この6月より、大企業を対象に「労働施策総合推進法」、いわゆる「パワハラ防止法」が施行された(中小企業は2022年4月1日から)。今後はこの法律により経営者・労働者がパワハラの知識を深め、かつパワハラ防止に努めることが義務となり、これまで無意識あるいは意識的になされていたパワハラ行為が減少していくことが期待されている。

  • パワハラを受けた人はその後どうした?

    パワハラを受けた人はその後どうした?

前回お送りした記事では、職場におけるパワハラの実態について、「いったい誰から、どんなパワハラを受けていたか」を具体的なエピソードとともに聞いた。そこでは実際のパワハラの、リアルかつ深刻な事例の数々が語られていたのだが、今回はそれらのパワハラ被害に対して、どう対応をしたのかを確認してみたい。

前回同様、マイナビニュース会員506人にアンケートを実施し、「職場でパワハラを受けた時、どのように対応したか」を聞いた。

  • あなたは職場でパワハラを受けたことはありますか?

    あなたは職場でパワハラを受けたことはありますか?

Q.あなたは職場でパワハラを受けたことはありますか?

「はい」(67.0%)
「いいえ」(33.0%)

  • あなたは職場でパワハラを受けたことはありますか?

    パワハラを受けた時、どのように対応しましたか?

Q.パワハラを受けた時、どのように対応しましたか?

1位「何もしなかった」(59.3%)
2位「パワハラをする人とは別の上司や先輩に相談した」(17.1%)
3位「退職した」(10.3%)
4位「社内の相談窓口へ連絡した」(3.5%)
4位「その他」(3.5%)
6位「パワハラをする人と直接話をした」(3.2%)
7位「公的機関に相談した」(1.8%)
8位「弁護士に相談した」(1.2%)

Q.その対応を選んだ理由と、その後どうなったかを教えてください

■「何もしなかった」

・「平成初期の頃で、パワハラはどの会社でも普通に行われていたから」(55歳男性/信託銀行/事務・企画・経営関連)
・「誰に相談しても無駄なことは分かっているし、それが不満だったら辞めるしかない。でも生活がかかっているので辞められない」(59歳男性/医療・福祉・介護サービス/公共サービス関連)
・「波風立てると睨まれる社風なので我慢したが、その上司とは本当にやむを得ない時以外、自然と一切話をしなくなった」(51歳男性/ビル管理・メンテナンス/技能工・運輸・設備関連)
・「組織を見ていて誰に何を言っても解決するとは思えなかったし、更に酷くなると思ったから。その後、中心人物が転勤になったので、残党はかなり大人しくなった」(24歳女性/繊維・アパレル/事務・企画・経営関連)
・「私は気にもせず、普通にしていた。自分から何もアクションをしていないが、会社自体で教育があった模様」(40歳男性/食品/営業関連)
・「何もしないというか、本当に自分の責任だと思い込んでいた。なので仕方ないと思って働いた。パワハラというのはその後に、『あれはそうなのか』という感じで気付いた」(51歳男性/レジャーサービス・アミューズメント・アート・芸能関連/営業関連)
・「パワハラという概念が以前はなかったし、自分が我慢すれば良いと思っていたので特に何もしなかった。現在は特に何もないが、社内の男性たちは『パワハラは我が社にはない』と思っていると思う」(45歳女性/専門店/事務・企画・経営関連)
・「これからも仕事を続けなければならないから。何も変化ない」(67歳男性/信用組合・信用金庫・労働金庫/事務・企画・経営関連)

