毎年恒例となっている鉄道友の会ブルーリボン賞・ローレル賞が先週発表された。2017年に営業運転を開始した新造・改造車両が対象で、今回の候補は18形式だった。受賞理由には納得できる。しかし、選外となった車両も歴史に残る名車の予感。営業面、技術面では受賞車両より優れている点もある。

  • 昨年デビューしたJR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」。ブルーリボン賞・ローレル賞の選外となったが…

毎日新聞の5月24日付記事「鉄道友の会 SLやまぐち号客車にブルーリボン賞」を読むと、今回の選考は激戦となった模様だ。候補となった18形式を見てみよう。鉄道友の会が配布した投票用紙の順を表にまとめた。

運行会社 形式名 備考
JR東日本 E353系 中央本線「スーパーあずさ」など
JR東日本 E001系 「TRAIN SUITE 四季島」専用車
JR東日本 EV-E801系 男鹿線など交流充電式電車
JR貨物 DB500形 入替作業用小型ディーゼル機関車
東武鉄道 500系 特急電車「リバティ」
東武鉄道 70000系 日比谷線直通向け通勤電車
西武鉄道 40000系 座席指定列車「S-TRAIN」向け通勤電車
京王電鉄 5000系 座席指定列車「京王ライナー」向け通勤電車
東京地下鉄 13000系 日比谷線向け通勤電車
東京都交通局 320系 日暮里・舎人ライナー
横浜市交通局 3000V系 ブルーライン用3000形の5次車
JR西日本 87系 「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」専用車
JR西日本 35系 「SLやまぐち号」専用客車
京阪電気鉄道 8550形 座席指定車両「プレミアムカー」
JR四国 2600系 特急用気動車。空気バネ式車体傾斜機構搭載
伊予鉄道 モハ5000形 市内線向けLRV
西日本鉄道 9000形 ロングシートタイプの通勤車両
鹿児島市交通局 7500形 市電向けLRV「ユートラム III」

ブルーリボン賞・ローレル賞車両の評価点は

既報の通り、ブルーリボン賞(最優秀車両)はJR西日本の35系客車となった。鉄道友の会は受賞理由を「35系客車は開発コンセプトを高いレベルで具現化した点や蒸気機関車列車を永続的に運行するための一つの方向性を示した」と説明している。

  • 今年のブルーリボン賞は「SLやまぐち号」の35系客車

蒸気機関車を動態保存し、運行させるには蒸気機関車の維持が絶対条件。ただし、SL列車の旅を楽しむためには客車も重要になる。蒸気機関車と同様、客車も老朽化していく。そこで、当時とは異なったとしても、比較的新しい客車を連結する事例も多い。旧型客車を常時運行できる会社はJR北海道、JR東日本、大井川鐵道、津軽鉄道のみとなっている。

JR西日本は「SLやまぐち号」の客車の老朽化に直面した。先代の客車は12系客車を旧型客車風に改造しており、屋根上の冷房装置に名残が見える。JR西日本には「SL北びわこ号」などに使う12系客車があるけれども、登場時の青い車体のまま使われている。

既存の客車を改造・流用せず、JR西日本は戦中戦後に製造された35系の形式を復活させ、あえて新製の客車を作った。SL列車に似合う専用デザインの客車の新造は、少なくともこの客車の寿命までSL列車を維持するという意思表示でもある。営業面では正しい、まっすぐなメッセージだ。これを鉄道趣味人が歓迎するのも当然といえる。

ローレル賞(優秀車両)にはJR東日本E353系、東武鉄道500系、鹿児島市交通局7500形が選ばれた。E353系の受賞理由は「斬新なデザインと高機能を備え、急曲線線区のスピードアップを担うホープ」とのこと。先代E351系は振子式車体傾斜装置を採用し、スピードアップは実現した。しかし乗り心地は不評だったという。E353系は空気バネ式として、繊細な傾斜制御を可能としたほか、フルアクティブサスペンションを搭載して乗り心地を改善した。どちらも新しい技術というわけではない。鉄道友の会の会員投票で上位になった「カッコいい車両」のうち、特筆する技術があったということだろう。

