本件で、もしあなたがFさんの立場ならどのように対応するのが良いでしょうか? 中年女性に「窃盗罪」が成立するなら、いきなり警察に通報すれば良いのでしょうか?

現実的にはそういった対応は不都合でしょう。Fさんはデパートの試食販売の担当者です。たくさん試食品を食べた女性がいるからといっていきなり通報して騒ぎを起こしたら、他のお客さんが驚いてしまいます。

また女性が「この店では試食品も食べさせてもらえないのか」などと言って騒いだら、他のお客さんが店に悪い印象を持ち、客離れを起こしてしまうかもしれません。Fさんとしては、まずはお店の管理者(店長など)に相談をして対処方法を検討すべきです。

たとえば防犯カメラで女性が大量に試食品を食べている証拠を残し、中年女性が次にやってきてまた同じように試食品を食べたとき、お店の裏側に呼んで注意をするなどの対応が考えられます。本人が「もうしません」と約束すれば一筆書かせたり、今後、当該店舗への立ち入りを行わない旨の一筆を書かせたりするなどして、とりあえず様子を見ます。

それでも女性がまたやってきて食品を食べ尽くすようなことがあれば、今度は本当に警察に通報するとよいでしょう。なお持ち帰りなどが判明した場合にはすぐに通報してかまわないと考えられます。

業務妨害罪になる恐れも

デパ地下の試食品を大量に食べたとき、通常成立するのは窃盗罪ですが、それ以外の犯罪が成立する可能性もあります。

デパ地下やスーパーなどで、買うつもりもないのに試食品を大量に食べられると、お店側には損害が発生します。また、お店の人が試食品の食べ過ぎを注意したときに本人が怒って「この店では試食品も食べさせてもらえないのか」「ケチな店だ、二度と来るか!」などといって騒ぐケースも考えられます。するとその場に居合わせたお客さんが引いてしまい、二度と来なくなったり店の評判が低下したりする損害が発生するでしょう。

上記のような場合にはお店の営業が妨害されていると言えるので「威力業務妨害罪」が成立する可能性があります。威力業務妨害罪に適用される刑罰は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」です(刑法第234条、第233条)。

まとめ

デパ地下やスーパーで試食販売が行われていても、「無制限に飲食してよい」わけではありません。味見の範疇を超えて食べたいときには「購入」する必要があります。あなたが試食品販売担当者の場合にこのような人を発見したら、まずは上司や店長に相談して適切な対応を検討するのがよいでしょう。

※記事内で紹介しているストーリーはフィクションです

※写真と本文は関係ありません