昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。

そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。

  • 部下の将来キャリアを適切に考えていますか?

すり合わせ9ボックスとは

すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。6回目の今回は、「将来キャリア(個人×未来)ボックス」についてです。 

  • すり合わせ9ボックス 提供:日本能率協会マネジメントセンター

「正しいキャリア形成」ではなく「部下の状態」に焦点を当てる

変化が激しく多様な選択肢がある時代において、将来キャリアの考えもビジネスパーソンにとって難しくなってきています。このような環境下でも、上司が部下の将来キャリアに関する相談役を担っているケースがほとんどでしょう。

「自分の将来も分からず、キャリアカウンセラーでもない。何を話せば良いか分からない」。

そう考えている上司のために、部下との「将来キャリア」の対話のポイントについてお伝えしていきます。

まず、将来のキャリアの選択肢は先に行けばいくほど可能性は末広がりになっていきます。現在営業職の人が、明日からすぐにマーケティング職で仕事をするのは無理がありますが、5年後、10年後であれば想像はつくでしょう。

つまり、若ければ若いほど可能性に満ち溢れています。一方でこれは、不確実性が高く、不安になりやすいとも言えます。

まずは、上司の焦点を、「正しい将来キャリアを描いて正解をつくる」ことではなく、「部下の不安感やモヤモヤした感情」に向けることです。

将来キャリアの話をしながら、結果として、今集中して業務に取り組める状態をつくっていくことを意識してあげましょう。

遠い未来は社内キャリアに限定して考えない

そのうえで、次に10年以上先のキャリアを確認していきます。ここでのポイントは「社内に限定して将来キャリアを考えないこと」です。部下の個人としての将来可能性を、最大限見出していくことに全力を尽くします。

言い方を変えると、心の中では、(本人が)5年後10年後はもはや会社にいるかどうかは分からない前提を持ちつつ、会社の将来可能性とのすり合わせも行っていきます。

そして、個人の考えを尊重しつつも、会社のスタンスや会社の将来の可能性を示し、すり合わせを行っていきます。

将来的なかなり先の話から、だんだん下がって2~3年後くらいの想像のつくレベルの話をして、自社で経験しておきたい業務や働きたい部門、身に付けるべき能力などを洗い出します。

さらに、2~3年以内に経験したい業務や部門で仕事ができるようになるために、今の業務ですべきことへとつなげていきます。このような経緯を経て、結果として今の業務に集中して取り組めるようになることが大事なことです。

あまり良くない対話例

部下「10年後には、新規事業開発をやりたいです。特に、BtoC(一般消費者向け)の事業をやりたいのですが、うちはやってないですよね」
上司「そうだな。消費者向け事業だとするとうちは厳しいな。うちの中で近しいものは何かないかな?」
部下「そうですね。A事業部でやっていることが、まぁ一番近いでしょうか」
上司「だけどそこにいくにも、今の業務で結果を出さないと」
部下「はい、分かってます」
上司「今月の進捗は?」
部下「……」

今の仕事に集中させるという意図はわかりますが、部下が認識していることを部下にはっぱをかけているだけになっています。

例えるなら、子供に「勉強しないと、いい大学に入れないぞ」と言っているようなものです。これでは、相手はやる気を下げてしまいます。

会社の将来可能性も考えて、部下との接点を見出すサポートをする

良い対話例

部下「10年後には、新規事業開発をやりたいです。特に、BtoC(一般消費者向け)の事業をやりたいのですが、うちはやってないですよね」
上司「たしかに、うちの会社も今見えてる世界ではそうだね。ただ、例えば消費者層の中でも富裕層向けとかは可能性があるのではないかと思うよ。その辺の将来可能性について僕も□□部長と話してみるよ」
部下「ありがとうございます」
上司「ちなみに●●さんにとって、新規事業開発と今の業務との接点ってどんなところにあると思いますか?」
部下「うーん……」
上司「表に見えているところというよりは、深い部分でどうだろう?」
部下「あぁ、今担当しているクライアントの事業をもっと深く理解するというのは今できます」
上司「いいね」
部下「そうすれば、将来にもつながるし今の契約ももっと取れると思います!」

このように将来を見据えつつ、今の業務とつながる部分を考えてもらうサポートをしていくと良いでしょう。

この対話例では、少し急いで将来と現状をつないでいますが、実際には、かなり先の将来の話から、だんだん下がって2~3年後くらいの想像のつくレベルの話をして、自社で経験しておきたい業務や働きたい部門、身に付けるべき能力などを洗い出し、今の業務ですべきことへとつなげていきます。

このような経緯を経て、結果として今の業務に集中して取り組めるようになることが大事なことです。

キャリアを意識することで今に意味が持てる

このように、将来キャリアについて対話する一番の目的は、誤解を恐れずに言えば、将来像を明確にすることではありません。それを材料に、今の業務や組織に意味を見出し、不安を解消して、今に集中できることだと私は思います。

極論を言うと、もし部下が「この会社では先が見えない、もしくは憧れる先輩がいない」など、会社にいる未来を悲観的に見ていたとしてもいいのです。

その現状を自分がどう変えていけるか? 自分のキャリアをつくっていくために、今自分が何をするか、と考えられるように、上司はサポートしていくのです。

部下が自らキャリアを築いていくための第一歩として、将来キャリアをテーマにしながら、今の業務や仕事へのあり方を振り返るきっかけづくりを行ってみてください。