「リバティ」の愛称を持つ東武鉄道500系は、同社にとって20年ぶりの新型特急車両だった。受賞理由には「東武鉄道がこれまでにない運行形態を実現」したとある。これまでにない運行形態とは、東武線において列車の分割・併結を行う特急列車であること。3両編成を1単位とし、下り「リバティけごん」「リバティ会津」は2編成連結した6両編成で浅草駅を発車し、下今市駅で東武日光行と会津田島行に分割。上りは逆で、3両編成で発車し、下今市駅で併結して6両編成となり、浅草駅に戻る。他に東武動物公園駅で東武日光行と館林行に分割する特急列車や、大宮行・運河行に分かれる通勤特急もある。

行先による列車の分割・併結は、国鉄時代の急行列車などで多く見られ、現在も東北新幹線や寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」、小田急ロマンスカーEXE・MSEなどで見られるものの、希少な事例となっている。東武鉄道500系「リバティ」は、営業面でも合理的で、趣味的にも眺めて楽しい。その事例が増えたことは鉄道ファンとして喜ばしい。

鹿児島市交通局7500形は鹿児島市電の3代目の超低床式電車で、愛称は「ユートラム III」。受賞理由は「超低床式路面電車の新しい構造を実現」したことだという。新しい構造とはモーターを台車に取り付ける方式で、要するに多くの電車で見られる方式だけど、台車にモーターを取り付けるために台車が大きくなり、これまで超低床式路面電車では採用できなかった。

従来の超低床式路面電車は、「車軸を使わずに左右の車輪を独立」「モーターを台車から離して継ぎ手で車軸を動かす」という方式が一般的だった。したがって、モーター設置部分が低床化できない。「ユートラム III」はこの方式ではなく、台車に超小型モーターを取り付けて100%の低床化を実現したという。開発・製造は大阪府のアルナ車両。つまり国産の路面電車で、「在来式小型台車」と「100%の低床化」が受賞のキーワードとなった。かなり技術評価の高い受賞といえる。

選外車両も評価されるべき名車が多い

今回、ブルーリボン賞・ローレル賞の選外となった車両も、技術面・営業面で優れた車両が多い。営業面ではJR東日本E001系、JR西日本87系、京阪電気鉄道8550形、西武鉄道40000系、京王電鉄5000系を挙げたい。

JR東日本E001系は「TRAIN SUITE 四季島」専用車両として、構造や素材に贅を尽くした車両となっている。クルーズトレインはJR九州「ななつ星 in 九州」の前例があるとしても、豪華さの演出において、「皇居新宮殿やバチカン宮殿でも使われる絨毯」など素材選びにもストーリー性を持たせ、乗客の喜びをくすぐる。JR西日本87系「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」は、1両1室の「ザ・スイート」をはじめ、大胆で贅沢なサービスが特筆される。

京阪電気鉄道8550形は「プレミアムカー」に改造された車両で、近畿圏での上級席への挑戦を評価したい。首都圏のJR線だと、快速・普通列車はほぼロングシート、快適に座りたければ有料のグリーン車、あるいは座席指定のライナー列車という利用方法が定着している。近畿圏のJR線は首都圏ほど混雑せず、クロスシートの快速・普通列車も走っている。京阪間では阪急京都線や京阪特急もクロスシートで、満足度は高そうだ。そこにあえて京阪電気鉄道が上級席を採用してきた。これが新たな「快適着席需要」の掘り起こしにつながっているといえる。

一方、西武鉄道40000系・京王電鉄5000系は首都圏における有料座席指定列車の定着という点で象徴的な車両となった。とくに西武鉄道40000系を使った「S-TRAIN」は、いままで有料座席指定列車を持たなかった東急電鉄・横浜高速鉄道を巻き込んだ点を評価したい。京王電鉄5000系も、同社初の有料列車「京王ライナー」への挑戦を評価する。複々線化が計画されている笹塚~つつじヶ丘間の急行線も見据えた戦略だと思う。

