企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第31回は、人財×デジタル事業を軸に、クライアントのニーズに合わせたサービスを提供しているコクー株式会社の取締役でEXCEL女子事業本部 本部長も務める藤永 大(ふじながだい)氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。藤永氏は1981年に長崎県で生まれ、神奈川県川崎市で育った。キャリアのスタートは某人材派遣会社。横浜・銀座エリアにてコンサルタントを経験したのち、北海道で支店長として経験を重ねた。

2015年、コクーに入社。人材派遣会社での経験をもとに、ワンランク上の事務を提供することで、顧客の生産性の向上、業務効率改善をサポートする「EXCEL女子」の事業立ち上げに携わった。その後、EXCEL女子事業本部責任者として、「VBA女子」「BI女子」などの事業を展開させ、2021年7月より取締役に就任している。

EXCEL女子事業本部は、コクーの中で初めて女性社員が多い事業部としてスタートしており、当時の男性社員はわずか数名、現在も3名だという。そうした環境下で、藤永氏は男性の本部長として、メンバー総数200名を超える事業部になるまでEXCEL女子事業本部を育て上げた。

「EXCEL女子のスローガンは『女性がイキイキと働き、活躍している社会を創る』。その実現に向けて尽力しています」と藤永氏は語る。

会社概要について

コクーは、「デジタルの力でダイバーシティ&インクルージョンがあたりまえの社会を創る」をパーパスに掲げ、社会課題の解決に取り組んでいる企業だ。

ビジネスの軸は「人財×デジタル事業」。労働人口減による人手不足を「人財」と「デジタル」テクノロジーで解決し、企業の成長・発展ならびにより良い社会に貢献することを目的に、さまざまな新サービスを提供している。現在、展開されているのは「EXCEL女子事業」の他、「ITインフラ事業」「デジタルマーケティング事業」「RPA事業」「REALVOICE事業」の5つだ。

このうち、藤永氏が統括する「EXCEL女子」誕生の背景について、藤永氏は「『ITエンジニアほどとは言わないが、一般事務作業より少し高度な作業をしてほしい』というお客様の声からスタートしました」と説明する。

顧客の声から、「ITに強い事務」のニーズがあると考え、都内の412社を対象に調査を実施。66.5%の企業がExcelスキルを求めていることがわかったという。さらに、働く女性200人にもアンケートを取ったところ、「手に職を付けてイキイキと働きたい」という回答が8割に上った。

「企業にも個人にも、『ITに強い事務』に強いニーズがあるという仮説が確信に変わりました」

そこから、2013年12月に「EXCEL女子」サービスが開始。スキルアップしたい女性をIT人材として育成し、ワンランク上の事務を提供することで、顧客企業の生産性向上、業務効率改善をサポートしている。

不安や不満を原因とした退職者が頻発するという壁に直面

藤永氏がコクーに入社した2015年1月は、EXCEL女子事業の立ち上げ時期で、メンバーもまだ10名ほどだったという。事業は順調に拡大し、メンバーも増加。50名を超えるようになったころ、ある課題を抱えるようになる。それは、不安や不満を原因とした退職者が出るようになることだった。

「メンバーが増えるにつれ、これまでと同じ体制・環境では社員一人ひとりのフォローアップやコミュニケーションを十分に取ることが難しくなっていったのです」と、藤永氏は当時を振り返る。

EXCEL女子のスローガンは、先に藤永氏が述べた「女性がイキイキと働き、活躍している社会を創る」だ。それを目標とする事業を展開してやってきたにも関わらず、現場のメンバーがイキイキと働けていない現状がある。目標と現実との乖離に対し、藤永氏は大きな危機感を抱いたという。

まずはメンバーと向き合うことが大事だと考えた藤永氏は、じっくりと課題について話し合う機会を設けた。そこで見えてきたのは、フォローアップやコミュニケーション不足だけが組織の問題ではなかったということだった。

「周りを見渡してみると、当時のコクーは『ITインフラ事業本部』に所属している男性社員が多く、制度も体制もITインフラ事業本部の社員目線で整えられたものだったのです。EXCEL女子事業がスタートし、女性社員が増えているのに、EXCEL女子のための制度・体制・環境が整っていませんでした」

