小児に成人用の薬を用いても大丈夫なの?

小児に成人用の薬を用いても大丈夫なの?

薬剤師として30年以上のキャリアを誇るフリードリヒ2世さんが、日常のさまざまなシーンでお世話になっている薬に関する正しい知識を伝える連載「薬を飲む知恵・飲まぬ知恵」。今回は小児の服薬量に関するお話です。

子どもに薬を与える際の注意点

不測の事態に見舞われた際、自分の子どもに処方薬ではなく一般用の薬を与えようとした経験はありませんか? 手元に成人用の薬しかない場合、薬の量はどうやって決めればよいのでしょうか。

一般薬(OTC)は医師の診察・処方がなくても利用できるわけですから、自分で「これぐらいの量を与えよう」と考えてしまう気持ちもわかります。でも、ちょっと待ってください。子どもに薬を与える際は注意すべきことがいくつかあるのです。今回は薬の使用量(用量)、特に子どもに対する薬の量について考えてみましょう。

個々人の薬の使用量の決め方

体の局所に薬を直接散布したり、外用薬として使ったりする場合は別として、薬が体の中で薬理作用(効果)を現すには、血液の中に一定量以上の薬効成分があることが必要です。薬は患部(病気のある部分)まで血液で運ばれてそこで効果を発揮するからです。

それでは、一人一人の患者さんごとに薬の使用量はどうやって決められるのでしょうか。薬の用量についてもう少し詳しくみてみましょう。

薬の量を表す言葉としては以下の4つが用いられることが多く、その量は(1)から(4)にかけてだんだんと増えていきます。

(1)無効量

体に薬理作用が現れない量のことです。幅があります。

(2)有効量

薬理作用が現れている量のことです。これも一定の幅があり、有効域とも言います。有効量のうち、医師が普通に処方する量を常用量と呼びます。

(3)中毒量

有効量(域)をどんどん増量していくと、中毒症状が出てきます。中毒症状が出始める量が中毒量です。中毒症状が継続して出る範囲を中毒域ともいいます。

(4)致死量

中毒量からさらに増量すると死に至ります。これを致死量と呼びますが、薬の専門家がよく使う用語に「LD50(50% Lethal Doseの略)」があります。ある物質(薬)をある状態の動物に与えた場合、その半数が死に至る量のことで「半数致死量」とも言います。現在では正確な半数致死量を求めることはあまり行われておらず、概算値を示すだけになっています。

病院で処方される薬のうち、有効域が狭い(有効量を調節するのが難しく、中毒が起こりやすい)薬については、定期的に薬の血液中濃度を測定しながら治療を進めます。

たとえば、てんかんの薬や一部の抗生物質・抗がん剤、免疫抑制剤などが当てはまります。この作業を治療薬物モニタリングなどと言います。自宅で実施するのはちょっと無理ですね。

体の中での薬の動きは専門的に言うと、A(吸収)→D(分布)→M(代謝)→E(排泄)という流れで進みます。子どもの薬で効き目について考えるとなると、特に重要なのはM(代謝)でしょう。代謝能力は薬の用量を決める際にも参考にされます。

ある研究によると、新生児では大人に比べて薬を分解する能力は弱いものの、2歳以上ではほぼ大人と同じになると言われています。また、おもしろいことにジアゼパムというけいれんを抑える薬では、1~2歳の頃に大人よりも高い分解能力のピークがあるとする研究もあります。子どもの代謝能力は興味深いですね。