本件でFさんは、本来239円であるおつりを339円受け取ってしまっています。その場では気づかず、店を出てから自販機の前でおつりをもらいすぎたことに気づいたのですが、このようなときFさんに犯罪は成立するのでしょうか?

成立する可能性のある犯罪は「詐欺罪」なので、以下で詐欺罪がどういったケースで成立するのか見ていきましょう。

詐欺罪とは

詐欺罪は「人からお金をだまし取ったときに成立する犯罪」です。 たとえば相手に支払い義務があると思わせてお金を支払わせる場合。典型的な詐欺は「ワンクリック詐欺」などの架空請求詐欺、オレオレ詐欺などの振り込め詐欺です。

詐欺罪の刑罰は「10年以下の懲役刑」となっており、重罪です。たとえばオレオレ詐欺の実行犯の場合、初犯(始めて罪を犯した人)であっても実刑判決が出ていきなり刑務所に行かねばならないケースが多数です。

詐欺罪が成立する要件

詐欺罪が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

欺罔(きもう)行為
加害者が被害者を「だます行為」です。

錯誤
加害者にだまされたことによって被害者が「勘違い」することです。

処分行為
被害者が勘違いをしたことによって、財産を処分若しくは財産上の利益を移転したことです。

財産上の損害
被害者に財産上の損害が発生したことです。

因果関係
上記のすべてが因果関係でつながっている必要があります。

故意
加害者が「相手をだまそう」と考えていること、すなわち故意が必要です。

不告知も詐欺になる

本件のFさんは、上記の詐欺罪の要件を満たすのでしょうか?

コンビニ店員の外国人女性は、おつりを勝手に勘違いしてFさんに多めに渡しています。Fさんがだましたわけではありません。それならFさんに「欺罔行為」がないとも思えます。

しかし法律上、おつりを受け取りすぎた人には相手に「勘違いしていることを告げるべき義務」があると考えられています。欺罔行為は必ずしもだます「積極的な行為」である必要はなく、「不告知」も該当するケースがあるのです。

相手の勘違いに気づいているのにあえて告知せず、多めのおつりを受け取ると詐欺になる可能性があります。

後で気づいた場合、犯罪にならない

本件でFさんに「故意」はありません。なぜならコンビニ店員の女性がFさんに多すぎるおつりを渡したとき、Fさんはもらいすぎたことに気づいていなかったからです。

Fさんがおつりが多すぎる事実に気づいたのは、店を出て自販機でドリンクを購入しようとしたときです。このように「その場で気づかなかった場合」にはFさんに故意がなく告知義務も認められないため犯罪は成立しません。

Fさんがコンビニでおつりをもらいすぎたとしても詐欺罪になりませんし、気づいた後、返しに行かなくても詐欺罪になりません。