この6月より、大企業を対象に「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が施行された(中小企業は2022年4月1日から)。同法では曖昧だったパワハラの定義が定められ、企業がパワハラ防止に努めることを義務付けている。これにより、これまでパワハラに遭いながらも声を上げられずにいた被害者が救済され、職場環境が改善されることが期待されている。

同時に、同法は企業にとってもパワハラ行為の抑制や、実際に起こってしまった場合の対処などがしやすくなるというメリットがある。さらに言えば労働者にとっても、パワハラの定義が示されることによって、自分が知らず知らずのうちにパワハラ行為を働いてしまった、といった事態を避けるための指針ともなり得るだろう。

  • パワハラだと訴えられた人はどれくらいいる?

    パワハラだと訴えられた人はどれくらいいる?

今回はマイナビニュース会員506人に、「パワハラだと注意されたり、訴えられたことはあるか」などを聞いてみた。

Q.あなたはパワハラだと注意されたり、訴えられたことはありますか?

  • あなたはパワハラだと注意されたり、訴えられたことはありますか?

    あなたはパワハラだと注意されたり、訴えられたことはありますか?

「はい」(13.4%)
「いいえ」(86.6%)

Q.どのような理由でパワハラだと注意されたのか教えてください

・「新入社員がミスを連発して何度も叱ったら、パワハラと言われた」(30歳男性/エステティック・美容・理容/販売・サービス関連)

・「女性に仕事上の失敗を正そうとしたら、泣かれて上に相談された」(24歳男性/コンピューター機器/メカトロ関連技術職)

・「当日欠勤を有給にしたいと後輩に言われて、『本当は有給適用できないんだよ』とやんわり注意したら裏でパワハラと言われた」(44歳女性/総合商社/事務・企画・経営関連)

・「『普通は』とか言うのは、今ではパワハラだと注意された」(52歳男性/鉱業・金属製品・鉄鋼/事務・企画・経営関連)

・「同じ間違いを何度も繰り返し全く反省もしない同僚に、つい強めに文句を言ったら、それを見た上司から指摘された」(53歳男性/輸送用機器/メカトロ関連技術職)

・「部下に仕事をするように伝えても全く仕事をしなかったので自身で進めたら、『仕事をやらせてくれない』と言われた」(43歳男性/サービス/その他技術職)

・「毎日遅刻して就業時間を守らない社員に注意しましたが、『意味もない理由で、他の社員と一緒に恫喝された』と自分が悪者にされました。髪を染めてきた社員に注意をしたところ、急に激怒されて『外見を差別した』と周りを逆に味方につけて、こちらが悪い立場に立たされました」(52歳男性/その他/技能工・運輸・設備関連)

・「自分がされたことを、結局は部下にしてしまうという負の連鎖。『残業をつけたらダメだ』というのはパワハラになるので気を付けろと、仲の良い同期に言われた。そうなると結局は自分でやることになるので、自分の残業が増えるだけ。苦しかった」(51歳男性/レジャーサービス・アミューズメント・アート・芸能関連/営業関連)

・「狭い廊下を広がって話しながらタラタラ歩いていた女性数人がいて、自分の後ろにも長い列が出来る程に混雑していたので軽く注意した。すると後日、普段会うこともないほど上の上司に呼び出され、その中の一人からパワハラを訴えられていると知らされた。直属の上司による弁明のおかげもあって懲戒処分は免れたが、その後の人事異動で、自分も注意した相手も左遷された」(41歳男性/通信関連/事務・企画・経営関連)

Q.職場でパワハラと言われないように気を付けていることはありますか?

  • 職場でパワハラと言われないように気を付けていることはありますか?

    職場でパワハラと言われないように気を付けていることはありますか?

「はい」(65.4%)
「いいえ」(34.6%)

Q.どのようなことを気を付けているか教えてください

・「仕事のミスに対してあまり感情的に注意をしたり、不機嫌な態度をしたりしないようにしている」(63歳男性/その他メーカー/その他・専業主婦等)
・「部下への指導や指示はあくまでビジネスライク、それ以外の発言は他の人を交えて、誤解のないように努めている」(56歳男性/専門商社/事務・企画・経営関連)

・「部下に注意するときなどの言葉使い。自分は関西なので自然と言葉が荒くなるので新人、特に関東出身の新人には気を付けていた。怖がられないようにするのが第一」(51歳男性/レジャーサービス・アミューズメント・アート・芸能関連/営業関連)

・「広島出身なので、普通にしゃべっとっても怒っているように思われることが多いので、なるべく標準語に近い状態で話す」(39歳男性/流通・チェーンストア/営業関連)

