お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「仕事が忙しくて彼氏を作る時間がないので、好きなアイドルのライブやグッズに給料をほぼ投資しています。今はそれなりに楽しいのですが、将来が不安です」(20代、会社員、女性)

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。まずひとつ言いたいのは、仕事が忙しいのはとっても素敵なこと。ジョイマンである僕にとってそれは夢のようなこと。うらやましい。

それはそれとして、彼氏は作らずアイドルに時間とお金をつぎ込んで、毎日はそれなりに楽しく過ぎていくのだけれども何だか不安……というのは、今の時代の非常にリアルな悩みのような気がします。確かに今の時代というのは、恋や愛にまつわる諸々の挫折や悲しみなどが付いて回る彼氏や彼女を作ろうとするよりも、ある程度の欲を速やかに、確実に、そしてきめ細やかに満たしてくれるアイドルやアニメなどで事足りてしまうということもあるのかもしれません。

今はそんなに頑張らなくても簡単に会えるアイドルもいますし、VRなどが身近になれば、もっとアイドルやアニメの世界との垣根は薄くなって可能性はさらに広がっていくような気もします。身近な欲望を満たす産業や技術がとてつもなく発達していて、「あったらいいな」が現実に結構ある。

ただ、20代会社員女性さんのお便りにも書いてあるのですが、「それなりに」というのが恐らく悩みの種なのではないでしょうか。とびっきり楽しいという実感はない。なんとなく楽しい気分なだけなんじゃないか、という不安。それは、やはり欲を簡単に満たすことができてしまう環境に慣れ過ぎているからだと思うんです。そこに薄々気付いてはいるけれど、人間ですから、そりゃあ簡単な方法を利用してしまうのは仕方のないことだと思います。

ジョイマンは2008年にTVの仕事が急に増えました。世間への露出は日に日に増えていき、ネタしか武器のない僕達の実力不足もあって、TVに出れば出るほど自分達の存在が消費されている感覚がありました。僕は当時、それでも、たとえどんな形であってもTVにたくさん出ることが正しいと思っていました。

しかし、TVやネットの露出を増やし続けるということは、視聴者の方々がいつでもどこでも簡単に見ることができるということ。それは消費される側からすると、どうやら諸刃の剣のようです。

近年、何かが世間で盛り上がってから飽きられていく一連のスピード感は年々速くなっているように感じます。お笑いのネタや、音楽や、映像作品を簡単にクリックひとつで見られる時代ですが、簡単に手に入る物に人間は、なぜかあまり敬意を払わなくなる。それは極端に言えば、あなたがとても素晴らしい何かに触れたとしても、その価値を「それなりに」しか感じられないような時代が来てしまうかもしれないということです。

僕が何を言いたいかというと、もし、20代会社員女性さんが、彼氏を作るよりもアイドルのライブやグッズに「手を伸ばせば簡単に手に入る幸せだから」という理由で貴重な時間と給料をつぎ込んでしまっているのだとしたら、僕は20代会社員女性さんが少し心配だということ。もしそれが理由ならば、毎日が「それなりに」しか楽しくない原因は、そこにあるような気がするんです。

確かに、時間のない毎日の中で彼氏を作るのは簡単なことではないでしょう。面倒なことも増えて時間を奪われてしまうかもしれませんし、その過程の中で20代会社員女性さんの人生に怒りや涙が滲んできてしまうかもしれません。

でも僕はそれでも、面倒だとしても、努力が必要だとしても、彼氏を作ろうとしたほうが、今の状態よりはもっともっと素敵なことが起こる可能性があると思うんです。もちろん彼氏を作っただけで将来への不安が一掃されることはないかもしれません。でも、不安を忘れられる時間は増えると思います。

もしかしたら20代会社員女性さんには少し回り道のように感じてしまうのかもしれませんが、生きているということ、生きていくということ、果ては一緒にお墓に入ることまでもふわりと想像できる彼氏(あなただけのアイドル)を手に入れるということは、きっと「それなりの」ではなく「とびっきりの」幸せを実感できるチャンスなのだと僕は思います。人生は一度きり。手の届かない何かに手を伸ばしてみるのも悪くないと思うんです。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。