JR弁天町駅のそばにある交通科学博物館。この名前は子供の頃の思い出の中に、深く刻まれています。SLからリニアモーターカー、車や飛行機まで。鉄道に限らず「交通」を網羅した懐の広さ。実物と模型と、原理や構造をわかりやすく見せてくれる実験モデルと。乗り物好きの子供の心をわしづかみにする、めくるめく魅惑の施設でした。

交通科学博物館は4月6日で閉館。収蔵資料などは「京都鉄道博物館」(2016年春開設予定)へ移設展示されるという

そんな交通科学博物館が、4月6日をもって閉館します。その話は筆者にとっても「青天の霹靂(へきれき)」でした。「ええっ!? なくなってしまうの?」という寂しい気持ちが8割、「ええっ!? まだあったの?」という驚きの気持ちが2割……って、そんなわけはないんですが。とにかく、52年の歴史に幕を下ろすというからには、行かないわけにはいきません。鉄道好きとして、行かなければならない義務があります! 2月の終わり、雨の平日。大阪環状線の電車に乗り、弁天町駅に降り立ちました。

入口の券売機で入場券を買います。券売機はきっぷの券売機と同じ形です。この時点で期待も高まります。ちなみに入口は改札風ではなく、普通に「もぎり」でした。

交通科学博物館はJR弁天町駅のすぐそば。ディーゼル機関車DF50形も見ることができた

数十年ぶりに足を踏み入れる交通科学博物館は、あの頃のままの姿でした。よく見ると新幹線500系・700系の模型をはじめ、最近になって入った展示物もあるみたいです。とはいえ、展示の様子というか、たたずまいがあの頃のままなんですね。展示の仕方が、フロアの雰囲気が、館内の空気までもが昭和のまんま。なんというすばらしさでしょう。

館内を歩く幼稚園児のひと言に驚愕!

閉館が発表されて以来、交通科学博物館は入館者が激増し、土日祝日ともなると入場規制がかかるほどの混雑だそうです。筆者が訪問した日は平日ということで、さほど人出は多くありません。館内にいるのは、昭和を懐かしむリタイヤ世代と思われる年配の人々と、いかにも鉄道マニア風な人々、それから遠足と思われるフレッシュな幼稚園児の列。きゃあきゃあはしゃぎながら通過するその列の中から、1人の女の子の言葉が耳に入ってきました。

「はぁ、昭和に戻ったみたいやぁ~」

一体お前、年はいくつやねん! 思いっきり平成生まれやろ! と思わずツッコミを入れたくなった筆者。最近の幼稚園児って、昭和を懐かしむことができるのでしょうか? うーん、よくわかりません……。

ジェットエンジンの展示を見に行くと、若いお母さんが5歳くらいの男の子に説明の文章を読み聞かせています。「コンプレッサーで圧縮された空気に燃料を噴射します」などの説明を、きっちりそのまんま読み上げるお母さん。読み終わると、今度はその隣の、翼断面と揚力の関係の説明を読み聞かせ始めました。これが「英才教育」というやつなのか? と思いながら見ていると、説明を全部読み終わったお母さんがひと言。

「……わからんねぇ」

そうか、「自分もようわからんけど、なんか子供に読み聞かせたい」、そんな気分やったのかもしれないですね。よくありますよ、そういうこと。……あるのか?(笑)

館内の企画展示室では、「交通科学博物館さよなら企画展part2『52年の軌跡展』」というイベントが行われていました。鉄道だけでなく、車も航空機も含めた半世紀余りにわたる交通の歩みをパネルで振り返る企画展だそうです。パネルの間には、チャック・イエーガーが初めて音速を突破した飛行機のロケットエンジンも展示されていました。侮れません、交通科学博物館。意外に破天荒(?)です。京都に移ってしまうと、こういう部分は削られ、清く正しい「鉄道博物館」になってしまうのでしょうか。それはそれで寂しい気がします。

ミュージアムショップで購入した記念グッズの数々

今回の記念に、ミュージアムショップで記念DVDとストラップ、限定仕様のチョロQを買い、名残の尽きない交通科学博物館を後にしました。

いままでホント、ありがとうございました。