その歯の痛みの原因は、本当に歯や顎にあるの?

あなたは歯や顎(あご)に違和感を覚えたとき、「何かおかしい」と思えるでしょうか。突然、歯や顎が痛くなったときに「あれっ、何かおかしいな」と感じていますか?

普段から丁寧なケアをしたり、メンテナンスをきちんと受けたりしていれば、何かしらの症状が突然出たとしても「どこかおかしい」と気づけます。症状が出ても早い段階で治療や管理を受ければ、大事にいたることは少ないです。

一方で、突然襲ってくる歯や顎の痛みを「しょせんむし歯だろう」などと放置してしまうようだと、むし歯以外の病気を見逃しかねません。今回は、歯や顎が痛くなったときに疑われる病気についてご紹介しましょう。

歯や顎に痛みの原因があるケース

そもそも、痛みは体の防御(ぼうぎょ)反応の一つです。体が何らかのダメージを受けたときに神経が刺激されたり、痛みの物質が集まり神経を刺激したりすることで、痛みを感じます。

歯や顎の痛みを訴える方を診察したとき、痛みの原因は歯や顎にある方がほとんどです。以下のようなときに歯や顎が痛くなることがあります。

1.むし歯で歯の神経が刺激を受けたとき……むし歯などで、歯の神経(歯髄: しずい)が刺激を受けている状態を「知覚過敏症(ちかくかびんしょう)」や「歯髄炎」といいます。重症度によって水やお湯がしみるようになったり、黙っていても鋭い痛みが出たりします。痛みの部分がわからなくなり、上の歯が痛いのか下の歯が痛いのかわからないという方もいますし、脳血管の病気を疑うような急激な頭痛で救急を受診したが、歯髄炎だったという方もいます。

2.細菌に対して歯肉や骨などの組織が防御反応を起こしているとき……むし歯が悪化し、歯肉や骨など周りの組織が細菌と戦っていると、顔が腫れたり痛みが出たりします。戦っている場所によって病気の名前が変わり、根の先なら「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」、悪化して歯肉なら「歯槽膿瘍(しそうのうよう)」、顎の骨なら「顎骨炎(がっこつえん)」、組織の隙間に炎症が及ぶと「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」といいます。

3.ぶつかった衝撃などで歯に強い力が加わり、周りの組織がダメージを受けたとき……かみ合わせやぶつかった衝撃などで強い力が歯に加わり、歯の周りの組織がダメージを受けると、「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」や「歯根膜炎(しこんまくえん)」と呼ばれます。

4.顎の関節や周りの組織に無理な力が加わったとき……顎の関節や周りの組織に無理な力が加わったときにも痛みが出ることがあります。例えば、顎関節症(がくかんせつしょう)は黙っていても症状がありませんが、口を開けたり、食べたりして顎を動かしたときに痛みがでたり、口が開けにくくなったりします。口を開け閉めする筋肉の関連痛として、歯が痛くなることもあります(筋・筋膜性歯痛: きんきんまくせいしつう)。

ただし、歯や顎に痛みがあるときに水やお湯を飲んだり、歯や歯肉を押したり、顎の関節を動かしたりしても痛みが強くならない場合は、他の病気が痛みを招いている可能性があります。

放置すると命に関わる歯の痛みとその原因

上記で紹介した原因がないのに歯や顎が痛む場合は、他の原因があるかもしれません。痛みが続くということは「痛みを感じる神経が刺激を受け続けている状態」を意味し、まれに他の病気が隠れていることがあります。むし歯と思い込み、これらの病気を見逃すことこそ怖いのです。

歯や顎の痛むことのある病気として、主に以下の3つがあげられます。

■三叉神経痛(さんさしんけいつう)
■腫瘍(しゅよう)
■虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)

三叉神経痛

「三叉神経痛」は、脳神経の一つである三叉神経が刺激を受けたときに強烈な痛みを感じる病気です。有病率(ゆうびょうりつ)は、1万から2.5万人に1人なので、それほど珍しい病気ではありません(※1)。三叉神経の枝は歯にも分布しているため、歯や顎の痛みとして感じる方もいます(神経障害性歯痛: しんけいしょうがいせいしつう)。

三叉神経痛の痛みは特徴的で、顔の片側に「数秒間の電撃が走るような非常に強い痛み」を感じます。発作的に起こり、食べたり、歯磨きをしたり、顔を洗ったりすることが痛みのトリガーになることもあります。てんかんの薬(テグレトール)や神経ブロックで痛みが和らぎますが、約90%は血管による神経の圧迫が原因です。脳神経外科で手術を行う方もいます。

腫瘍

「腫瘍」で歯や顎に痛みを覚える方もいます。例えば、上顎の空洞(上顎洞: じょうがくどう)に炎症や悪性腫瘍(がん)があると、歯が痛むことがあります(上顎洞性歯痛)。先日、50代の男性が頬の痛みを訴えて受診されました。ずっと痛みが続き、レントゲン写真を撮っても原因がわかりませんでした。MRI検査をしたところ、腫瘍が見つかり、手術を経て痛みがなくなりました。腫瘍が原因で痛みを感じる神経がダメージを受けていたのかもしれません。

虚血性心疾患

さらに、命に関わる歯や顎の痛みもあることをご存知でしょうか。それは狭心症(きょうしんしょう)や心筋梗塞(しんきんこうそく)などの「虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)」の関連痛(かんれんつう)です。

狭心症や心筋梗塞の胸の痛みは、心臓の血液の流れが悪くなると生じます。狭心症では数分、心筋梗塞では20分以上続くと言われています。しかし、狭心症や心筋梗塞で必ず胸が痛くなるとは限りません。胸の痛みがあるのは、7~8割程度と言われています(※2)。特に糖尿病の方や女性の方、65歳以上の方は症状がはっきりと出ないことがあるから要注意です。

虚血性心疾患は最悪の場合、死に至る病気ですが、歯や顎に痛みが出るケースもあります(心臓性歯痛)。38%が顔に痛みが生じますし、歯の痛みだけの方も1%います(※1)。痛みは脳が感じるため、ダメージがない部分に痛みを感じる関連痛が原因です。痛い部分が狭い範囲にとどまらず、歯や顎が痛かったり、肩はスムーズに上がるのに両肩がだるかったりするという方もいらっしゃるようです。診断の決め手は、循環器内科で行う採血や心電図、画像検査です。

命に関わる病気を発見するコツ

病気を発見できるかどうかは、毎日のケアにかかっています。歯に問題がない歯痛は、上記以外にもウイルス感染後の帯状疱疹神経痛(神経障害性歯痛)、片頭痛や群発頭痛(神経血管性歯痛)、精神疾患など様々です(※1)。だからこそ、普段から口腔ケアをおろそかにしていたり、むし歯を放置していたりすると、命に関わる病気の発見や治療が遅れるかもしれません。

突然の歯や顎の痛みに対して「何かおかしい」と思えるかどうかは、普段のメンテナンスにかかっています。日ごろからのブラッシングやフロスを使ったフロッシングはもちろん、かかりつけの歯科医院で定期的に検査を受け、命に関わる歯や顎の痛みを見逃さないようにしたいですね。

注釈

※1 『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック』(医歯薬出版株式会社 / 日本口腔顔面痛学会 編)

※2 参考: 虚血性心疾患の一次予防ガイドライン - 日本循環器学会

※画像と本文は関係ありません


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。