企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第30回は、凸版印刷株式会社に勤務し、トッパンオリジナル共創マーケティングソリューション「キャンパスラボ」代表兼プロデューサーの中山柚希(なかやまゆずき)氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

中山氏は、1992年10月14日生まれ。青山学院大学の総合文化政策学部で学んだ。在学中の3年時、ミス青山コンテストに出場し準グランプリを獲得。それが転機になったと話す。

「とある企業からスイーツ開発にお誘いいただいたのをきっかけに、マーケティングに関心を持つようになりました。そのプロジェクトは各大学のミスキャンパスが集まり、若年女性向けスイーツを開発するため、リサーチから商品やパッケージの企画、PRまでを一貫して行うものでした」

中山氏は、マーケティングに女子大生を起用する意義は話題性だけではないと語る。

「ミスキャンパスをはじめ女子大生は、流行のきっかけとなったり、多くの人に注目してもらえるような情報発信の仕方を身に付けているうえ、同年代の若い女子の気持ちが分かります。私は女子大生アンバサダーによるマーケティング事業にやりがいや可能性を感じ、仕事にしていきたいと考えるようになりました」

中山氏はスイーツ開発プロジェクトのメンバーとともに、女子大生のマーケティングプロジェクトチームを結成。2014年頃に、凸版印刷が活動場所や社会人によるアドバイスを提供してくれることになり、2015年に「キャンパスラボ」を立ち上げた。

このことがきっかけで凸版印刷にも魅力を感じるように。2016年に新卒で入社すると、新規事業として、女子大生マーケティングソリューション「キャンパスラボ」の事業化を任されることとなった。

キャンパスラボについて

続いて、キャンパスラボの事業内容について伺った。

「キャンパスラボは、社会貢献と自己成長の意欲を持つ女子大生が集まり、若者視点でマーケティングから商品開発、啓発施策まで考え、実践するプロジェクトチームです。企業・自治体と共に、様々な社会課題の解決に取り組んでいます」と中山氏。

女子大生の力で地域を元気にする「地域魅力創出ラボ」、女性の心とカラダの悩みを考える「セルフケアラボ」、女性が輝く未来を創る「キャリアデザインラボ」を3つの柱とし、地域の観光開発や地域産品を活用した商品開発、若者に向けた運動啓発企画、学生のキャリアデザイン支援など、様々な共創マーケティングプロジェクトを展開している。

例えば、「地域魅力創出ラボ」では各地の自治体とタッグを組み、観光ツアーの企画や地域の魅力発信、若い女性向けの商品開発や魅力あるコンテンツ開発をするなど、活躍の幅は多岐にわたる。

新しい試みが理解を得るまでの苦労

失敗談について伺うと、「キャンパスラボ」立ち上げ当初の苦労を語ってくれた。

「2014年から2015年の立ち上げ当初、大学生が企画やビジネスをすることは珍しく、私たちが提供する女子大生アンバサダーによる共考共創型マーケティングは、社会からの理解を得ることに苦労しました」と中山氏。

今でこそ、ユーチューバーが自ら動画を企画したり、さらに自分で事業を立ち上げたり、インフルエンサーの企画力やマーケティング力が世の中で注目されるようになったが、当時はまだ企画を任せるという流れはなかったという。

「当時は“女子大生アンバサダー”は“被写体”としか見られていませんでした。『学生にはマーケティングや企画はできないだろう』というイメージを持たれたり、企画部分ではなく、決められた内容でのモデル活用やPR投稿のみを依頼されたりしていました。企業が分析する若者像や施策と、若年層の興味関心事とのギャップを感じていました」

そうした悩みを抱えつつも、中山氏はキャンパスラボに可能性を感じていた。“女子大生マーケティング”をビジネスモデルとして構築しようと決意。

「2016年に新卒で凸版印刷株式会社に入社し、同社の新規事業としてキャンパスラボを体系化することを目指し、改めて事業開発をスタートしました。キャンパスラボの価値を掘り下げるとともに、『どのように伝えれば共創マーケティングの価値が理解され、ビジネスになるか』という視点で売り方を研究しました」と当時を振り返る。

