7月10日、国土交通大臣はなにわ筋線の鉄道事業を許可した。報道は「大阪中心部と関西国際空港のアクセスが大きく変わる」「JR西日本は新大阪・京都と関空を直結し、南海電鉄は梅田進出を果たす」など、おもに大阪視点だった。しかし、なにわ筋線の影響力はもっと広く、近畿圏以外の全国、あるいは海外から来訪する人々にとっても利点が多い。そこから阪急電鉄の焦りも浮かび上がる。

  • なにわ筋線と周辺の路線の関係。地理院地図を加工(画像:マイナビニュース)

    なにわ筋線と周辺の路線の関係(地理院地図を加工)

なにわ筋線は大阪駅北側の北梅田(仮称)駅から南下し、なにわ筋こと大阪府道41号の地下を通って、JR西日本のJR難波駅、南海電鉄の新今宮駅を結ぶ。全線のうち約6.7kmが地下、南海電鉄の高架線に合流する部分だけ0.3kmの掘割と0.4kmの高架になる。整備・保有はJR東西線と同じ関西高速鉄道が担う。営業はJR西日本と南海電鉄が実施する。

JR西日本はJR難波駅から阪和線経由で関西空港駅へ至る。大阪市が2019年3月に公開した「なにわ筋線事業計画に係る都市計画素案説明会」資料によると、北梅田(仮称)~関西空港間の所要時間はJR線経由で44分とのこと。北梅田(仮称)駅から新大阪駅まで貨物線を旅客化するプロジェクトも進行中で、米原駅・京都駅・新大阪駅と関西空港駅を結ぶ特急「はるか」はこのルートを走行すると予想される。

南海電鉄は新今宮駅の北側でなにわ筋線と合流させる。大阪市の資料によると、北梅田(仮称)~関西空港間の所要時間は南海線経由で45分とのこと。産経新聞2017年5月23日付「南海『ラピート』新大阪乗り入れ、『なにわ筋線』4駅を新設 事業計画発表へ」では、南海電鉄の関空特急「ラピート」もなにわ筋線経由となり、北梅田(仮称)~新大阪間はJR線に乗り入れる予定と報じられた。南海電鉄も「ラピート」向けの新型車両を検討している。現行の50000系はなにわ筋線開業時に製造から36年を迎える。経年劣化問題もあるし、そもそも先頭車前面に貫通路がないため、地下路線を運行できない。

2019年7月現在、南海電鉄の関空特急「ラピートα1号」は難波~関西空港間を35分で結んでいる。北梅田(仮称)~関西空港間の南海線経由の所要時間が45分の見込みだから、差し引き10分がなにわ筋線の北梅田(仮称)~南海新難波(仮称)間の所要時間といえそうだ。

なにわ筋線の構造は前述の「なにわ筋線事業計画に係る都市計画素案説明会」に詳しく掲載されている。中之島(仮称)駅は2面2線型で、片面ホームを上下階に1つずつ設置。西本町(仮称)駅は1面2線の島式ホーム。南海新難波(仮称)駅は2面2線式で片面ホームを1つずつ設置する。阪神高速道路の基礎を挟むため、上り・下りの線路が離れている。

北梅田(仮称)駅はなにわ筋線より早く、2023年春の開業が予定されている。2018年5月に工事現場が報道公開されており、島式ホーム2面4線となっていた。なにわ筋線の開業までは、関西空港駅発着の特急「はるか」、京都駅・新大阪駅から和歌山・白浜・新宮方面へ向かう特急「くろしお」が停車する。また、正式には未発表ながら、おおさか東線を新大阪駅から北梅田(仮称)駅へ延伸するとみられる。

■周辺の鉄道事業者にも影響を与える?

