これまでに、鉄道撮影のルールとして「私有地には入らない」と何度か書いてきました。しかし雑誌などを見ていると、明らかに田んぼや果樹園内から撮った列車の写真も出てきます。これは、現場で土地所有者の許可をきちんともらって撮影しているのです。今回は、私有地で撮影する際の許可のもらい方について解説します。

「SLマイコミ号」は冬期運休に入ったものの、すっかり鉄道撮影の魅力にとりつかれたテツヤくん。「春までに、色々な撮影地を開拓したいな」と思い、マイコミ鉄道の沿線でまだ知らないところをドライブすることにしました(車両名等の設定は架空です)。

マイコミ鉄道の終点近くは、山と山の間の細長い平地に沿って集落が連なっている日本の原風景のような里山。小さな家と庭、そして田畑などの農地が不規則に続いています。線路沿いの道は未舗装で、どこまでが公道でどこからが私有地なのかよくわかりません。前にうっかり畑に入って荒らしてしまったことがあるテツヤくんは、慎重になりました。でも、できれば線路から離れた道に立って撮影するのではなく、線路沿いでカメラを構えたいです。

すると、ちょうど庭で洗濯物を干しているおばさんが。「そうだ、あの人の許可をもらえばいいんだ! 」と思い、勇気を出して話しかけてました。

「あのー、写真を撮らせていただきたいんですけど……」
「えっ!? ダメよ! ダメッ!!」

声をかけたおばさんは、異常に慌てて逃げて行こうとしました。どうやらおばさんは、自分が撮影されると思ってしまったようです。それは、テツヤくんが「列車の写真を」と言わなかったから。これでは、高い確率で勘違いされてしまいます。お願いの第一声は最も大切ですから、丁寧に、慎重に。撮影までどれくらいの時間がかかるかも伝えるといいでしょう。例としてはこんな感じです。

「ここで列車の撮影をさせていただきたいのですが、かまいませんか。撮影したい列車は10分後くらいにここを通過します。その列車を撮影したらすぐ終わりますので」

おばさんは被写体が自分ではないとわかって笑顔になったものの、「写真はもっときれいなところで撮るんじゃないの? ここはただの田舎だよ? 紅葉も終わったしね」と言い、まだ少し不審そう。

そう、ここは鉄ちゃんにとって美しい場所でも、そこに住む人々にとっては毎日見ている景色なのです。率直に自分の気持ちを語らなければ、撮影したい気持ちそのものを理解してもらえないことだってあるのです。ここでモジモジしていては、「他によからぬ目的がある怪しい人」と間違えられてしまうかもしれません。

「今年の夏くらいから趣味でSLの写真を撮り始めて、こういう場所を列車が走るのはのどかでいいなあ~と思うようになったんです」。このように、素直な気持ちを話すのがいいでしょう。

「ああ、汽車が走るときは特に素敵だし、遠のほうにいってもまだ見えるんだよ。今では汽車以外も走るけど、昔は全部汽車でね、あの山の上から見ると……」とおばさんの話が続いてきます。怪しい者ではないことがわかってもらえたものの、話の方向がすっかり変わってしまいました。おばさんの庭の辺りに入っていいのかどうか、さっぱりわかりません。

でも、こういう時はあせらず聞き上手になるのが礼儀というものです。話を聞いているうちにお目当ての列車が来てしまいましたが、「話がおもしろいから撮影は今度でいいか~」と思えてきました。そんな風にしていると、最後には「線路まではうちの庭になるんだけど、庭に入って撮っていいわよ」と許可をもらうことができました。貴重な撮影ポイントを開拓できたことも嬉しいテツヤくんですが、それより見ず知らずの人と楽しく話ができた事の方に喜びを感じたようです。よかったですね。念のために書き添えますが、これで永遠にこの土地への立ち入りが許可されたわけではありません。訪れるごとに許可をいただきましょうね。

鉄道は人の暮らしに近い被写体です。こういった会話の前と後では、沿線の見え方が全く違ってくるものです。これはほんの一例で、実際には人の数だけ鉄ちゃんに対する反応は違ってきます。いつもよい返事がもらえるとは限りませんが、くじけずに。好きな列車を追いかけて沿線に住む人々にも溶け込み、素晴らしい写真を撮っている鉄ちゃんも少なくありません。

ミニ情報
B寝台に特急料金だけで乗れる臨時列車「ふるさとゴロンと号」
気がつくと2007年もあと少し。年末年始の帰省期間用指定席予約がもう少しで始まります。帰省シーズンだけ運転される上野駅発の夜行列車「ふるさとゴロンと号」は、電車3段寝台の583系6両すべてがお得な「ゴロンとシート」です。ゴロンとシートとは、毛布や枕などが付かないB寝台を、運賃と特急料金だけで利用できるものです。上野 - 高崎 - 村上 - 秋田 - 大館 - 弘前 - 青森のルートで走り、上野駅発12月29日、青森駅発1月2日のみの運転となっています