企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第29回は、ウガンダの女性たちが手作りするバッグやアパレル製品を販売している株式会社RICCI EVERYDAYの代表取締役 仲本千津氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。仲本氏は一橋大学大学院を卒業後、邦銀に入行し法人営業の経験を積む。2011年に退社したのち、アフリカで農業支援を行う国際農業NGOに参画。2014年からウガンダの首都カンパラに駐在した。そこで出会った女性たちや日本で暮らす母と共に、RICCI EVERYDAYを創業。カラフルで遊び心にあふれたアフリカンプリントを使用したバッグやインテリアアイテム、アパレルの企画・製造・販売を始めた。2015年に日本で法人化、2016年に現地法人を設立している。

創業に至った経緯について、仲本氏は次のように説明する。

「大学、大学院でアフリカの紛争や政治について研究し、在学中に出会ったNPO法人の代表の影響を受け、30歳までにアフリカで起業したいと考えていたんです。金融機関に就職したのも、起業するためにはまず世の中の仕組みやお金の流れを知った方がいいと思ったからでした」

国際農業NGOに参画することになったのは、2011年3月に起こった東日本大震災がきっかけだったという。先述したように、その後、仲本氏はウガンダ事務所に駐在した。

「ウガンダで出会ったのが、カラフルでプレイフルなアフリカンプリントでした。すっかり魅了され、この素材を使った製品を作りたいと思ったんです。現地の女性たちとやってみようと思ったのは、4人の子どもを抱えたシングルマザー、ナカウチ・グレイスさんに出会ったのがきっかけでした。現地の女性たちの生きづらさを知り、彼女たちのような状況にいる人たちが誇りを持って働ける場所を提供したいと思ったんです」

RICCI EVERYDAYは、2022年に新たに神楽坂にショールームをオープン。仲本氏の頭の中には、常に「紛争を経験した地域が、過去を乗り越え幸せを生み出し続ける場になるにはどうすればいいか」という想いが巡り続けているのだという。

会社概要について

RICCI EVERYDAYは、カラフルで遊び心にあふれたアフリカンプリント生地やサステナブルな素材を使用し、デザイン性のみならず機能性も兼ね備えたバッグやインテリアアイテム、アパレルを展開しているライフスタイルブランドだ。製品はウガンダの直営工房で、現地の女性たちの手仕事によって作られている。シングルマザーをはじめ、社会的に阻害されがちな女性を積極的に雇用することで、女性たちの自信と誇りを醸成する機会を創出してきたという。

2020年8月に、RICCI EVERYDAYはブランド5周年を迎え、それを機にリブランディングを行った。リブランディング後のRICCI EVERYDAYについて、仲本氏は次のように語る。

「今後は、ウガンダと日本といった地域にこだわらず、『世界中の女性が社会的通念や固定概念を乗り越え、本来のありたい姿を見出し、実現できる世界』を目指していきたいと思っています」

コロナ禍により、生産がストップ。販売の場を失う事態にも直面した

苦労した経験の1つとして、仲本氏はコロナ禍での事業継続を挙げる。

「生産地であるウガンダでは、2020年3月末に無期限のロックダウンが大統領から言い渡され、ヒト・モノ・カネの動きがピタリと止まってしまったのです。ウガンダでは日本の緊急事態宣言とは比べものにならないくらい規制が厳しく、直営工房の稼働がまったくできない状況が続きました」

このままだと販売する製品が作れず、会社が潰れてしまうという危機感を抱いた仲本氏。さらに苦難は続いた。

「日本でも2020年4月から緊急事態宣言が発令され、直営店舗はもちろんのこと、全国の百貨店も休業を余儀なくされました。予定していたポップアップストアはすべてキャンセルになり、リアルで販売する場がなくなってしまったんです」

生産のキャパシティがゼロになった上、販売場所も失われてしまった。とはいえ、自分の努力でどうにかなる状態でもない。「ウガンダという日本とは文化も政治も異なる環境下でビジネスをしていると、次に何が起こるか予測も付けられません。不安とストレスでいっぱいな日々を送っていました」と当時の心境を振り返る。

年齢・性別・人種関係なく、誰しもがプロフェッショナルになり得ると気づけた

そんな状況を打破するため、インターンの学生から「全商品をオンラインで販売しましょう」と提案を受けた仲本氏。それまで、RICCI EVERYDAYのオンラインストアではバッグしか販売していなかったため、「小物やギフトアイテムなど、他の商品が本当に売れるのか不安だった」と仲本氏は語る。

しかし、そんな仲本氏の心配をよそに、販売開始後は多くの客がオンラインストアを訪問してくれたのだという。

「オンラインがメインの売り場になると思いました。このことを機に、オンラインストアの売上の割合が増え、全国のお客様に全商品を見ていただく場所を作ることができたんです」

また、生産地であるウガンダにおいても、コロナ禍がある意味でスタッフの大きな成長機会になったという。その理由は、コロナ禍による渡航制限だった。

「コロナ前までは、私が2〜3カ月に1度はウガンダの工房に行くことが当たり前だったんです。それが渡航制限で叶わなくなってしまいました。でも、そんな中で、現地のスタッフが計画に沿って自立的に生産を進めていってくれるようになったんです。その姿は私にとって大きな励みとなりましたし、事業が成長するきっかけとなりました」

これらの経験から、年齢や性別、人種に関係なく、誰もがプロフェッショナルとして活躍する能力を秘めていると気づけたという仲本氏。

「『いち学生』や『いちウガンダ人スタッフ』ではなく、事業にコミットしている人として尊重し、彼女たちの意見や行動を受け止めることの大切さや、それが事業の成長に繋がっていくことを実感しました」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「昨今、『ダイバーシティ』という言葉をよく耳にしますが、自分とは違う価値観を持った人やバックグラウンドの異なる人から生まれるアイディアを大切に積み上げていくことが『ダイバーシティ』であり、今後の企業の成長のきっかけになると私は考えています」

確かに、同じメンバーで話し合いをしていると、前例の繰り返しになってしまったり、やることが同じになってしまったりして、これまでと同じ結果しか得られません。

「もちろん、あえて自分とは異なる価値観や考えを持つ人を議論の中に巻き込んでいくことは面倒ですし、時間がかかる上、忍耐力も求められます。ただ、その大変さを引き受けていろんな人を巻き込むことで、議論を深め、まだ見ぬ新しい景色を見ることができるのではないでしょうか。そこから新しいアイディアや価値が生み出され、事業を成長させるきっかけになると信じています」

そう笑顔で力強く語ってくれた。