普段私たちが目にしている時刻表には、主に定期的に走る旅客用列車の発着時刻が書かれています。しかし時刻表では空白の時間帯に、臨時列車、貨物列車をはじめ、検査、訓練、保守、回送などで列車が走ることもあります。撮影のためにも、安全確保のためにも、線路の近くでは油断禁物です。今回は時刻表にない列車と、列車の接近を知る方法について解説します(車両名等の設定は架空です)。

「SLマイコミ号」は冬期運休なので、今日は年内最後の運転日。テツヤくんは"ありがとう"ヘッドマークを付けたマイコミ号を無事にカメラにおさめ、達成感でいっぱいでした。「マイコミ号撮影には、随分と時間もお金も使っちゃったし、これで春まで休めるかな」なんて思っていました。しかし、周りのベテラン鉄ちゃんたちは誰一人帰ろうとはしません。しばらくすると、こんな声が聞こえてきました。

「団臨の後、SLマイコミ号が回送されて来るんですよ。牽引はデデゴッパー(架空の機関車名)。そのまま車両工場で全検に入ります。その後、甲種回送……」。

テツヤくんは「はぁ??? 」とちんぷんかんぷんな状態。全く意味がわからず、軽く聞き流してしまいましたが、そのうち、どうやらもう一度マイコミ号が走るらしいということがわかってきました。撮影ポイントはSLマイコミ号終点から車両工場がある駅の間ということはわかりますが、一体どこで待っていればいいのやら。「まずは情報収集」とテツヤくんはドライブを始めました。

向かった先は終点の1つ手前の駅。ここは朝晩しか列車が停車しない「秘境駅」としてちょっと有名です。「今は昼間だから列車は来ないだろう」と遮断機も警報機もない踏切の真ん中で写真を撮っていると、突然列車が!! 鉄ちゃんが言っていた「団臨」とは、実は時刻表に載っていない臨時の団体列車のことだったのです。

ちょっと怖い思いをしたものの、思いがけず珍しい列車を見ることになったテツヤくん。これに味をしめて、もう少し待ってみたくなりました。でも、いつ次の列車が来ることやら……。携帯電話も圏外で、待っているうちに途方にくれてきました。車で昼寝でもしようかと思ったその時、DD58型ディーゼル機関車に引かれたSLマイコミ号がやって来て、あれよあれよという間にもう目の前に。しかも、ヘッドマークまで付けています。慌ててシャッターを切ったものの、中途半端な写真しか撮れませんでした……。

列車の接近を知ることは、よい写真を撮るためにも、身の安全を守るためにも最も重要なことです。しかし、撮影場所の近辺に警報機付きの踏切があるとは限りません。周りの鉄ちゃんの動きも参考にはなりますが、「確実に列車が自分の近くにいる」という情報にはなりません。そこで、何よりも重要となってくるのが、自分自身の感覚を研ぎすますことです。視覚や聴覚をフルに使う鉄道撮影は、意外に狩猟系の趣味なんですよ。屋外では様々な音がして、列車のような大きい音もかなり接近しないと聞こえてきません。感覚を鍛えるには、普段から乗り物の音に関心を持つしかありませんが、逆に関心さえ持っていれば確実に耳が鍛えられていくのも事実です。もちろん、いつ列車が来ても安全なように、線路から十分に離れた所を撮影場所とすることが大前提であることをお忘れなく。

また、時刻表に載っていない列車のダイヤを調べることもできます。第1回を参考にチャレンジしてください。でも、鉄道会社に電話するのは極力避けてくださいね。

ミニ情報
子どもに人気の「ドクターイエロー」も、時刻表にない列車
「黄色い新幹線」ことドクターイエローは、東海道・山陽新幹線の軌道状態を検査するための列車。お客を乗せないので、もちろん時刻表には載っていません。同じ役割をするJR東日本の車両は、白地に赤のラインが入った「イーストアイ」。いつ走るのかわからないだけに、偶然出会うと嬉しいものです。ちなみに、九州新幹線には検査用の車両はありません。800系つばめ号にその機能が含まれているのです。