平成30年の離婚件数は約20万7,000組(出典:厚生労働省 速報値)。前年よりは減少しているものの、依然多い数値となっています。

離婚することも珍しくないこの時代だからこそ、弁護士への依頼もそこまでハードルが高いものではなくなっていると言えます。しかし、弁護士に依頼することで実際にどんなメリットがあるのか、デメリットは生じるのかなど、そういった情報を正確に把握している人は少ないのではないでしょうか。

そこで今回は、離婚手続きを弁護士に依頼した場合のメリット・デメリットを併せて一気に解説します。

  • 離婚手続きを弁護士に依頼した場合のメリット・デメリット

離婚手続きを弁護士に依頼するデメリットとは?

まずは、離婚手続きを弁護士に依頼するデメリットから見ていきましょう。

「デメリット」と言いましたが、今回紹介するものは「弁護士へ依頼する場合に、あらかじめ慎重に検討したほうが良い点」「依頼する側が不安に思うことが多い点」という表現が正確かもしれません。

■コストがかかる
弁護士に依頼すれば、その分コスト(弁護士費用)がかかります。初めて弁護士に相談する際には、一般的におおよそ30分5,000円の相談料(相場)がかかります。中には、初回無料の法律事務所や、日本司法支援センター(法テラス)でも無料法律相談が行われていますが、相談するだけでもコストがかかるのが基本です。

また、弁護士費用は、着手金(事前支払い)と報酬金(結果に応じて支払い)、収入印紙代などの実費に分かれており、訴訟に至る前の離婚交渉や調停でも、着手金として20~50万円の金額が相場と言われています。まとまったお金を準備する必要があり、依頼するにはハードルが高いと言えます。

ただし法テラスでは、弁護士費用に関して、無利子で費用を立て替えてもらえる法律扶助制度が利用できる場合もあります。

現在は、弁護士費用が法律事務所のHPで公開されていることも多いため、事前にしっかり確認しておきましょう。弁護士に依頼することで得られるメリットも十分に考慮し、その上で負担可能な額かどうか、慎重に検討してください。

■逆に話し合いがこじれる場合がある
事情によっては、間に誰も入れずに当事者同士で話し合いをしたほうがスムーズに離婚へと進むケースがあります。

弁護士へ依頼することで「そっちが弁護士を入れてその気だというなら、こっちもだ」と相手の態度が硬化し、お互いに一歩も引かない臨戦態勢に突入する恐れもあるでしょう。穏便に済ませようという相手の気持ちに変化が生じ、話し合いがこじれる可能性もあるのです。

そのような懸念があるのであれば、弁護士に相談する際には「いかに相手の態度を硬化させないような対策がとれるか」についても併せて助言を求めるといいでしょう。それによって、弁護士を代理人とした話し合いをスムーズに進めることが可能になります。

■自分のプライベートを明かす必要がある
弁護士に依頼するとなれば、離婚の原因など、なるべく人に話したくないようなプライベートな事項まで他人であるその弁護士に明かさなくてはなりません。中には、他人にそのような話をしたくない、恥ずかしいと思い、弁護士を代理人として間に入れたくない、という気持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、弁護士には守秘義務があります。仕事上、さまざまな事情に触れる機会も多いため、どのような事実・事情に対しても冷静かつ客観的に受け止めてもらえますのでご安心ください。

離婚手続きを弁護士に依頼するメリットとは?

続いては、メリットを紹介していきます。先に述べたデメリットと比較しながら見ていきましょう。

自信を持って的確な判断ができる
法律は、国民が知っているという前提で、広く社会の中で運用されています。一般的に知られていないような専門的な知識であっても、残念ながら「知らないほうが損をするだけで自業自得」という考えが顕著です。

ですから、離婚における基礎的な知識や、希望通りの離婚条件を引き出す方法など、いかに法律的な情報や実務における判断基準などを知っているかによって、結論が変わることがあるのです。

