JR西日本が新快速に有料座席車の導入を検討していると報道された。京阪「プレミアムカー」の好調に加え、始発駅ではない駅で確実に座りたいという要望もありそうだ。京阪神インバウンド需要、北陸新幹線延伸など、さまざまな要素が検討されるだろう。

  • 新快速に有料座席車の導入を検討していることが報じられた

日刊工業新聞の電子版が6月5日に「JR西、『新快速』区間に有料席 22年度までに導入へ」と題した記事を配信した。この報道に産経新聞が続き、共同通信も配信して関西のテレビ局などが報じた。JR西日本から正式な報道発表はまだない。構想中の案件は毎月20日前後に行われる定例社長会見で紹介されることが通例となっており、6月の定例社長会見、あるいは6月21日の株主総会で続報があるかもしれない。

ネットニュースを追う限り、日刊工業新聞が初出という点が興味深い。JR西日本は4月27日に発表した中期経営計画で、「着席ニーズにお応えする車両をさらに導入します」と明記していた。中期経営計画は2018~2022年度を対象としているから、2023年3月までに有料座席車を導入する目標については既知の情報となる。そこへ工業系新聞が「新快速」と情報を加えて報じるからには、構想が実現に向かって一歩進んだと見ていい。

京阪神間は並行する大手私鉄との競争が激しく、国鉄時代から快速運転を実施してきた。それでも私鉄は運賃や座席の快適性で優位に立っていた。そこで国鉄は複々線という設備面の強みを生かし、スピード面で勝負に出た。その切り札として新快速が登場した。新快速の現在の運行区間は、京都・大阪・神戸の東海道本線を中心として、西は山陽本線上郡駅・赤穂線播州赤穂駅、東は北陸本線敦賀駅に至る。

  • 新快速の運行区間

新快速は当初、セミクロスシートの近郊形電車113系を使用した。その後、全席ボックスシートの急行形電車153系が充当された。さらに座席を改善するため、1980年から新快速専用の設計で転換クロスシートを採用した117系が導入され、これで私鉄の無料特急と遜色のない体制が整う。ただし、関東で見られるような快速・普通列車のグリーン車は、117系では採用されなかった。117系は普通車であっても当時の国鉄グリーン車に準じる設備だったため、料金を取れるほどの差異がなかったようだ。

JR西日本発足後、新快速のみならず、快速などにも転換クロスシートが普及した。関東の通勤利用者から見ればうらやむほどのサービスだった。JR東日本のグリーン車の座席でも、JR西日本の利用者は満足しないかもしれない。それだけに、有料座席車が導入されるとなれば、かなり特別感のある設備が求められるはず。JR西日本が快速・普通列車で有料座席を導入した事例といえば、岡山~高松間の快速「マリンライナー」が浮かぶ。ただし、グリーン車・指定席はJR四国の車両で、観光用途の意味合いも強い。

新快速の有料座席車も、通勤客向けだけではなく、観光客の利用を念頭に置いた設定になると思われる。京阪電気鉄道が昨年導入した「プレミアムカー」の好評に刺激を受けたに違いない。「プレミアムカー」は1列+2列の大型リクライニングシートで、大型テーブルも備えた豪華設備が特徴となっている。料金は短距離が400円、長距離でも500円。財布のひもが固いといわれる近畿圏の利用者にも好評だという。

新快速の有料座席車も「プレミアムカー」と同等の仕様、同等の料金にならないと、まず京阪間で勝負にならないと思う。ただし、新快速の走行距離は長いから、京阪間で500円、阪神間で500円、京阪神間で1,000円というような設定もアリだろう。1,000円になると通勤客からは敬遠されるかもしれないけれど、新幹線の特急料金と比較すれば安い。観光用途として考えれば、これでも成り立つ。

つまり、新快速は京阪「プレミアムカー」と同様、国内外の観光客に対して「京阪神間で快適な移動を提供する」という意味を持つことになる。JR西日本にとって、京阪間はJR東海が運行する東海道新幹線もライバルだ。阪神間は自社の山陽新幹線と食い合いになる可能性があるけれども、新大阪駅・新神戸駅ともに中心部から離れており、この区間だけの利用はもともと多くないと思われる。

もうひとつ、新快速の有料座席車は北陸新幹線の敦賀延伸開業も見据えているだろう。フリーゲージトレインの可能性はほぼ消え、敦賀駅から京都・大阪方面は在来線と接続することになる。現行の特急「サンダーバード」は大阪~敦賀間を最速で結ぶけれども、新幹線開業後は特急料金なしでそこそこ早く着く新快速を利用する人も多いはずだ。神戸や姫路にも乗換えなしで行けるから、新快速の役割も重くなり、着席保証列車の必要性も高まるだろう。

現在の新快速は大半が12両編成で運行される。8両編成を基本とし、混雑区間で4両を増結する。ここに有料座席車を1両組み込む形になるだろう。料金を加算しても、定員が少ないと投資効果がないから2階建てとなり、階上席は観光客向け、階下席はビジネス向けになるのではないかと予想する。現在、12両編成での運行区間は、西が上郡駅、東が米原駅・近江今津駅までとなっており、末端区間は短編成になる。需要から考えても、12両編成での運行区間は京都・大阪・神戸・姫路を含むから妥当だろう。

ただし、北陸新幹線開業後は有料座席車を連結した編成で敦賀駅まで運行したい。現在の米原・近江今津~敦賀間は4両編成で運行されており、1両追加するなら停車駅のホームも延伸して対応すると思われる。電動車中心の225系に2階建て付随車を連結できるのか、あるいは平屋の電動車とするのか。そもそも、有料座席車は既存車両の置換えで導入し、編成の長さはそのままにするのか、あるいは1両追加して最長13両編成にするのか……。さまざまな選択肢があり、それも含めて「検討中」なのだろう。

訪日外国人旅行者の利用については未知数だ。先日、南海電鉄の「天空」と特急「こうや」に乗ったけれど、乗客は日本人ばかりだった。一方、すれ違う普通列車は外国人の姿が目立った。高野山にはたくさんの訪日外国人旅行者が訪れるけれど、彼らは有料列車に乗っていなかった。しかし、観光客にとって、混雑区間でも安心して座れる列車はありがたいはず。運用や料金設定、告知方法など、考慮する要素は多いけれど、新快速の有料座席車は実現してほしい。新幹線と同じ区間なら、筆者はこちらに乗りたい。