東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「柔道(男子)」! 競技解説は、大学で男子柔道部ヘッドトレーナーも務める、アスレティックトレーナーの下田吉紀さんです。

  • 柔道(男子)の魅力とは?

柔道(男子)の特徴

「五輪でメダルを獲れそうな競技は?」と問われると、真っ先に浮かぶのが柔道かと思います。男子柔道は、2016年リオデジャネイロ大会では金2個、銀1個、銅4個と、全階級においてメダルを獲得しました。

柔道は男女ともに7階級で構成され、男子は60kg、66kg、73kg、81kg、90kg、100kg、100kg超級の区分で、計量時点の体重がその階級の数値未満でなければなりません。五輪では基本的に前日計量となり、抽選で何名かの選手は当日の試合前にも再計量します。当日の再計量では、階級+5%よりも重くなっていてはいけません。過度な減量を制限する目的で設けられたルールです。

例えば60kg級の場合、前日計量時に、59.99...kgであればOKですが、60kgと表示されてしまうと失格です。抽選によって当日計量することになったとき、+5%つまり63kg以上になってしまうと失格になり、試合に出られません。

2017年から、より観戦しやすくするために、立ち技の技ポイントでは「有効」が廃止になり、「技あり」と「一本」の2つのみとなりました。「技あり」は2つで「合わせ技一本」勝ちとなります。「寝技」におけるルールは少し複雑なので割愛しますが、「抑え込み」10秒で「技あり」に、20秒で「一本」となります。反則行為は「指導」というペナルティが与えられ、3つ与えられてしまうと反則負けとなります。2つまでは勝敗に影響を与えません。試合時間4分で「技あり」以上の差がつかない場合は、時間無制限の延長戦「ゴールデンスコア」にて、勝敗が決まるまで試合を行います。

柔道(男子)を観戦するときのポイント

五輪となると、柔道はそのメダルの色や数を期待されるところですが、そう簡単に勝たせてはくれません。特に近年では、外国人選手のレベルが著しく上昇してきています。日本人とは異なる体格や筋肉をもつ肉体から繰り出される力強さに加えて、独特のテクニックや技で日本人選手を苦しめています。例えばモンゴルにはモンゴル相撲という国技があり、その競技出身者が柔道に転身して試合に出てきます。独自の動きや技を柔道のルール上、可能な範囲で使用してきますので、対策には苦労します。

さらに競技人口においても、フランスなどは発祥国日本よりも多く、現代最強といわれる柔道家テディ・リネール選手(100kg超級)が出場してくるので大きな壁となるでしょう。この選手は100kg超級で五輪2連覇を含む公式戦154連勝の記録を持ち、もちろん地元では3連覇が期待されています。しかし2020年、この連勝記録を終わらせたのが日本の影浦 心(かげうらこころ)選手です。東京2020の代表には惜しくもなれませんでしたが、日本人選手が黒星をつけたことは、大きく期待が持てるポイントです。

柔道人口としてはブラジルが最も多く、前回のリオ五輪でも男女合わせて金1個を含む9個のメダルを獲得し、非常に盛り上がりました。このような強豪国のライバルたちとの対戦も目が離せません。

東京2020でのチームジャパンの展望

2019年の世界選手権において、日本は66kg級、73kg級で金メダルを、そのほかの階級でもすべてメダルを獲得しています。特に、軽いほうから3階級における日本人選手の活躍は目覚ましく、ほかの国際大会でも表彰台の常連となっています。当然、東京2020でも期待される階級ですが、66kg級はまだ代表が決まっていません。阿部一二三選手と丸山城士郎選手の熾烈な代表争いがぎりぎりまで行われています。そして、73kg級の大野翔平選手はリオ五輪の金メダリストであり、今大会でも連覇の期待がかかっています。2019年には世界選手権で通算3回目の優勝を果たし、その勝ち方のほとんどが投技による一本勝ちで、「これぞ日本柔道」という試合を見せてくれます。

前大会から連続出場となる選手は7階級中4名もいます。73kg級の大野選手をはじめ、60kg級の高藤直寿選手(銅メダル)、81kg級永瀬貴規選手(銅メダル)、100kg超級の原沢久喜選手(銀メダル)です。この選手たちのリベンジにも期待したいところです。特に、原沢選手は先述したフランスのリネール選手に決勝で惜敗しているので、ぜひ今回はこの高い壁を乗り越えて優勝してほしいですね。

男子監督の井上康生氏はいわずと知れたシドニー五輪の金メダリストで、柔道会では今でもスーパースター。柔道にかける情熱は指導者になっても変わりなく、選手達とともに泣いたり笑ったりと、 寄り添ってともに頂上を目指しています。度々テレビに映るであろう表情にも大注目です。

遠山健太からの運動子育てアドバイス 「柔道(男子)」を始めるタイミング

以前、アテネ五輪を目指していた佐々木伸次朗選手の指導アシスタントを務めさせていただいたことがあります。軽量級の選手でスピードがあり、高い跳躍力が印象的でした。柔道の練習や試合を観ていると、やはり体力のベースがあっての技術だなと思うことが多いです。まさに幼少期に体験すべきスポーツの一つと思っております。「柔よく剛を制す」の言葉どおり、体の小さい子が、体力があり体格の大きい子を倒すことができるスポーツとしても知られています。発育に関係なく、同世代の子と一緒に学べるところも魅力です。まずは一度、テレビでもいいので試合観戦からスタートしてみてください。

競技解説:下田吉紀(しもだよしのり)

日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、鍼灸あんまマッサージ指圧師。東海大学男子柔道部ヘッドトレーナー、東海大学男子バスケットボール部アスレティックトレーナー。神奈川県伊勢原市の「SPOLAX」、神奈川県大和市の「さがみ治療院」にて、スポーツ選手や一般の方向けのケアやコンディショニングを行っている。