東京都は1月23日、令和2(2020)年度予算案を発表した。公式サイトには1月24日付で掲載されている。総額約15.5兆円のうち、「公共交通の更なる充実と次世代交通システム等の導入」に関する予算は約170億円で、前年度の44億円から大幅増となった。

約170億円の内訳は、「都心と臨海副都心とを結ぶBRT整備事業」が最も多い131億円で、前年度の17億円より大幅増額となった。このBRT事業は2020年度から1系統のプレ運行が始まる。「鉄道ネットワークの整備促進」は前年度とほぼ同額の約1億円、「自動運転技術を活用した都市作りへの展開に関する調査」も前年度とほぼ同じ約4,000万円、「快適通勤の実現に向けた混雑緩和策等の検討調査」も前年度と同じ約5,000万円だった。

  • 多摩モノレールの車両1000形

そして、令和2年度に初めて計上された予算が「多摩都市モノレールの整備」で約1億円。約1.2億円との報道もある。発表資料には概要として、上北台~箱根ケ崎間について、「沿線自治体や鉄道事業者をはじめとする関係者との協議・調整の上、事業化に向けて現況調査及び基本設計等に着手します」とある。

現在、多摩モノレールは立川駅付近を中心に、北は東大和市の上北台駅、南は多摩市の多摩センター駅を結んでいる。総延長は16kmで、19の駅がある。多摩地域は都心から放射状に延びる東西方向の鉄道路線はあっても、南北方向の鉄道路線は少なかった。そこで多摩モノレールが計画された。

多摩モノレールの接続路線は北から順に、玉川上水駅で西武拝島線、立川北駅・立川南駅でJR中央線・青梅線・南武線、高幡不動駅で京王線、ここから京王動物園線と併走して多摩動物公園駅を経由し、多摩センター駅で京王相模原線と小田急多摩線。合計8路線を結ぶ縦糸のような路線になっている。

  • 多摩モノレールの営業中の区間(黒)と、予算が計上された延伸区間(赤・実線)。他に町田と八王子を結ぶ構想(赤・点線)がある

整備に向けて予算化された区間は、既存路線の北側、上北台駅から西へ約7kmのJR箱根ケ崎駅付近まで。新青梅街道に沿って建設される。箱根ケ崎駅(西多摩郡瑞穂町)はJR八高線の駅で、多摩モノレールにとって9番目の接続路線となる。途中駅に関して、東京都の発表資料には記載されていないけれども、沿線の武蔵村山市、東大和市、瑞穂町の2市1町がまとめた「モノレール沿線まちづくり構想」によると、7駅を想定しているようだ。武蔵村山市には鉄道駅がなく、モノレールの延伸は悲願ともいえる。

「陸の孤島」とも言えた武蔵村山市へのモノレール延伸は、東京都の地域不均衡を是正するための「多摩・島しょ地域」を振興する目的にも合致する。「多摩・島しょ地域」は東京都の面積の3分の2を占め、人口の3分の1が居住している。東京都は「多摩・島しょ地域」に約2,409億円の予算を計上し、新規事業として多摩地域に創業支援拠点を設置するほか、島しょ地域には観光振興を実施し、東京オリンピック・パラリンピックを景気とした誘客に取り組むという。

  • 延伸予定区間と周辺のおもな施設。薄青の円は沿線自治体が要望する駅

多摩モノレール建設の歴史は1982(昭和57年)年にさかのぼる。東京都の長期計画として多摩地域のモノレール建設が公表され、1986年に多摩都市モノレール株式会社が設立された。1987年に上北台~立川北間の特許を申請し、環境アセスメント手続きを経て1990年に着工。1998(平成10)年11月に上北台~立川北間、2000年1月に立川北~多摩センター間が開業した。

現在の開業区間が建設中だった1992年12月、東京都の多摩島しょ振興推進本部会議にて、「上北台・箱根ケ崎間を事業化すべき路線とする」「多摩センター・町田間および多摩センター・八王子間を、事業化に向けて導入、空間の確保に着手すべき路線とする」と決定された。この決定を受けて、2000年に運輸政策審議会答申第18号に、上北台~箱根ケ崎間は目標年次である2015年度までの着工が望ましいと記載された。また、多摩センター~八王子間と多摩センター~町田間は、「今後整備を検討すべき」と記載された。

答申18号の目標年次となった2015年、東京都は「広域交通ネットワーク計画について」を発表し、「優先的に検討すべき路線」として「多摩都市モノレール延伸(箱根ケ崎方面)」と「多摩都市モノレール延伸(町田方面)」を挙げた。この発表では、他に「都営地下鉄大江戸線の大泉学園町方面延伸」「東京8号線延伸 有楽町線 豊洲~住吉」「JR東日本羽田アクセス線」が盛り込まれている。

2016年、交通政策審議会答申第198号が公表された。多摩モノレールの上北台~箱根ケ崎間については、「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」と記載された。多摩センター~町田間は、「導入空間となりうる道路整備が前提となるため、その進捗を見極めつつ、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」、多摩センター~八王子間は、「事業性に課題があるため、関係地方公共団体・鉄道事業者等において、事業計画について十分な検討が行われることを期待。」と記載された。

多摩モノレールの既存区間は営業成績も良好だ。2001年度に約9万2,000人だった1日平均乗車人数は、2018年度に約14万4,000人となり、1.5倍以上も増加している。2001年度に12億8,500万円の赤字だった営業利益が、2018年度は約14億7,000万円の黒字となっている。2018年度の運輸収入は約85億円で過去最高となった。4両編成で定員415人の列車が、混雑時間帯は最短5分間隔で走り、平日日中は10分間隔、休日日中は9分間隔という高頻度運転を行っている。

上北台~箱根ケ崎間の事業予算化は、こうした営業成績を背景に、当初の方針を確実に進める。総事業費は約800億円。開業時期は非公表。ただし、読売新聞の記事「多摩モノレール延伸に都が着手へ、7駅設置計画…さらに2方向への延伸構想」では、「おおむね12年後の開業を目指す」と報じられている。環境アセスメント手続きや工事が順調に進めば、2032年に開業できるかもしれない。

沿線の武蔵村山市、東大和市、瑞穂町の2市1町は、人口微減、少子高齢化という状況にある。しかし、宅地は十分にあり、戸建て住宅の需要の受け皿になる。多摩モノレール開業効果と同様の発展を期待しているだろう。

武蔵村山市長は公式サイトで、「7万2千市民の長年の悲願であるモノレール延伸の実現に向けた大きな前進」「まずはこうした検討を着実に進めていただき、早期の事業化を期待しております。市としても、引き続き、延伸を契機とした沿線のまちづくりにしっかりと取り組んで参ります」とコメント。期待と決意を示した。

箱根ケ崎駅のある瑞穂町は1月23日、「瑞穂町地域公共交通会議」を設置した。「町内の公共交通環境と住民のニーズに即した、持続可能な移動手段を確保し、利便性の向上に必要となる事項を協議する」という。また、読売新聞によると、多摩市長も「南の方も遅れることなく動き出してほしい」とコメントし、多摩センター駅から先の延伸区間について期待を表明しているとのこと。

鉄道ファンとしても、見晴らしが良く便利なモノレールの開業は大歓迎だ。多摩モノレールの構想区間がすべて開業できることを期待している。