昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。

そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。

  • 部下と適切に対話できていますか?

すり合わせ9ボックスとは

すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。

9回目の今回は、「組織方針(組織×未来)ボックス」についてです。 

  • すり合わせ9ボックス 提供:日本能率協会マネジメントセンター

組織と部下の考えをすり合わせる4つのメリット

近年、組織ではリモートワークが増え、コロナ渦にあってランチや飲みの機会も少なくなりました。対面での対話が減っていく一方、現場では今まで以上に効率化と生産性が求められて、目先の業務に追われています。

このような状況だからこそ、現場の部下と目先の話ではなく、組織の方針や考えについてすり合わせる機会が重要になっています。

部下と組織の方針や考えをすり合わせる、部下にとってのメリットは4つあります。

一つ目は、組織や上司の期待がすり合うことで、正しい結果が出やすいことです。異なるベクトルに進むことなく、部下の労力が効果的に成果につながることで、評価もされやすくなります。

二つ目は、部下のモチベーション向上です。組織の方針などが全体に話された後に、なぜ今回の方針になったかを個別にカスタマイズした形で対話することで、部下の理解の解像度も上がり、納得感につながります。

三つ目は、部下の働きがい向上です。自分の業務と組織の方向性とのつながりが理解できることで、業務への意味が見いだせ、組織への貢献実感を持つことができます。

四つ目は、上司への信頼感の高まりです。上司が、組織の方針や考えを丁寧に伝えたり、部下の考えとのすり合わせを行ったりすることで、部下は「自己重要感を感じる」ことができ、同時にそのように関わってくれた上司に対して信頼感を持つようになります。

ダメな上司は「単なる連絡係」

このような部下へのメリットがあるにも関わらず、忙しいからか、上司は部下と組織の考えや方針について対話する機会をなかなか持てていないのが現状です。

ある企業の研修でグループワークをしているときに、こんなことを言った人がいました。

「うちの上司って単なる連絡係なんですよね!」

なんともインパクトのある言葉だったのでさらに深掘って聞いてみたところ、上司は自分が得た情報について、議事録を見れば分かるような表面的なことを右から左にしか伝えられていない。「見れば分かるよ」という話しかしないとのことでした。

さらに次のように続けたのです。

「会社のことも好きですし、本当はもっとやれることもあるんです。でも、上で何をやっているか分からないし、知る必要もないって言われているように思うんですよね」

情報が深く伝わらないことで、やる気が削がれているのです。さらに、

「上司が、正直何を考えているか分からないんですよね。会社の流れも踏まえて、私にこうしてほしいとか言ってくれれば、もっと頑張れるんですけど」

ひょっとしたら、この発言が他責の発言に聞こえる上司の方もいるかもしれません。しかし、まだまだ上司ができることの可能性を、示唆してくれているのではないでしょうか?

デキル上司は「逆ホウレンソウ」する

では、上司は何をすればよいのでしょうか? 私は、上司から部下への「逆ホウレンソウ」が有効と考えます。

そもそもホウレンソウは、言わずと知れた「報告・連絡・相談」で、その根底には下のものが上のものにする行為という意識があります。

新入社員研修では定番の内容であり、ここでその考えを学びます。一方、管理職研修では「部下に報連相を行いましょう」という内容は習いません。

しかし、社会の流れは変わってきています。必ずしも上司が答えを持っている時代ではなくなってきました。デキル上司は、部下に積極的に相談をしたり、自分が持っている情報や意見を部下に伝えたりしています。私はこの上司から部下への報連相を「逆ホウレンソウ」と呼んでいます。

デキル上司は自分の職責を単なる「役割」とみる

そして実はこれこそが、組織方針の対話ができるかどうかのポイントになります。つまり、逆ホウレンソウできる上司は、自分の職責を単なる「役割」とみることができるのです。

誤解を恐れずに言うと、自分が偉いからその役割を与えられているのではなく、たまたま部門の代表者という役割を与えられているに過ぎないと考えるのです。

例えば、入社2年目の社員が上司に

上司「今回、私は大事な商談があって出れないから、部の代表として出てもらっていい?」

と言われたら、部下は、会議であったことを、逐一報告するでしょう。皆に知る権利があるので、役割を与えられて必死にそれを全うしようとします。

上司は、自分が偉くて上司になったわけではないのです。部下・チームがあってこその上司なのです。例えば会議で言えば、あくまで部の代表として出ているという認識が丁寧なすり合わせを導くのです。

その意識があると、例えば会議中の行動も変わります。部の代表として、部下にどう伝えればいいかを考えるようになります。すると、自分がうまく説明できないことや納得できない議題には、折れずに追及するようになります。

このように、自分の今の職責が「役割」であり、メンバー全員が持つ権利を意識するようになれば、組織方針を材料に、とても有意義な対話が可能になっていくのです。

上司の価値とは、ただ情報を伝えるだけではなく、その背景や意味を加えて伝えていくことです。さらに、それが部下にどのような意味を持つのか、具体的にどうして欲しいのか? それを、一方的な伝達ではなく、部下の意見を聞いて理解度を確認しながら納得感を醸成させていきます。

ここまですることで、単なる情報の連絡係からマネジャーという役割を果たしたということになるのです。

以上、組織の考えや方針を部下とすり合わせることとそのコツについて、じっくりと対話をする際の参考にしてみてください。