■「パワハラをする人とは別の上司や先輩に相談した」

・「配置転換により、問題の上司と一緒に仕事をしなくてよくなった」(40歳男性/建設・土木/事務・企画・経営関連)
・「普段より付き合いのある上司に相談し、ある程度改善されたが、基本的には時間がたてば元に戻ってしまう」(65歳男性/電力・ガス・エネルギー/公共サービス関連)
・「上司も私と同じ思いを持っていたようで味方をしてくれるのですが、本人はまったく自分の落ち度に気づくことなく、いばり散らしています」(43歳女性/百貨店/販売・サービス関連)
・「他の上司や先輩に相談し、善後策を考えて、それを実行した。パワハラ上司の行動は急には直らなかったが、気持ち的には楽になった」(56歳男性/専門商社/事務・企画・経営関連)
・「女性上司よりも立場の上の人に相談して、話し合い、その女性上司は降格してしまいましたが、元女性上司からの嫌味や嫌がらせなどの行為は少しありました」(47歳男性/建設・土木/建築・土木関連技術職)
・「告げ口するみたいであまり気分は良くなかったのですが、管理職である上司に事実をそのまま報告して、適正な判断をしてもらいたいと思いました。その後、部署内の仕事の配分は上司に指示してもらうようになり、一方的に先輩社員から仕事を押し付けられることは無くなりました」(53歳女性/サービス/その他・専業主婦等)

■「退職した」

・「誰も見て見ぬ振りで、解決する可能性は皆無だったので退職した。その後のその人の動向は特に何もなく、皆から怖がられていることを再認識した」(60歳男性/フードビジネス/IT関連技術職)
・「まだ若かったので、辞めるなら早く辞めて次を探した方が良いと思った」(41歳男性/通信関連/事務・企画・経営関連)
・「結果として退職しました。悔しいですし、それ以上に悲しかったですが居場所が無くなり、相談した外部の方から同業他社を紹介されたので転職しました。風の便りではその上司は、そのあと数名の部下に同じようなことをしたのですが一切お咎めがなく、順調に出世して役員まであと一歩とのこと。いまだに悔しくてたまりません」(48歳男性/ホテル・旅館/事務・企画・経営関連)
・「社長に直訴すればクビに出来たかもしれないが、再就職は厳しいだろう。本人の罪もない配偶者と在学中の子どもに不幸を背負わせたくないと考えて」(57歳男性/医療・福祉・介護サービス/専門サービス関連)

■「社内の相談窓口へ連絡した」

・「社内で揉み消された」(45歳男性/その他電気・電子関連/メカトロ関連技術職)
・「会社は理解してくれて、当人から席を離したりしてくれた」(57歳男性/その他/専門職関連)
・「席替えをしていただき、話すことはなくなったが、派遣契約の更新はされなかった」(52歳女性/その他電気・電子関連/事務・企画・経営関連)

■「パワハラをする人と直接話をした」

・「今後はそのようなことがないように依頼した」(50歳男性/不動産/事務・企画・経営関連)
・「静かになった」(53歳女性/教育/専門職関連)
・「何も言わなくなり、今では固定シフト」(50歳男性/フードビジネス/販売・サービス関連)

■「公的機関に相談した」

・「ハローワークの相談窓口に今の現状を相談してみましたが、話を聞いてくれるだけで何も解決には至りませんでした。結局その上司は社外で不祥事を起こして、退職して行きました」(52歳男性/その他/技能工・運輸・設備関連)

■「弁護士に相談した」

・「証拠になるようなものがなければ、という助言を受け、今からだと遅いけれど高性能のボイスレコーダーを購入しました。それと、一回や二回だとただの『行き過ぎた指導』と捉えられるので回数や期間も重要。そして日記も毎日つけるようにとのことでした」(46歳女性/サービス/事務・企画・経営関連)

