日常的に複数の薬を飲む「多剤併用」の問題点とは

日常的に複数の薬を飲む「多剤併用」の問題点とは

薬剤師として30年以上のキャリアを誇るフリードリヒ2世さんが、日常のさまざまなシーンでお世話になっている薬に関する正しい知識を伝える連載「薬を飲む知恵・飲まぬ知恵」。今回は多剤併用に関するお話です。

日本人は薬好き?

先日、あるうどん屋さんで食事をしていたところ、隣の席に上品そうな年配の女性が座られて、食事が済むと店員に「お薬用のお水」を所望されました。お水が運ばれてくるまでに慣れた手つきでテーブルの上にカプセルや錠剤をさっと並べられました。薬剤名までは見なかったのですが、5種類はあったと思います。まるで何かのお作法(?)のようにすばやい動作で全部をさっとお水で飲み込まれました。何のお薬だったのでしょうね。

EBMやがん治療に関し、筆者は海外の医療従事者と情報交換する機会が結構あります。諸外国では、1人の患者さんに対して日本ほど多種類の薬を処方することはあまりないようでした。どうやら、日本人は多くの薬を服用(多剤併用)する「薬大好き民族」のようです。

多剤併用によるリスク

「多くの薬を服用することにより副作用などの有害事象(因果関係がはっきりしないものを含め、患者さんに生じている好ましくない微候・症状または病気のこと)が起こっている状態」のことを「ポリファーマシー」と呼びます。日本語で言えば、「多剤(多重)処方」といったところでしょうか。

若い方にはあまり関係なさそうですが、持病の多い高齢者の方は複数の医師から薬の処方を受け、結果的にかなり多くの薬を服用(多剤併用)しているケースもあるのです。誰でもいつかは高齢者になるため、ひと事だとは言えませんね。若年層、中年層で今すでに5~6種類以上の薬を飲んでいる方は注意が必要です。複数の薬を飲んでいると、薬どうしの相互作用の危険性が増えるからです。

さまざまな副作用がありますが、特に問題なのはふらつきや転倒などによる骨折です。消化器官への影響で低栄養状態になるリスクが高まることもあります。薬のせいで骨折するなんて意外に思われるかもしれませんが、高齢者の方には結構起こります。認知機能の低下も要注意です。

ある調査によると、常用薬が6種類を超えると副作用が出やすくなる傾向が確認されています。高齢化によって、「患者さんの3~5割が5種類以上の薬を処方されている」とするデータもあります。ポリファーマシーは薬の飲み残しの問題も引き起こします。残薬の額は全国で年間に数百億円とも数千億円とも言われ、医療財政を圧迫しています。

ポリファーマシーの問題は日本だけはありませんが、特に日本ではなぜそんなに多くの薬が処方されるのでしょう。病院でもらう薬について少し考えてみましょう。

(1)日本人の「薬信仰」によって患者さんが医師に多くの薬の処方を希望しがち

「薬をたくさんくれる医師がいいお医者さん」と思う方もいるかもしれませんが、本当は違うのです。それでも、現実に「運動療法ばかりで薬をくれないから、薬を出してくれる医者に代えた」という患者さんもいるそうです。国民皆保険のなか、医療機関経由で比較的安価に薬を入手できることが「薬信仰」を強める要因になっているのかもしれません。

(2)医療の進歩によって治療法が複雑になり処方される薬の種類が増えた

新しいもの好きのお医者さんはそう言いますね(患者さんもですが)。

(3)患者さんの高齢化が進んで複数の診療科を受診することが多くなった

循環器内科+整形外科+泌尿器科などはもう当たり前? かもしれません。

(4)一度出された薬の処方を別の医師が中止するのはなかなかハードルが高い

「とりあえず症状が落ち着いているのに、自分が処方を中止したせいで患者さんの体調が悪くなったら患者さんに嫌われそう」と考える医師もいそうですね。医師が自分以外の医師に気を遣っている可能性もあります。