そこで、藤永氏はメンバーと共にEXCEL女子に必要な制度・体制・環境をゼロから作り始めることを決意した。

メンバー一人ひとりの声を聞き、制度・体制・環境作りをゼロから実施

制度・体制・環境作りはまったくのゼロからのスタートとなった。そのため、すべてが手探りで、施策が本当に正しいのかもわからない。「スモールスタートから始め、効果が出れば進めるという、時間も労力もかかるものでした」と藤永氏は語る。

EXCEL女子メンバーの声を聞き、共に取り組んだ施策は、①先輩社員が新入社員をサポートする「メンター制度」の設立 ②5~10名程のメンバーで構成する「アメーバ組織」の設立 ③社内教育担当チーム 「Prime(プライム)の設立」だ。

メンター制度の設立では、困ったときや相談したいときにメンターという頼れる存在ができたことで、不安や不満が原因での退職者がゼロになるという結果が出た。

アメーバ組織の設立で行ったのは、日頃、別々の顧客先で業務を行っているEXCEL女子メンバーの組織化、マネジメント体制の構築だ。スモールスタートで週報や1on1を開始したところ、効果が見えたことから、開始翌年から正式スタートとなった。

Primeの設立では、業務中に発生したExcelに関する問題、不明点を相談する先として、社内教育担当チームを発足。今ではメンバーのスキル向上、維持のためになくてはならないチームとなっているという。

これらの施策を行ったあとも、ママ・パパ社員が仕事と子育ての両立を図るための制度・環境整備に取り組むプロジェクト「ままさぽ」等の取り組みが始動。今ではさまざまな制度・体制・環境が整えられている。

こうした過程を経験したことで、藤永氏は何を得たのだろうか。

「社員と向き合い、社員の声をしっかり聞き、コミュニケーションを取ることが何よりも重要だということです。経営陣が考えたことをそのまま形にするのではなく、現場にいる社員一人ひとりの声を聞いて形にしていくのは確かに大変です。しかし、今のEXCEL女子があるのは、それをやり遂げてきたからこそだと考えています」

結果、今ではEXCEL女子の採用に毎月500名ほどの応募があるという。「未経験でも手に職を付け、メンバー同士で切磋琢磨し、子育て中などさまざまなライフステージにおいても女性社員が活躍している。『EXCEL女子』が目指してきたことが実現し、そこに魅力を感じてくださる方がここまで増えたことは、大変喜ばしいことです」

EXCEL女子には、「資格保有数平均8個」「研修カリキュラム50」など、「HAPPY8(ハッピーエイト)」という8つの目標がある。その中には「女性管理職比率20%」という目標もあり、グループリーダー・チームリーダーなどを務める管理職の女性社員も多い。そうしたリーダー職に就いている女性社員たちが、妊娠、出産という大きなライフイベントを迎えることがここ数年で増えているのだという。こうした状況を見て、藤永氏は次のEXCEL女子の課題を「リーダー候補生を育成していくこと」だと述べる。

「出世する、管理職になることを目標としている女性社員は、一般的にまだまだ少ないように思います。そうした中で、いかに彼女たちに管理職へ挑戦してもらうのか。背中を押してトライしてもらい、その後をいかにフォローしていくのかが今後の課題でしょう。今までと変わらず、社員一人ひとりと向き合ってしっかり声を聞き、コミュニケーションを取りながら取り組んでいきたいですね」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「人生は一度きり。たとえ失敗することがあっても、その失敗は無駄ではありません。失敗しても、次に繋げて活かしていくこと、そして失敗を恐れず常にチャレンジしていくことを忘れないでください」

ライフイベントの機会が多い女性社員に関わっている藤永氏ならではの助言として、「当社の社員は、デジタルスキルを身に付けることで、さまざまなライフイベントがあっても働き方を選んでイキイキと働いています。このように手に職を付けてスキルを高めていくことは、イキイキと働く上で、大きなアドバンテージになってくれるはずです」という心強いエールも送ってくれた。