企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第20回は、日本初の経営人材プラットフォームとして2001年に設立されたGTF株式会社の創業者 山中英嗣氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。1995年3月、国内大学の工学部経営工学科を卒業後、山中氏はビジネススクールへ進学。大手戦略系ファームの英国法人でインターンをしながら、リサーチプロジェクトに参加し、MPhilを取得した。

その後、1998年4月に大手通信会社に就職。翌年となる1999年4月には主要MBA卒業生のオンラインキャリア支援を行うロンドン・ビジネス・スクール学内ベンチャーに転身、参画した。2000年1月、日本支店設置日本支店長に就任。同年8月にはソフトバンクグループと合弁し、現地法人化した際には、経営企画担当取締役に就任した。

2001年3月、戦略関連会社としてMBA卒業生の転籍を含めた常駐コンサルティング事業を行うグローバルタスクフォース株式会社を設立し、代表取締役に就任。これが現在のGTFだ。2021年より、創業者兼パートナー(筆頭株主)を務めている。

GTFを創業した経緯について、山中氏は次のように語る。

「海外から合弁にて現地法人化したオンラインでのMBA卒業生の採用支援事業を維持しつつ、関連多角化の新規事業として、転籍含みの常駐経営人材リソースを提供する常駐コンサルティング事業を始めようと思いました。合弁のオンライン採用支援は、スタートアップ・ベンチャーや、外資系企業の採用ニーズは満たしていましたが、社内昇進を大前提とする伝統的大手企業のニーズは満たせていない状況だったため、本事業を通してマネジメント人材投入支援の実行をすることになりました」

会社概要について

GTFは、合弁の世界トップ3%のMBAホルダーネットワークを母体に、オンライン採用支援ではなく、採用の代替として常駐コンサルティングを行っている。世界トップ3%を占めるのは、米国トップ20および各国トップ校だ。具体的な事業内容について、山中氏は次のように説明する。

「伝統的上場企業の企業再生や事業再生、上場ベンチャーのM&Aを含めた成長加速など、組織的な変革に大きなパワーを必要としている企業向けに、戦略設計のみならず、実行までを顧客の名刺を持って常駐にて行っています」

常駐メンバーは転籍も可能。GTFでは、コンサルティングファームと事業会社両方の経験を持つ「プロジェクト責任者(プロマネ)」と「実働部隊」として、部門長を含むラインマネージャなどの実働リソースを含めて転籍含みで投入。半年後、お互いの同意があれば転籍が行われるという。また、2022年からはプロマネ単独のリモート支援も開始されている。

海外と同じ事業モデルで、国内でも成功すると想定していた

当初、「海外と同様、日本市場でもオンライン採用支援という事業モデルで成功できると考えていた」と山中氏は振り返る。ロンドン・ビジネス・スクールと姉妹校提携をしているスタンフォードやMITなど、世界18カ国58校の主要ビジネススクール出身者60万人(うち日本人2万人)のネットワークと、ソフトバンクグループという先進的大手資本があったためだ。

「ところが、ベンチャーや外資といったニーズは拾えても、国内大手企業グループの外部労働市場におけるマネジメント人材採用マーケットそのものが小さすぎました。世界に比べ、日本は解雇規制が厳しく、既存の人材の新陳代謝がままならない。結果として時間あたり労働生産性がOECD加盟国38カ国中23位(1970年以降最低順位)、一人あたり労働生産性が38カ国中28位(1970年以降最低順位)、いずれも先進国で最低記録を続けている。そんな労働生産性の低い日本において、ダブついた社内労働市場での配置転換と社内昇進を前提とする伝統的大手企業が外部からマネジメント人材を採用するマーケットは、当時存在していなかったのです」

また、採用事例がある場合も、長期雇用を前提とした日本の処遇では、活躍できる権限を得るまでに長期間を要する。相対的に、MBA卒業生に限らず、即戦力として積極的に自身のキャリア投資を行おうとする候補者にとって、多くの日本企業は機会損失で魅力ある就職先になり得ないとわかったのだ。

「実際に、世界で最も応募者数を集めた雇用機会は、シリコンバレーにある名もないベンチャー企業で、1つのポジションに5,800件もの応募を集めました。対して、日本の大手金融機関などでは、『管理者経験3年以上』『40歳以下』など、魅力のある職務記述が書けないため、応募ゼロが続いたのです」

大手企業に魅力的な職務記述書を依頼しようにも、そのような職務記述を作るには採用という人事における「インフロー」の前に、社内の昇進昇格システムや配属などの人材配置政策、報償システムといった「内部フロー」を変革する必要があるという。「結果として、貢献できませんでした」と山中氏は語る。

支援後に理解したプロマネとチームの重要性

合弁で海外と同じサービスラインで行うことになったため、山中氏は英国本部に別会社として新規事業を提案。コンサルティングファーム出身者の多いMBAホルダーを中心に、転籍オプション付きの常駐コンサルティング事業を設立、実行した。

上場廃止に至った大手上場ベンチャーグループの再生や、のちの再上場を始め、2001年から現在に至るまで、約80超のプロジェクト実績を獲得。プロジェクト平均は2年8カ月、平均常駐チーム数は7名、転籍率は58%(顧客側はほぼ100%転籍を希望も、常駐者が辞退)と、企業の変革や変革後の拡大再生産できる体制へのコミットに貢献してきた。

支援後にわかったことについて、山中氏は「プロマネとチームの重要性」だと語る。

「優秀な1人をいくら投入しても、既存のシステムでは変革できないことも多い。変革に必要な意志と体制が当該企業にないときには、その適応のためのシステム変更の合意形成が必要で、プロジェクトマネージャーが顧客経営層とすり合わせをし、最上流から現場のマネジメントまで整合性を持たせて落とし込みながら進めることが第一歩となるのです」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「大手企業のほとんどがロジカルシンキングを必須として研修を行っています。しかし、人事責任者の多くは『ロジカルシンキングの学習に意味はあるが、なかなか結果に現れない』と言います。それはなぜか。課題を与えられれば解決できる人はたくさんいるが、課題そのものを見つけられる人が少ないため、なかなか結果に結びつかないのです。『ここに大きなインパクトを与えられそうなボトルネックがあるから、この課題に取り組もう!』と言い出しっぺになる人がいないことが原因なんです」

この思考技術は「クリティカル・シンキング(主体的な課題設定+ロジカルシンキング)」と呼ばれるものだと説明する山中氏。ロジカルシンキングを学び、いくら因果関係とMECE(ミ―シー)を使って思考の整理ができるようになっても、ロジカルシンキングには「何を信じて何を行うべきか」という価値判断に関する情報は含まれていないのだという。 失われた30年で硬直化し制度疲労を起こしている日本の産業界では、指示された課題を完璧にこなす精巧なロボットではなく、誰も気づいていない課題を主体的に見つけ、周りを巻き込んでいけるクリティカルシンカーが必要なのだ。 

「人を論破するディベートのためのロジカルシンカーではなく、『何を信じて何を行うか』の明確な価値判断を見極め、自分の判断で課題解決を主導できるクリティカルシンカーを目指しましょう。そして、いち早く自ら解くべき課題に気づき、周りを巻き込んで解決していくサイクルを『早回し』できる変革リーダーになってほしいと願っています」