・「相手には相手なりの言い分があるから、冷静に相手の意見を聞くように心がけている」(59歳男性/鉱業・金属製品・鉄鋼/技能工・運輸・設備関連)

・「時間外になる仕事の依頼は、絶対しないようにしている。また、本人の担当外の仕事も依頼しない」(58歳女性/官公庁/事務・企画・経営関連)

・「社会人は年齢に関係なく皆平等だと思っているので、取引先の若い人にも『上から目線』で対応することはない。そうならないように常に気を付けている」(59歳男性/サービス/建築・土木関連技術職)
・「自分の感情はなるべく出さないようにして、怒りたいときは、ひと呼吸入れる。ちゃんと理論的に話すようにする」(64歳女性/ビル管理・メンテナンス/事務・企画・経営関連)

・「感情で怒らない。仕事と関係ない個人情報などを持ち出したりしない。叱るのではなく、協力して問題を解決するようにしています。同僚などのパワハラ気味の行為を見たら、『それはパワハラだ』と指摘します」(39歳男性/サービス/その他・専業主婦等)

・「下には一方的に、結果だけで何か言わないようにしている。そして、どうしてそのミスは起きたのか、チームで考えてもらって、チームで対策をはっきりさせてもらい、みんなの合意の署名をしてもらって、その報告書をファイリングしている」(45歳男性/医療・福祉・介護サービス/専門サービス関連)<br

・「異性の同僚と会話するときは、十分注意することです」(52歳男性/その他/その他・専業主婦等)

・「オヤジギャグも言わないように注意している」(59歳男性/教育/専門サービス関連)

・「無能な人間への叱責等はパワハラではない、とのことを周りに訴えている」(50歳男性/半導体・電子・電気機器/事務・企画・経営関連)

■総評

調査の結果、職場でパワハラを受けたことがある人が67.0%いたのに対して、パワハラだと注意されたり、訴えられたことがある人は13.4%に過ぎず、少数派となった。

どのような理由でパワハラだと注意されたのかを聞くと、「自身は正当な理由で指導や叱責をしたのだが、それをパワハラと受け取られてしまった」というケースが非常に多い。仕事のミスを咎めたり、職場のルールの逸脱を注意したりと、当人は正しいことをしているつもりでも、相手からは理解されず「パワハラ認定」をされてしまう、そんなエピソードが多く寄せられている。また「自分の時代はこれが当たり前だった」が、若い世代には通用しなかった、というコメントもあった。

ただし中には「失敗の原因を部下に押し付けて、自分は何もしていない素振りをしたことをパワハラだと言われた」(44歳男性/その他/その他・専業主婦等)や、「指示通り動かない外国人労働者を突き飛ばしたら、上司へ報告された。辞めるまで執拗に追い込んでやろうと思います」(38歳男性/物流・倉庫/技能工・運輸・設備関連)といった、明らかに"アウト!"な事例も見受けられた。

職場でパワハラと言われないように気を付けていることがあるかを聞いたところ、およそ3分の2(65.4%)の人が「ある」と回答。コメントで目立ったのは、「言葉遣いに気を付ける」「冷静に接する」「相手の気持ちを理解する」など。これらは部下や同僚に注意や指導をするにあたって、基本的な姿勢として多くの人たちに意識されているようだ。

また、適正な業務配分を心がけたり、日頃のコミュニケーションを大切にしたり、あるいは逆に必要以上の交流を排し、極力ビジネスライクに接したりと、さまざまな対応策が講じられている。「異性の同僚との会話には十分注意」「オヤジギャグを言わない」「証拠を取り、パワハラでないことを証明」といった切実なものや、「トラブルマニュアルの本で学ぶ」「無能な人間への叱責等はパワハラではないと訴える」などユニークなものもあった。

今回の調査では、当人にそのつもりがないのに、パワハラだと注意された経験がある人が一定数いることがわかった。どんなトラブルでも加害者と被害者の間に"認識の違い"や"温度差"があるのはよく見られることだが、「職場でのパワハラ」に関しては特に「業務の適正な範囲」と「パワハラ」との線引きが難しく、齟齬が生じやすい。

冒頭に触れたパワハラ防止法では、パワハラの定義を「優先的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3つの要件をすべて満たすものとし、さらにパワハラの6類型が定められた。曖昧だった「パワハラ」の概念を明確にすることで、上記のような"線引き"の問題が解決されることが期待される。

パワハラ被害者の救済はもちろんだが、同法を理解し的確に運用することにより、今後「思いもかけずにパワハラの加害者になってしまった」といった不幸な事態も防ぐことが可能となるだろう。

調査時期: 2020年6月13日
調査対象: マイナビニュース会員
調査数: 506人
調査方法: インターネットログイン式アンケート

※写真と本文は関係ありません