お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「自分の今の生活にはぼちぼち満足していますが、時折無性に学生時代に戻って人生をやり直したい衝動に駆られます。僕はどうしたらいいんでしょうか。ずっとこの虚しい衝動と闘わないといけないのでしょうか」(30代、会社員、男性)

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。学生時代に戻りたい、でもタイムスリップはできない。時計の針は絶対に戻らない。あなたはそう思っている。学生時代に何か悔いがあるからやり直したいのか、ただ今より学生時代のほうが楽しかったから戻りたいと思っているのか、その辺りはこの相談文の中からは分かりませんが、実は僕はタイムスリップ自体はできると思っています。確かに実際に身体まで学生時代の若い頃に戻って……というのはもっともっと科学や医療が発達しないと無理だと思いますが、感覚をタイムスリップさせることはできるという意味です。

ちなみに僕は、学生時代はあまり良い時期だったイメージがないので、戻りたいと思ったことはありません。当時の自分よりも今の自分のほうがまだ比較的やりたいことができていますし、少しは楽に生きていると思います。だから学生時代への捉え方は30代会社員男性さんと少し違うのですが、もちろん大人になって良かったことばかりではないし、失ったと思っているものも人並みにあります。それでも少しもやり直したいとは思いません。それはもしかすると、僕が時々タイムスリップをしているからかもしれません。

30代会社員男性さんは結婚しているのでしょうか。お子さんはいるのでしょうか。僕には8歳になる娘がいます。子どもは親の分身だと思います。子どもがいるのなら、ぜひ、日々の子どもの成長を観察し、子どもと同じ歩幅で感じてみて下さい。子どもと同じ目線で世界を覗いてみて下さい。一緒に感動をして下さい。僕は、公園で子どもがふらふらと補助輪無しで自転車に乗っている後ろ姿を目撃した時に(初めて乗れた時は僕は不在で見逃してしまったのですが……)自分が子どもの頃に補助輪を外して自転車に乗る練習をしている風景が頭の中にフラッシュバックしました。その時の天気、気温、風の匂い、サドルから身体に伝わる振動、初めて乗れた時の、このままどこまでも行きたくなるようなウキウキした感覚までが脳内に鮮やかに蘇りました。

もちろん人間の記憶は時に頼りないですし、人生の中の他のシーンの感覚などがごっちゃになっているかもしれません。いつか観た映画やドラマのどこかのシーンから断片的に記憶として引っ張り出された映像も混ざっていたりするのかもしれません。でもそれも全て僕という人間を形作っている大切なものだと思いますので、そこに野暮なクレームは言いません。子どもができると、親は自分の子ども時代と今の時代を行ったり来たりできるようになります。子どもは親をタイムスリップさせてくれる小さな魔法使いです。

子どもが成長していけば、親は小学生時代にも中学生時代にも戻ることができます。そしてそれは子どもに限らず、職場の後輩や新入社員などでも同じかもしれません。今までに経てきた自分の心に立ち返ることで、物事を凝り固まった大人の自分の目線ではなく、若くフレッシュな目線や感覚で見ることができるようになります。

もう今更やり直すことなんてできないと思っていた埃のかぶった白黒の夢が、突然、鮮やかに色を取り戻して見えることがあります。学生時代みたいに、馬鹿みたいに自信たっぷりに何だってできると感じられる、そんな素敵な瞬間を取り戻せると思います。

僕たちはきっかけさえあればいつでも過去にタイムスリップできるんです。そしてタイムスリップをすればきっと「本気で何かをやり直すなら学生だろうが会社員だろうが子どもだろうが大人だろうが関係無い」と思えるでしょう。いつかお手製のタイムマシンに乗って過去にタイムスリップして、30代会社員男性さんの未来が素敵な方向に変わっていくことをジョイマン高木は祈っています。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。