上述の通り、Kさんが出社したことは法律違反とはなりませんが、インフルエンザウイルスへの感染を隠して出社し、そのことが後から発覚した場合、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。会社の就業規則で、インフルエンザを始めとする特定の感染症(伝染病)にかかった際に、その従業員の就業を禁止(出勤停止)する旨の定めを設けている会社の場合、自身がインフルエンザであることを隠して出社すると就業規則違反となってしまいます。

そして、就業規則違反の行為を懲戒処分の対象としている会社は多いと考えられるため、このケースならばインフルエンザを隠して出社したことで、懲戒処分(戒告、減給、出勤停止、解雇など)を受ける可能性があります。Kさんの会社でも上述のような就業規則が定められていたとすると、Kさんが懲戒処分の対象となってしまうかもしれないのです。

感染させてしまった人から損害賠償請求等を受けるリスクも

また、Kさんはインフルエンザであることを隠して出社し、結果としてKさんの所属部署ではインフルエンザが流行してしまいました。このとき、Kさんが原因でインフルエンザにかかってしまった人から、「Kさんのせいでインフルエンザにかかってしまい、その間出勤できなくなってしまった。その間の給与がもらえなかった」などと、その間の治療費や給与相当額(休業補償)などの損害賠償を求められる、なんてことも起きかねません。

実際には、Kさんに対して損害賠償の請求をする人は、「ほかの誰でもないKさんからインフルエンザをうつされた」ということを証明(立証)しなければなりませんので、裁判で損害賠償請求が認容されるには一定のハードルがあります。

とはいえ、今回の場合は、Kさんが強引に出社したことで、Kさんの部署内でインフルエンザが流行したわけですので、法的な意味でKさんが賠償責任が認められるかどうかはともかく、Kさんは上述のような請求を受け、職場の部署の皆から責められることになってしまうおそれもあるのです。

無理な出社は禁物

以上のように、Kさんが出社したこと自体は法律違反にならないにしても、懲戒処分の対象となってしまう可能性もあります。また、Kさんがインフルエンザをうつした相手から「休んでしまった間の給与を支払え」などと言われてしまうリスクもありますので、いくら大事なプレゼンテーションが迫っているからといっても、無理は禁物です。

やはり、「黙っていれば大丈夫」などと思わず、インフルエンザにかかった場合には、会社の他の従業員のことも考えて、無理はせずおとなしく自宅療養するのがよいでしょう。

※記事内で紹介しているストーリーはフィクションです

※写真と本文は関係ありません

監修者プロフィール: 安部直子(あべ なおこ)

東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に離婚問題を数多く取り扱う。離婚問題を「家族にとっての再スタート」と考え、依頼者とのコミュニケーションを大切にしながら、依頼者やその子どもが前を向いて再スタートを切れるような解決に努めている。弁護士としての信念は、「ドアは開くまで叩く」。著書に「調査・慰謝料・離婚への最強アドバイス」(中央経済社)がある。