し、2015年に「十条駅付近沿線まちづくり基本計画」が策定された。この流れを受けて、2016年に地元で説明会が行われている。

説明会資料を読むと、十条駅は当初、地下化する構想があったようだ。参加者からの質問の中で、「国鉄時代に北区に新幹線を通す代わりに赤羽駅は高架化、十条駅付近は地下化という協議がまとまっていたようである。民営化してJRになっても合意を引き継ぐことになっていたはず」という指摘があった。

これに対し、東京都は「東北新幹線の建設計画および赤羽線の輸送力増強計画について、北区が赤羽駅付近の連続立体交差化および十条駅付近の地下化を条件として同意を与えたと承知」と認めている。北区も区議会として地下化を要望し、推進したと認めた。

では、なぜ地下案が高架になったか。おもな理由として、「立体交差早期実現」と「立体交差の効果」「事業費の軽減」が挙げられる。立体交差の早期実現については、区議会で「連続立体交差事業の早期実現に向けた陳情書」が採択され、その後、地下化にこだわらず、「適切な構造形式により、早期に事業化されるよう、強く求める」となった。これを踏まえ、東京都が「地形的条件、計画的条件、事業的条件を総合的に判断した結果、高架形式を最適案」とした。北区議会も地下化についてはこだわらず、東京都の選定した高架方式を尊重する立場となった。

東京都は高架化と地下化を検討し、地形的にはどちらも可能とした。しかし、高架の場合に除却できる踏切は6カ所、地下の場合は4カ所で、仲原踏切と北仲原踏切は(構造物によって塞がれてしまうため)通行できない。事業費についても、高架案は約340億円(当時の試算)、地下案は約655億円。施工期間は高架案が11年間、地下案が13年だった。こうした数字から、東京都は高架案が優れていると判断したという。

沿線への影響に関する数字も興味深い。鉄道を高架による立体交差とする場合、並行する道路も整備する原則となっている。並行道路は北区が主導して整備する枠組みで、各踏切付近で区切り、「東日本旅客鉄道赤羽線付属街路第1号線~6号線」の6本を整備する計画がある。どの道路も、基本的には防災上有効な車道幅員として6mを確保するとともに、ゆとりのある歩行空間を確保するため、電線の地中化を実施する。

この道路計画も含めて、高架工事全体で110~120件に対して土地の譲渡を求めていく。さらに、十条道踏切がある補助85号線の拡幅計画では、約120棟の建物に影響があるとのこと。北区は計画全体において木造家屋密集状態を解消し、火災に強いまちづくりをめざしている。

蛇足ながら、鉄道ファンとしても地下化より高架化のほうがありがたい。地下では車窓風景を楽しめなくなってしまうし、町の風景から電車が見えなくなるとつまらない。ただし、地元利用者としては地下のほうが騒音がなくなる上に、地下駅は風雨にさらされる心配もなく、快適度が上がるという意見もあるだろう。

いずれにしても、踏切がなくなれば踏切事故もなくなり、列車の運休や遅れが減る。これは地元の人々だけでなく、鉄道利用者すべてに利点がある。都内には輸送障害の原因となる踏切がまだまだたくさんある。踏切問題全体の早期解消の観点からも、十条駅付近立体交差の進展は喜ばしい。