本件のように飲食店に長時間居座って帰ってもらえなかったら、いくらお客さんでもお店にとって迷惑に感じることがあります。その場合、お客さんには何らかの法的責任が発生するのか、以下で考えられる責任内容を検討していきます。

不退去罪について

本件のように長時間飲食店に客が居座ると、刑法上の「不退去罪」という犯罪が成立する可能性があります。

不退去罪とは

まずは「不退去罪」の条文をご紹介します。刑法130条(不退去罪)には「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」とあります。

不退去罪は「人の住居やその他の建造物、船などに入り、管理者や権利者から退去を求められたのに退去しなかったとき」に成立します。

ただ、「帰ってください」とひと言言われて帰らなかったらすぐに犯罪が成立するわけではありません。

不退去罪が成立するか否かは、「(1)退去を求められた側の滞留目的」「(2)どんな行為がなされていたか」「(3)滞留が退去を求めた側の意思にどの程度反しているか」「(4)滞留時間を考慮し、どの程度、住居等の平穏が乱されたか否か」により決すべきとする裁判例があります(東京高判昭和45年10月2日)。このように、不退去罪が成立するかは、退去の要請を受けたか否かのみならず、種々の要素により判断されます。

不退去罪の刑罰

不退去罪が成立した場合の刑罰は、3年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑です。

飲食店の客に不退去罪が成立する可能性について

飲食店のように、店側が勧誘したために「客」として入ってきている場合には、店側が退去を求めることは可能であるものの、押し売りや営業マンが訪ねてきた場合とは異なって、犯罪としての不退去罪は成立しにくいと考えられます。

飲食店の場合、店側が客を積極的に店舗内に呼び込んで、店舗内において飲食物を提供し、その対価として客からお金を払ってもらうという営業形態ですから、客の対価には「一定の時間を含んだ場所代」も含まれていると考えるべきであり、「食べたらすぐに出ていかねばならず、出ていかないと犯罪になる」というのは合理性に欠けます。

ただし、飲食店でも不退去罪が成立する可能性はあります。過去にもラーメン店でラーメンと餃子を注文した男性に対し、店がラーメンを先に持ってきた事案において、男性客が店に対して「餃子が先だ!」とクレームを述べて3時間居座った事例において、男性客が不退去罪等として逮捕されたと思われる事例があります。

本件で不退去罪は成立するのか

では、本件で女性客に「不退去罪」が成立するのでしょうか?

本件の女性客は、店側にクレームをつけているわけではありません。単に食事後15分ほど話し込んでいただけです。また店側が退去を求めたところ、嫌みを言いつつもすぐに退去しています。このような事情からすると、不退去罪は成立しないと考えられます。

もしもここで女性客らが「なぜ退店しないといけないのか」などと言って騒ぎ始め、その後も「餃子が先だ」とラーメン店に居座り続けた男性のように3時間以上、店にクレームを続けるなど、店の平穏を害する状況で居座り続けると、不退去罪が成立していた可能性があります。