なにわ筋線が開通すれば、JR西日本・南海電鉄だけでなく、他の鉄道事業者などにも影響を与えるだろう。

京阪電気鉄道の沿線からは、中之島線中之島駅でなにわ筋線に乗換え可能となる予定。関西空港方面の移動がより便利になる。関西国際空港から京都方面へ行くならJR線の特急「はるか」が乗換えなしで便利だけど、京阪電車への乗換えで宇治方面や京都市内の祇園四条・三条・出町柳方面、さらに叡山電鉄への乗換えで鞍馬・比叡山方面へアクセスしやすくなる。観光誘客のチャンスは大きい。

近畿日本鉄道、阪神電気鉄道は大阪難波駅と南海新難波(仮称)駅が近い。現在も大阪難波駅から南海電鉄の難波駅へ乗り継ぐ人は多いけれど、南海新難波(仮称)駅の開業で徒歩距離が半分以下になりそうだ。京阪神以外から奈良・伊勢志摩方面、神戸・三宮方面へ行く旅行者はなにわ筋線の開業に注目したい。

大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)にとって、なにわ筋線は気になる存在だろう。新大阪駅から難波方面へ直結する路線は現在、御堂筋線の独壇場といえる。大阪の地下鉄は便利だから、新大阪駅から御堂筋線に乗り換える人も多い。

しかし、なにわ筋線が開業すると、新大阪駅からJR線で難波方面へ直行できるようになる。しかも長距離鉄道きっぷの乗客は「大阪市内」扱いで追加料金がかからないから、御堂筋線に乗り換える人は減りそうだ。これを顧客の減少とみるか、御堂筋線の混雑率の低下として歓迎するか。複雑な心境に違いない。また、四つ橋線は難波~玉出間で南海線と並行している。南海線が北梅田(仮称)駅へ到達すれば、さらに競合区間が長くなる。

なにわ筋線構想では当初、南海汐見橋線経由という案もあった。都会の中のローカル線として風情のあった汐見橋線に脚光が当たったけれど、その後、現在のルートに決まった。汐見橋線の今後が気になるところだけど、なにわ筋線から離れたルートのため、なにわ筋線の開業を理由に即廃止とはならないだろうと予想する。

■阪急電鉄の今後の動向にも注目

なにわ筋線の開業によって、関西空港アクセスの流れが変わる。しかし、いまのところ関西大手私鉄で唯一、この動きの恩恵を受けない会社がある。阪急電鉄だ。なにわ筋線の北梅田(仮称)駅と阪急電鉄の梅田駅は近いけれども、JR大阪駅を挟んで反対側という立地にある。南海電鉄はもちろんのこと、近鉄や阪神のように「関西空港へ便利になる」とは言いがたい。阪神電気鉄道と同じ企業グループだからといって、阪急電鉄が関西空港に不便で良いはずはなく、むしろグループ企業だからこそ見劣りしたくない。

  • 伊丹空港と関空のアクセス路線。赤色がなにわ筋線、水色がJR西日本、茶色が南海電鉄、焦げ茶色が阪急電鉄、黄色が大阪モノレール(地理院地図を加工)

もちろん阪急電鉄も承知しているはずで、2017年5月には大阪府・大阪市・JR西日本・南海電鉄・阪急電鉄の5社名義でなにわ筋線の整備に向けて協力すると発表している。

阪急電鉄は北梅田(仮称)駅の北側で分岐し、十三駅を結ぶ連絡線を検討している。この路線は狭軌で建設されるため、阪急電鉄の各線へ直通できない。しかし、阪急電鉄はその一方で、十三駅と新大阪駅を結ぶ連絡線と、宝塚線から分岐して伊丹空港まで結ぶ支線を検討している。すべて実現すると、阪急電鉄の沿線は2つの空港と新幹線接続の恩恵を受けられる。

鉄道とバスの競合と、伊丹空港と関西空港の関係についても知っておきたい。関西空港~大阪(梅田)間の空港連絡バスは所要時間約60分と案内されている。これは現在の阪和線関空快速の70分に対して優位に立っている。ただし、なにわ線が開業すると、関西空港駅から北梅田(仮称)駅まで44分となる。26分短縮の効果は大きい。

伊丹空港~大阪駅間の空港連絡バスは約30分。一方、大阪空港駅から梅田駅までは蛍池駅で大阪モノレールから阪急宝塚線へ乗り換える必要があるものの、所要時間は約22分で現在も鉄道が早い。なにわ筋線の開業後も、梅田駅への所要時間は伊丹空港からのほうが早い。ただし、伊丹空港対関西国際空港については、航空サービス込みで考えたい。関西国際空港はLCC利用客の増加で、空港アクセス路線の需要が高まっている。なにわ筋線はその期待に応えるための路線といえる。

ビジネス需要で手堅い伊丹空港と、海外を中心に旅行客が増えている関西国際空港。どちらも手を伸ばせる阪急電鉄の動向に注目したい。