■「その他」

・「ぐっと我慢し、家で愚痴った」(35歳男性/海運・鉄道・空輸・陸運/事務・企画・経営関連)
・「無視。関わりたくなかったので。相手をしなくなったら、向こうの方が困惑していた」(34歳男性/ホテル・旅館/販売・サービス関連)
・「職場の人に聞いてもらって、気分転換をした。気持ちがすっきりした。上司は、他の会社との揉め事が原因で左遷されたので二度と会うことはなかったが、今でも当時のことを思い出すと、何らかの処罰を与えたいと思ってしまう」(58歳女性/官公庁/事務・企画・経営関連)
・「派遣会社の営業担当に相談しました。すぐに対応していただいた結果、上司が他の支店に異動(左遷)になった」(43歳女性/流通・チェーンストア/販売・サービス関連)
・「会社が潰れるまで居残った。経営の判断を誤った者がその責任を我々に転嫁してきたので、断固として戦った。取引先に迷惑がかからないように、会社の現状の情報提供や諸々の謝罪などで忙しかった」(59歳男性/サービス/建築・土木関連技術職)
・「自殺を考えた。誰も信用できないから」(42歳男性/教育/専門サービス関連)

■総評

調査の結果、職場でパワハラを受けたことがあると回答した67.0%の人たちのうち、パワハラを受けた時に「何もしなかった」人は59.3%に上った。

以下、2位「パワハラをする人とは別の上司や先輩に相談した」(17.1%)、3位「退職した」(10.3%)、4位「社内の相談窓口へ連絡した」「その他」(各3.5%)、6位「パワハラをする人と直接話をした」(3.2%)、7位「公的機関に相談した」(1.8%)、8位「弁護士に相談した」(1.2%)と続いている。「何もしなかった」と「退職した」を合わせると7割近くとなり、パワハラ被害に積極的に対峙している人はむしろ少数派であることがわかった。

パワハラを受けても「何もしない」という人が過半を占めた。その理由としては、アクションを起こしたところで「何も変わらない」「無駄」とする声が多かった。また、「報復が怖い」「もっと悪くなる」と考えている人も目立つ。さらには「パワハラは普通のことだった」「自分が悪いと思っていた」というコメントもあり、パワハラがある状況に慣れてしまい、それがパワハラであることさえ認識していなかったという、より深刻な実態も明らかになった。

「退職した」に関しては「パワハラをするような上司がいるような職場や会社であれこれ悩むよりも、いっそ辞めてしまおう」ということで、これはこれで抜本的な解決につながるアクションかもしれない。寄せられたコメントも、本人がすっきりと納得していることがうかがえるものが多い。

一方で、何らかの働きかけを通じて事態の改善を図った人もいる。「パワハラをする人とは別の上司や先輩に相談した」や「社内の相談窓口へ連絡した」など自社内の人間関係や機能を使ってのアプローチがそれにあたる。これらには「効果がなかった」という声もある一方で、「態度が改まった」「配置転換になった」など、一定の成果を認める意見も見られた。

よりポジティブなアクションとしては、数は多くはないものの「パワハラをする人と直接話をした」人もいた。「あれこれ悩むくらいなら、相手と直接対決しよう」という明快な思考だが、届いた声によれば「効果がある」やり方のようだ。

また、ごく少数だが「公的機関に相談した」や「弁護士に相談した」など外部の力を借りて解決を目指した人もいた。だが、こちらは手間がかかったり事態が大ごとになりやすいなど、リスクを抱えた方法であるかもしれない。

今回のアンケートを通じて、パワハラ被害に遭った人の多くは、積極的にはパワハラの是正に向けた動きをしていないことがわかった。それだけ、職場におけるパワハラ問題の根の深さや対応の難しさを感じさせる。

今回のパワハラ防止法ではパワハラの定義を定め、パワハラの6類型を示した。これにより、これまで曖昧だった「業務の適正な範囲」と「パワハラ」とを区別したことで、より明確な意識を持ってパワハラ防止に取り組むことが可能となる。いままで"泣き寝入り"や"辞職"で終わっていたかもしれないパワハラ被害者が、同法で一人でも多く救済されることを願ってやまない。

調査時期: 2020年6月13日
調査対象: マイナビニュース会員
調査数: 506人
調査方法: インターネットログイン式アンケート

※写真と本文は関係ありません