例えば、子どもの親権の決定などもそうです。離婚時には親権を決める必要がありますが、裁判所で決定する場合は「養育環境の現状を維持したほうが良い」などの考え方が重視されます。離婚してくれないからと、母親が子どもを置いたままで家を飛び出した場合、現状維持の原則により父親が親権を有する可能性も生じてしまいます。しかし、この原則を知っていれば、何か行動する際もさまざまな視点から吟味でき、リスクを冒すことも避けられるでしょう。

このように、法律の知識は非常に重要です。依頼すれば弁護士は強い味方となり、さまざまな法的アドバイス、離婚までの戦略などを立ててくれるでしょう。離婚に至るまでには、大小さまざまな判断を求められます。ご自身でこれを行わなければならないとすると、判断に時間を要しますし、下した判断にも不安が付きまとい、「あんな判断しなければよかった」と後悔することもあるでしょう。

後になって「自分はあのとき弁護士から法的アドバイスをもらい、最善の判断をした」と思えることは大きな自信につながりますし、それは新しい人生を歩む上でも大きく影響してくることがあるのです。

■裁判所や相手方とのやりとり、書面作成を任せられる
離婚にはさまざまな段階があります。当事者間の話し合いから、裁判所の制度を利用しての調停手続き、離婚訴訟などです。

各手続きに応じて、相手に自分の意向を主張して、相手を説得しなければならなかったり、それを書面に記載して裁判所や相手方に提出することを求められたり、主張を裏付ける証拠を収集・提出したり、そのほかにも、裁判期日の調整などについて裁判所や相手方とやりとりを重ねたり、多くのことが求められます。

そして、仕事・家事・育児などのかたわら、人生の一大事である離婚の結果を左右するような書面作成などを自身でこなすことは非常に大変な負担となるため、疲弊してしまう方も多いでしょう。

弁護士に依頼すれば、代理人としてこれらの交渉などを行ってくれるだけでなく、多種多様な法律手続きや申請書類などの作成も任せられます。これは、どなたにとっても非常に大きなメリットであると考えられます。

■相手に関わらずに済む
離婚原因はそれぞれですが、中には「二度と相手と関わりたくない」という場合もあるでしょう。しかし、縁を切るためには離婚という手続きを踏まなければならず、再度話し合わなければ先に進めないというジレンマに陥ります。

そういったときに弁護士に依頼すれば、代理人として交渉を行ってもらえるので、縁を切りたい相手と接触しなければならない場面を最小限にとどめられるというメリットがあります。特にDVなど、自分の身に危険が及ぶような場合には、連絡先を弁護士の所属する法律事務所にすることもできるので、一人で立ち向かう必要もありません。

■精神的な支えとなる
離婚は、当事者からすれば非常に精神的ダメージが大きいことであり、自分を責めてしまうという方も少なくありません。加えて、「離婚したいにも関わらず交渉が難航している」、反対に「離婚したくないのに離婚を迫られている」など、将来に絶望しか見出せないと感じてしまうような状況もあります。

そのような場合も、弁護士に依頼すれば、全ての事情をしっかりと聞いて受け止めてくれますし、時には励ましながら、離婚までの道のりを共に歩んでくれます。「自分ひとりではない」という心の支えにもなるのが大きなメリットと言えるでしょう。

まとめ

大きな問題を抱えているときに、それを「第三者である弁護士に打ち明ける」という行為自体、気持ちの面での負担は非常に大きいものがあると思います。

しかし、多くの方はそのような中ご相談にお見えになり、「自分ひとりで抱えていたけど、ゴールまでの道筋が明らかになってスッキリした」「モヤモヤしていたものが、何を考えて何をしたらいいか、明確になってよかった」「思いを打ち明けられて、肩の荷が下りた」とおっしゃってくださいます。

まずは、無料の法律相談などを利用し、ご自身の新しいスタートをいい形で切るために、弁護士のご利用も選択肢として検討してみてください。

執筆者プロフィール : 弁護士 高橋 麻理(たかはし まり)

第二東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて勤務。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援離婚問題に真摯に取り組んでいる。