第94回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の全4部門にノミネートされた映画『ドライブ・マイ・カー』には、赤いボディカラーの輸入車が登場します。主人公が長年、大切に乗っているクルマで、ブランドは「サーブ」(SAAB)というらしいのですが、どんなクルマなのでしょうか。モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。

  • 映画『ドライブ・マイ・カー』の1シーン、「サーブ」のクルマ

    映画『ドライブ・マイ・カー』で主人公の家幅(西島秀俊さんが演じる)が乗っている赤いクルマ「サーブ」ってどんなクルマ? (C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

バブル期に人気を博した1台

カンヌ国際映画祭で脚本賞を獲得して話題になったドライブ・マイ・カー。その全編で走りまわっている赤と黒のツートンカラーのクルマがサーブ「900ターボ16S」だ。

元々はスウェーデンの航空機メーカーだったサーブが、1947年に自動車部門を設立。それが自動車メーカーとしてのサーブの始まりだ。当時から空力特性を重視し、まるで水滴のような独特な形をしていた。このあたりからも、航空機メーカーをルーツに持つブランドであることが感じられる。

映画の主役である「900」は1978年に発売となった。日本でも西武自動車が輸入していたので、目にしたことのある方も多いだろう。当時、西武自動車はサーブ以外にも、シトロエンやプジョーなどを取り扱っていた。

  • 映画『ドライブ・マイ・カー』の1シーン、「サーブ」のクルマ

    映画『ドライブ・マイ・カー』は全国で超ロングラン上映中。劇中で家幅は、サーブ「900」に「15年乗っている」ものの一度も修理したことがないといっていたから、かなり堅牢なクルマのようだ (C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

1990年代、まさにバブル絶頂の頃、サーブ900の特にカブリオレはカタカナ職業(例えばカメラマンやアナウンサーなど)の間で人気となり、同じスウェーデンのボルボとならんでヒットした。

劇中の900ターボ16Sもそんな時代の1台だ。ターボだからといって決してスポーティーではなかったが、航空機の世界では常識だったターボ技術を駆使したエンジンは力強く、しっかりとした走りを楽しめた。サーブ全車に共通する特徴として、キーの差込口はセンターコンソールにあるのだが、初めて乗った人がエンジンを掛けるのに一苦労する場面も、サーブではおなじみの光景だった。

900の2代目は1993年に登場。当時は同じGMグループだったオペル「ベクトラ」などのプラットフォームを使っていた。日本では1993年に西武自動車からミツワ自動車に代理店が移ったが、輸入は継続。その後はヤナセも取り扱っていた。

サーブは1990年にGMと業務提携し、2000年には完全子会社になる。2009年のGM破綻により、紆余曲折を経てオランダのスパイカーズの傘下となったが、業績が回復せず2011年に破産申請。その後もさまざまな方法で再建を目指したが、復活には至っていない。

ちなみに、「スカニア」というトラックメーカーはもともとサーブで、トラック・バスメーカーのスカニア社とサーブが合併し、サーブ・スカニア社(1968年)となった。1995年にサーブから独立してスカニアとなり、今も健在だ。