阿佐海岸鉄道で2020年度に実用化されるDMV(デュアルモードビークル)の運行に関して、実施までのスケジュールとルート案が発表された。

  • 阿波海南文化村駐車場とDMV車両

2019年12月24日に開催された「第5回 阿佐東線DMV導入協議会」によると、JR牟岐線牟岐~海部間と阿佐海岸鉄道海部~甲浦間は夏頃から運休し、バス代行になるとのこと。DMVの道路運行ルート案は阿波海南駅・甲浦駅から市中の拠点まで毎日運行するほか、土休日に室戸岬方面へ1往復する。

阿佐海岸鉄道のDMV導入については、筆頭株主である徳島県が主導する形で2016(平成28)年に「阿佐東線DMV導入協議会」が設置され、甲浦駅のある高知県や地元自治体と実現に向けた話し合いが続いている。2019年の時点で3両のDMVを調達し、甲浦駅では先行して高架線路と地上を結ぶスロープ工事が実施されている。

海部駅も高架駅である。しかし、JR牟岐線の線路があるため、スロープを設置しにくい。そこで、北側のモードチェンジ部は地平にある阿波海南駅に設置する方針となった。阿波海南~海部駅は阿佐海岸鉄道に移管される。

  • 甲浦駅では地上と効果を結ぶスロープ工事が進行中

  • 赤線がDMV鉄道区間、青線がDMV道路区間(地理院地図を加工)

今回の発表で、DMVの開業に向けたスケジュール目標が明らかになった。2020年夏頃までにJR牟岐線の牟岐~阿波海南間および阿波海南~海部間を運休する。牟岐~阿波海南間は阿佐海岸鉄道に編入されない区間だけど、列車折返し信号設備が牟岐駅にあるため、阿波海南駅の工事中は列車の運行ができない。そのため、両区間ともバス代行運転となる。工事終了後、牟岐~阿波海南間は引き続きJR四国が運行。阿波海南~海部間はDMVによる運行となる。

阿波海南~海部間では、運休中にDMV車両の現地性能試験やDMV保安装置の設置、阿波海南駅の改良工事を行う。阿佐海岸鉄道はしばらく通常運行となるけれども、夏の終わり頃から運休し、バス代行運転に。中間駅の海部駅・宍喰駅でDMV車両用のホーム設置工事を行い、工事終了後は阿波海南~甲浦間と道路区間で習熟運転が行われる。

■道路運行ルートは当初の想定より短くなる

2020年度末にDMVの営業運転が開始されると同時に、JR牟岐線牟岐~阿波海南間の運休も解除され、阿波海南駅で牟岐線とDMVの乗換えが可能になる。なお、JR牟岐線と阿佐海岸鉄道の線路は物理的に切断されるため、車両の直通運転はできない。

  • 運行開始までのスケジュール

道路運行区間は阿波海南駅から阿波海南文化村までの約1kmと、甲浦駅から「海の駅 東洋町」を経由し、「道の駅 宍喰温泉」までの約4kmを定期運行ルートとする。鉄道区間における運行頻度は現在より多くしたい考えだ。土日祝日には、「海の駅 東洋町」から南下して室戸岬を経由し、室戸ドルフィンセンターを終点とする1往復を設定する。道路区間の料金とダイヤについては、既存のバス事業者と協議中とのこと。

阿波海南文化村は徳島県海陽町の施設で、郷土を紹介する博物館、文化館(ホール・会議室など)、三幸館(キッチン付き集会所)、いきいき館(交流スペース)、工芸館(伝統作品体験学習施設)、関船展示館(祭用の舟形だんじり見学施設)などがある。付近には幼稚園や病院もある。

「海の駅 東洋町」は白浜海岸に面し、高知県東洋町の観光拠点となっている道の駅。駐車場のほか、鮮魚、農産物などの生鮮食品や土産物の販売店、食堂、公衆トイレがある。リゾートホテル、白浜キャンプ場が隣接している。

「道の駅 宍喰温泉」は徳島県海陽町の観光拠点で、土産物や食品の売店、情報コーナー、観光案内所、海陽町産品直売所「すぎのこ市場」がある。隣接するホテル「リビエラししくい」は海の見える展望大浴場の日帰り入浴もできる。

これらの施設はすべて広い駐車場を備え、パークアンドライドや観光バスとの連携が可能。DMVは徳島県海陽町と高知県東洋町の観光拠点を結ぶネットワークを形成する。また、鉄道運行区間は高架区間が多く、DMVそのものが「動く展望施設」として機能する。

定期運行ルートに関して、阿波海南駅周辺および甲浦駅周辺の観光スポットを巡回するルートも提案されていた。室戸方面も土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点、奈半利駅まで運行する案があった。しかし、現状でDMVの保有両数が3両、うち1両は予備車両とすると、稼働できる車両は2両。通常は定期運行で1両、多客時の続行運転でプラス1両となる。室戸方面までの所要時間を考慮すると、1往復が限界だろう。

  • 室戸方面の運行ルート(地理院地図を加工)

定期運行は小規模で開始し、今後のルート展開は様子を見ながらといったところ。室戸方面は室戸世界ジオパークセンターが既存のバスの結節点になっているため、既存のバス事業者と連携した周遊ルートを旅行者に提案していくことになりそうだ。

運行開始までのスケジュールについて、具体的な日付は定まっていない。これは性能試験をはじめ、事業申請と認可などの未確定要素があるためだ。とくに「安全性を証明」することに関して、国土交通省との協議の結果、1月頃に「書面による安全性の証明」、夏頃に「性能試験の項目、実施方法の確認」「試験実施」、秋頃に「性能試験結果の提出」という手順が決まっている。

もっとも、JR四国との協議があることを考えると、2021年春のダイヤ改正に合わせて運行開始が有力だろう。そうなると、2020年12月中にダイヤが発表されると予想される。待ちに待った運行開始は2021年春。ただし、現在の鉄道運行の乗り納め、撮り納めを行うなら夏まで。春の「青春18きっぷ」シーズンに訪れたほうが良さそうだ。