7歳の子どもなんですが、「下の前歯がデコボコになってしまった」と30代の女性から相談されたことがありました。顎の大きさ(スペース)に対して歯が大きいなどのいろいろな要因が考えられますが、下の前歯は子どもの歯(乳歯)に隙間(霊長空隙 primate space/発育空隙 developmental space)がないと、大人の歯(永久歯)になったときに、デコボコ(叢生/そうせい)になりやくなります。

子どもの歯(乳歯)とその隙間は、大人の歯(永久歯)が並ぶスペースを確保しています。逆に言えば、子どもの歯(乳歯)がむし歯になって早く抜けてしまうと、大人の歯(永久歯)がはえるスペースがなくなり、大人の歯の歯並びに影響することもあるのです。

歯並びが乱れる原因は、歯が大きいもしくは顎が小さいなどで大人の歯(永久歯)が並ぶスペースがなかったり、歯を動かす力が加わったりするからです。つまり、子どもの歯(乳歯)の頃に行う矯正治療は、大人の歯(永久歯)の並ぶスペースを確保したり、指しゃぶりや口呼吸などの歯並びに悪影響を与える癖を正したりする予防(抑制)矯正です(*4)。

一方で、7~9歳頃には上の前歯(上顎切歯)に少し隙間が空いていても大丈夫です。この時期は「みにくいアヒルの子の時期(ugly duckling stage)」と呼ばれ、隣に2番目(側切歯)、3番目(犬歯)の大人の歯(永久歯)がはえてくると、横から押さえれて隙間は閉じていくからです(閉じないときには、顎の骨に余分な歯<過剰歯>が埋まっていることもあります)。子どもの歯並びが気になる方は、大人の歯(永久歯)が生え始める5~7歳の間に一度、矯正歯科の認定医や専門医に相談してみてくださいね。

健康保険が使える矯正治療のケースとは

一般的に健康保険が適用されない矯正治療ですが、使えるケースもあります。健康保険が使えるのは、矯正治療だけではかみ合わせを治せない顎の骨の異常で(骨格性の不正咬合)、矯正治療に外科的な手術を併用する場合です。顎の骨に生まれつき異常がある場合と、成長発育で異常がある場合があり、顎変形症(がくへんけいしょう)や口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)などの方が対象になります。

顎変形症は、下の顎が大きく受け口(反対咬合)が特徴的な下顎前突症(かがくぜんとつしょう)や上の顎が小さい上顎後退症(じょうがくこうたいしょう)、上の顎が大きい上顎前突症(じょうがくぜんとつしょう)や下の顎が小さい下顎後退症(かがくこうたいしょう)などがあります(*5)。

歯の矯正も予防が大事

歯並びが乱れる原因やその程度は、人それぞれで違います。子どもの歯(乳歯)は大人の歯(永久歯)の並ぶスペースを保っているので、子どもの歯(乳歯)のむし歯を防ぐことや、歯を動かす力になる指しゃぶり、口呼吸などの癖に気づくことも重要です。

子どもの歯並びが気になる方は、5~7歳の間に一度、矯正歯科の認定医や専門医に相談してみてください。骨格は遺伝の影響が大きいので、両親の顎が小さい場合、子どもの顎も小さい可能性があります。顎の小さい子どもの場合、大人の歯(永久歯)が生え始める前に受診を検討してもいいでしょう。

歯の矯正は、小学生や中学生までに治療を開始する場合が多いのですが、中・高年になっても治療は可能です。矯正治療はお金も時間もかかるので、信頼できる先生にそれぞれメリットとデメリットを聞きながら、自分にあった治療法を選択してくださいね。

注釈

※1 参考: 「平成28年歯科疾患実態調査」(層化無作為抽出した全国計475地区からさらに抽出した150地区内の満1歳以上の世帯員。有効回答数は6,278人)

※2 参考: 「日本矯正歯科学会 認定医・専門医名簿一覧」

※3 参考:「日本矯正歯科学会 矯正歯科治療のQ&A」

※4 参考: [歯科矯正学 第4版 医歯薬出版株式会社]

※5 参考: 「口腔外科学会 口腔外科で扱う主な病気

※画像と本文は関係ありません

著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。

1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のベスト100レビュアー)とハンドボール(ベストセブン賞)。KEN's blogはこちら。