価値を伝えるため自発的に調査・発信

「キャンパスラボの強みは、女子大生アンバサダーの『ターゲット視点』と 『インフルエンサー視点』を活用して、インサイト(※)を研究し、共感される企画を創出できることです。しかしながら、社会においてまだ『ターゲットと一緒に考えて企画を作る』ということが浸透していないせいで価値が伝わりづらいのだと気づきました。当時のキャンパスラボの課題は、『クライアントに共考共創型マーケティング自体の重要性を理解してもらうこと』だと考えました」

そこで中山氏は行動を起こす。

「若者たちのインサイトを掘り下げてリアルな大学生の考えを世の中に伝えるとともに、その時期の世の中の関心事や大きな課題(ソーシャルイシュー)に対し、若年層の考えを調査し、自発的に発信しようと思いました。例えば、若年層の旅行の内容と、旅行を決めるまでのプロセスや気持ちの変化を調査したり、若者の将来および社会に対する想いやジレンマなどを深堀りしていきました」

そうした調査や情報を発信していくうち、少しずつ企業からのオファーが来るように。

「社会や企業が気付かない若者の視点や想いを、自主的な調査リリースにまとめて情報発信していくうちに、ターゲット層の若者と一緒に企画や商品開発をしていく必要性を感じていただけるようになりました。特に若者の観光需要やボランティア、選挙投票などの効果的な啓発には、若者の声を聞いてしっかり施策に反映していくことが大切だと、『共創マーケティング』の需要を高めていくことができました」

※消費者を動かす深層心理のこと

新たなニーズを見つけてビジネスに

2016年秋には、若者のお茶離れについて考察。静岡県と共同で地域産品であるお茶の若年層向けPR企画を行ったり、鹿児島県では県と県内観光会社と共に観光モニタリングを行い、女子旅の着地型観光ツアーを開発したりと、活躍の幅を広げた。

2017年以降には東京都文京区と一緒にボランティア啓発や、神奈川県における未病改善や運動習慣の継続化、ビーチのマナーアップなどの啓発企画にも取り組み、様々なテーマにおけるインサイト調査をもとにしたアクションを創出している。

「少子高齢化と同時に地方の過疎化が進む昨今、若者との共創による観光開発は多くの地方でニーズがあり、キャンパスラボのひとつの柱の事業となりました。石川県加賀市、群馬県草津温泉など、毎年様々な自治体とともに若者と地域のつながりを創るための共創マーケティング活動を展開しています」と、生き生きと語る中山氏。

「2019年頃からは、社会全体のSDGsへの取り組みが活発化する兆しが見えはじめ、様々な企業・自治体とともに社会課題解決に向けた共創活動に注力しています。2020年には若年層の興味関心ゴトに寄り添ったSDGs啓発ライフスタイルメディア『Cheer!SDGs』を立ち上げ、『若者×SDGs 』についても研究・発信しています」

「Cheer!SDGs」は、おしゃれで新しいものに敏感な若い女性が気になるサービスや商品を紹介し、環境問題やSDGsへの取り組みを切り口としたメディアだ。また、若年層リサーチメディア『キャンラボリサーチ 令和女子100人アンケート』も運営。若者へのアンケートを通じた実態調査やインサイトの調査などを行い、キャンパスラボのメンバーが記事にまとめている。

さまざまな経験を経て、困難な状況も乗り越えた中山氏はこう語る。

「自分の想いや考えが理解されづらいときには、相手が気づいていない根本的な課題を洞察し、明確な解決策を提示しつづけることが大切だと学びました。相手自身が気付いていない悩みや根本の課題を捉え、新たなニーズを見つけ出すことで、ビジネスを創出できると考えています」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けたメッセージをもらった。

「学校生活では教科書や先生が『正解』を用意してくれることが多いですが、社会にでると、正解がわからない問題ばかりです。正解のない問いに対し、好奇心や疑問を持ちながら根本の課題を考え、他者と協力しながら自分たちの強みを生かした答えを世の中に提示することが、新たなビジネスに繋がると思います」

自身も解決策を模索しながらさまざまなことにチャレンジしてきた中山氏。「正解」を追い求めるのではなく、自分なりの答えを見つけてほしいと話す。

「皆さんの中にはキャリアに悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、キャリアにも一つの正解はないと思います。私自身、日々様々な方と関わる中で視野を広げて、自分が納得できる生き方・働き方を模索しながら、前向きに明るく成長していけたらと思っています。この記事が皆さんの視野を広げるきっかけのひとつになってくれればなればうれしいです」と笑顔で締めくくった。