「ゲームソフトを借りていった友人が翌日に引っ越しをし、ゲームソフトが戻ってこなかった」――。こういった理不尽な状況に遭遇して沸々とした怒りを覚えた経験を持つ人もいるのではないだろうか。
このケースのように、日々の生活において社会通念上、「モラルに反するのではないか」と感じる出来事に遭遇する機会は意外と少なくない。そして、モラルに欠ける、あるいは反していると思しき行為であればあるだけ、法律に抵触しているリスクも高まる。言い換えれば、私たちは知らず知らずのうちに法律違反をしている可能性があるということだ。
そのような事態を避けるべく、本連載では「人道的にアウト」と思えるような行為が法律に抵触しているかどうかを、法律のプロである弁護士にジャッジしてもらう。今回のテーマは「余分なおつりの未返却」だ。
24歳の女性Fさんは出社前、いつもお決まりのコンビニエンスストアを利用している。オフィスに着いてから飲むコーヒーや、外回り時に小腹が空いた際のチョコレート、電線時に困らないための予備のストッキングなど、近所にスーパーがないFさんにとって、そのコンビニは非常にありがたい存在となっていた。
ある日、いつものようにその店に入店して、ふとレジにいる店員に目をやると、今まで見たことのない東南アジア系の女性が立っていた。Fさんはひとしきり買いたい物をかごに入れると、その女性が立つレジへと向かった。レジ作業の手つきを見る限り、明らかに昨日今日にこの仕事を始めたばかりといった感じだった。「慣れない異国の地でのアルバイト、大変だろうな。でも、頑張ってね」。Fさんはそんなことを考えながら、精算が終わるまで待っていた。会計は811円だったので1,050円をその女性に手渡した。「239エンノオカエシデス」。まだたどたどしい日本語とともに、その女性はFさんにおつりを渡した。
おつりを受け取ったFさんは硬貨を握りしめたまま店外に出て、店舗から5メートルほど離れた自販機へと向かった。お目当ては、この自販機にしか売られていないアロエドリンク。コンビニで買い物を済ませた後、ここでこのアロエドリンクを購入して会社に向かうのがFさんの朝のルーティンなのだ。さっそく手に握りしめている硬貨を自販機に投入しようとして硬貨を数えると、100円玉が1…2…3枚ある。どうやら、先ほどのレジにて339円のおつりをもらっていたようだ。「本来より100円多くおつりをもらっていたのね……。でも、今さら返しに行くのもなんだし、その時間もない。それに、私はこのコンビニをいつも愛用しているからもらっちゃってもいいわよね」。そう考えたFさんは余分なおつりを店側に戻すことなく、会社への道を急いだ。
このようなケースでは、Fさんは何らかの罪に問われるのだろうか。安部直子弁護士に聞いてみた。