東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「走高跳/陸上競技」! 競技解説は、長年跳躍競技で活躍したアスリートであり、現在は地元の小中学生に陸上競技の魅力を伝えている藤木祐一郎さんです。

  • 走高跳/陸上競技の魅力とは?

走高跳の特徴

走高跳は、陸上競技の「跳ぶ(跳躍)」種目の中で「高さ」を競う競技の一つです。助走から片脚で踏み切り、高くジャンプし跳び越えたバーの高さを競うシンプルな種目ですが、跳び方には「背面跳び」「はさみ跳び」「ベリーロール」などいくつかの種類があり、そのダイナミックな跳躍は観る者を大いに魅了します。

世界記録は男子が2m45。ハビエル・ソトマヨル選手(キューバ)が1993年に記録し、四半世紀以上も破られていない大記録として今も残っています(女子の世界記録は1987年に記録された2m09なので実はもっと古い!)。この2m45という高さ、サッカーゴール(2m44)を跳び越える高さですから、この記録がいかにすごいかがわかるかと思います。

ちなみに、走高跳の歴史は“跳び方の歴史”ともいわれ、1850年頃に始まった当時は今のようなマットもなく、正面から助走し膝を曲げてバーを越えていたそうです。その後、「正面跳び」や「はさみ跳び」のような工夫を凝らした跳び方が次々と考案され2m近くまで記録を伸ばしていきました。

そして、マットの普及により「ベリーロール」で2m28まで記録が伸び、1968年のメキシコ大会でディック・フォスベリー選手(アメリカ)が「背面跳び」で金メダルを獲得したことをきっかけに、この跳び方が主流となり、現在の世界記録にまで発展しています。

走高跳を観戦するときのポイント

跳躍種目は、複数の選手が走って競うトラック種目と違い、1人ずつ順番に試技を行います。そのため選手が行う助走の仕方や集中の高め方が1人1人違ってきます。観客に手拍子を求め気持ちを高ぶらせて助走に入る選手、逆に周囲をシャットアウトして自分の跳躍に集中して助走に入る選手など、十人十色ですので選手1人1人の跳躍に注目するのもおもしろいかもしれません。

また、跳躍種目には単純に跳ぶ高さを競う要素に加えて、試合での「駆け引き」が勝敗に大きな影響を与えます。走高跳では3回続けて失敗したら競技終了となりますが、同じ高さに3回挑戦する必要はなく、パス(その高さを跳ばない)をして次の高さに挑戦することもできます。

そのため身体面(疲労など)と心理面(プレッシャーなど)による選手同士の攻防が目に見えない部分で行われていて、私たちはそれを観て楽しむことができます。競技に必死な選手たちには大変申し訳ないのですが……。

ところで、走高跳では複数の選手が同記録で終了するケースが多く、その場合は“その高さの失敗が少ない選手が上位”となりますが、それでも決まらない場合は“全体の試技で失敗の少ない選手が上位”となります。

それでも決まらない場合、「ジャンプオフ」という優勝決定戦を行い。勝敗が決まるまで試技を続けるサバイバルレースへともつれ込みます(1位以外の同記録は同順位で決着)。見た目の華やかさ以上にとても繊細な競技と言えるでしょう。

東京2020でのチームジャパンの展望

男子の日本記録は2019年に戸邉直人選手が記録した2m35で、一時、世界ランキング1位にもなったビッグジャンプです。戸邉選手は身長194cmと日本人離れした体格とバネ(跳躍力)を持ちながら、大学院で博士号を取得する研究者でもあります。彼の最大の特徴は「速いスピードを生かした強い踏切」で、科学に裏付けられた理想の放物線を描く跳躍で外国人選手と互角の勝負をしています。

男子はほかにも、2020年に2m31を跳んだ真野友博選手や前回リオ大会代表で2m30の記録を持つ衛藤昂選手など力のある選手が揃っています。東京2020で2m30以上を跳ぶとメダルの可能性があるといわれていて、男子選手には大いに期待したいところです。

一方、女子は近年、低迷気味ではありますが、1992年のバルセロナ大会では佐藤恵選手が7位入賞をしていますので、東京2020では男女ともにぜひ日本人の技術の高さを武器にファイナリストを目指してもらいたいです。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

小学校5年生ぐらいだったでしょうか。息子が体育で走高跳をやったと家で話してくれました。どれだけ遠くに跳べるかを競う走り幅跳びと比べると高く跳ぶための技術が必要となり、難易度が一気に高くなることと、マットやスタンドバーを準備するのが大変なので、普段の遊びには取り入れにくそうです。そこで思い出したのが小学校低学年の頃、女子の間で流行っていたゴム跳びです。足をゴムにひっかけて遊ぶやり方のほか、高さを競うものもあったように記憶しています。助走をつけながら高く跳ぶことはバスケットボールやバレーボールなどで見受けられるように、様々な球技で使います。背面跳び・ベリーロールは確かに外遊びでは危険を伴いますが、はさみ跳びはぜひチャレンジしてみてください。

競技解説:藤木祐一郎

中学生から陸上競技を始め、ハードルや跳躍種目に取り組む。高校・大学・社会人と長年にわたり競技を続け、2013年の全日本マスターズ陸上競技選手権大会で優勝(M35クラス110mハードル)。現在は、福岡県宇美町で「陸上競技クラブUGTC」を立ち上げ、地元の小中学生の指導を行い陸上競技の魅力を伝えている。また、総合型地域スポーツクラブの活動として、子どもの体力向上のための運動指導にも力を入れ、各地で教室指導なども行っている。「NPO法人ふみの里スポーツクラブ」理事、日本スポーツ協会公認陸上競技コーチ3。