技術面で注目すべき車両としては、東武鉄道70000系と東京メトロ13000系、JR東日本E001系、京王電鉄5000系を挙げたい。

東武鉄道70000系と東京メトロ13000系は、どちらも東京メトロ日比谷線・東武スカイツリーライン直通車両で共通仕様が多く、1組でとらえる。どちらも、日比谷線において初となる長さ20mの大型車体が採用された。日比谷線は急カーブが多いため、これまで設計上は18m車体の車両で運行されてきた。しかし東武線内で20m車体の車両と混在するため、ホームドア設置などで不都合もある。そこで日比谷線の建築限界を再調査したところ、20m車体が採用できる見通しが立った。そこで両者が新たに20m級の新型車両を製造した。操舵式台車を採用し、走行性能を高めた点も評価したい。

東武鉄道70000系は赤色を多用した斬新なデザインとなり、グッドデザイン賞も受賞している。東京メトロ13000系も、鉄道ファンからの視点として、日比谷線の初代3000系から続く「運転席の曲面ガラス」の伝統が残されている点に注目したい。一部列車でBGMとしてクラシック音楽を流す試みもユニークだった。

JR東日本E001系は営業コンセプトも良いけれど、「EDC方式」も特筆に値する。電化区間は電車として、非電化区間はディーゼルエンジンを使い、自主発電でモーターを回す。日本初の技術であるけれども、JR東日本はこれを他の車両に転用するつもりはないらしい。以前、「TRAIN SUITE 四季島」の企画に携わった方に話を聞いた際、「特別な列車の可能性の1つとしてやってみた」とのことだった。

静粛性を重視するクルーズトレインにとって、ディーゼルエンジンの搭載はリスクだろう。静粛性を担保するなら、非電化区間は機関車で牽引したほうがいい。しかし、それでは機関車側の展望を阻害するし、走る風景として編成美に反する。そこで、徹底した防音処理の下でEDC方式となった。「TRAIN SUITE 四季島」だから必要な技術といえる。

京王電鉄5000系は「京王ライナー」という営業施策だけでなく、「電車でありながら蓄電池を搭載」というシステムがユニーク。この蓄電池は常用ではなく、停電などで列車が立ち往生したとき、最寄り駅まで走る場面などに使う。また、回生ブレーキを使おうとして、架線に電流を戻せない場合の受け入れ先としても使う。つまり、この蓄電池は走行装置でありながら安全装置でもある。JR東海の次期新幹線車両N700Sにも採用された。

  • 京王電鉄の新型車両5000系。車上蓄電池システムも導入した

JR東日本EV-E801系はJR九州の交流蓄電池電車BEC819系をベースとしている。BEC819系は昨年のブルーリボン賞に選ばれた。JR貨物DB500形はペダル式のアクセルを使う小型でかわいい機関車として面白い。東京都交通局320系は日暮里・舎人ライナーの新型車両で、斬新なデザインだけど、2年前にデビューした330系に比べると、車体の素材がアルミからステンレスに変わった程度に見える。

横浜市交通局3000V系はワンマン運転に特化した運転席が特徴といえるけれど、3000系列のマイナーチェンジの感が強い。JR四国2600系は気動車で空気バネ式を採用した意欲作だけど、運行予定だった土讃線で傾斜装置を運用しにくいとわかり、先行車のみに終わることとなった。伊予鉄道モハ5000形は北欧風の美しい車体で、先代LRVより2割以上の定員増となった。営業面では優秀だ。西日本鉄道9000形は走行系や照明系統に徹底した省電力化を達成している。ただし、鉄道趣味的には地味な利点かもしれない。

営業面、技術面で評価すると、ブルーリボン賞・ローレル賞の受賞車両の他にJR東日本E001系、京王電鉄5000系はもっと高く評価されてもいいと思う。鉄道友の会の各賞は趣味的分野で欠かせない存在だけど、事業性、技術性、マーケティングの視点で新しい賞が新設されたら、鉄道業界はもっと盛り上がりそうな気がする。