これまで9回にわたって、新社会人にお勧めする「イノベーティブ」な働き方について書いてきました。改めてそのポイントをまとめると以下になります。

・「守破離」を徹底しよう
・イノベーションとは、何かと何かをつなげる「新結合」
・どんな会社にもイノベーションは必要
・(Who)イノベーターはヨソ者・バカ者・若者
・(Why)何のためにイノベーティブになるのか?
・(When&Where)非日常の経験を大事にしよう
・(What)モノではなくコトに注目しよう
・(How1)鳥の目、虫の目を持とう
・(How2)身の回りの「不」に拘り続けよう

この流れに沿って、イノベーティブに働く作法をごく簡単にご紹介してきました。では、改めて整理していきましょう。

  • イノベーティブな働き方について整理できていますか?

守破離を徹底する

新社会人として着任した際に、ほぼ全ての人が仕事を与えられるはずです。

僕の話をしましょう。1986年(昭和61)10月にリクルートの新卒採用支援事業部上野営業所に配属になった僕に与えられた仕事は、アポイントを取ることでした。当時、メールやましてやLINEなど存在しておらず、アポを取るのは電話しかありませんでした。

帝国データバンクや東京商工会議所録、以前先輩が獲得した名刺の束などをもとにして、朝から晩まで電話をかけまくりました。一日300件はかけたでしょうか。

これがいわば「守」です。アポイントのトークは、「この地域の担当になりました」の一本やりでした。来る日も来る日もただ電話をかけまくりました。

そのうちに、どうすれば「もっと簡単に」「もっと効率的に」「もっと確実に」アポが取れるようになるか、について考えるようになりました。お客様が興味関心を持つであろうことを事前に察して、「ご近所の会社が新卒採用に成功して、活性化を成し遂げています」という事例を交えたトークを編みだしました。

既存の型を「破る」ことができたのです。効率は劇的に上がりました。事例を丁寧にお客様に話して、理解・共感を得ることに成功しました。

これが僕のアポ取りという仕事では「破」にあたります。

アポ取りのあと、お客様に営業に行くようになると、城東地区(中央区、台東区、墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区)の中堅企業の何人かの社長と仲良くなりました。採用のお手伝いをして成果を上げると、社長から信頼されるようになり、仲間の社長を紹介してもらえるようになりました。いわゆる紹介営業です。

こうなると、もはやアポ取りは必要がなくなってきます。アポ取りという仕事から離れることができるようになりました。

これが「離」です。

僕は、新卒で入社して配属されたので、当時のリクルート上野営業所にとってはヨソ者であり若者だったと思います。ヨソ者なりに先輩のアポ取りトークを徹底して学んで真似て守をやり切るうちに、自分なりのトークをひねり出し、破が実現できました。

そこから、アポ取りという行為を、電話かけというプッシュから紹介というプルに変えることに成功して、離が体現されたのです。当時の自分にとっては、大きなイノベーションといってもいい変化でした。

このように守破離を徹底することが、イノベーティブに働く上での第一歩ということができます。

守破離に「合」を組み合わせる

では、守破離と合の接続とはどういうことでしょうか?

僕のアポ取りの仕事では、それは、新卒採用をしたい城東地区の社長の組織化ということに連なります。企業の経営者は新卒の学生を社員に迎え入れる際に、様々な悩み事を持っていました。

・そもそも大学生が自社を選んでくれるのか?
・大学生を採用したら、どのように教育すればいいのか?
・報酬体系はどうすればいいのか?
・職場になじめなかったらどうすればいいのか?
・辞めてしまわないようにするには何が必要か?
・寮や社宅は用意しないといけないのか?

などです。

企業によってお悩みは様々でしたが、共通するものもありました。当時リクルートには大学生の就職動向や仕事に対する意識等を調査する研究機関がありました。その研究員と社長たちとを引き合わせる場を設定して、社長の悩みを吐露し合って解消しようと試みたのです。

つまり、リクルートの強みや経営資源と守破離とを接続して、新しい価値を創出しようとしたのです。結果的にではありますが、守破離+合の実践ができました。

自分の可能性を信じる

守破離を徹底するにあたり、上述した5W1Hを踏まえるとイノベーティブな仕事に近づくことができます。皆さんは等しくヨソ者・若者であり、組織に違和感をもっているはずです。違和感は宝です。それを大切にしながら、目的を見据え、非日常に跳んで、コトに注目し、時には鳥の目で、またあるときは虫の目で仕事を見直してみてください。

そして、お客様や関係者の「不」に拘り続けていくと、どんどん仕事がイノベーティブになっていくはずです。

そして、合の実現です。必要なのは、自分の会社や組織の経営資源を考え抜くことです。自らの強みも見定めてみてください。自分の強さと会社の資源を、守破離で成し得た境地に接続することで、最強のイノベーティブな仕事ができるはずです。

そのためには自分の可能性を信じ続けることが必要です。

・自分はそもそも何をやりたかったのか?
・自分はどんな人生を生きたいのか?
・自分の強みは何か?
・自分ができることは何か? 箇条書きにすると幾つあるか?
・自分の弱さはどんなところか?
・今までに何を学んできたのか?
・それは何の役に立っているのか?

過信ではなく、適切的確に自分自身を見つめてみてください。そして一歩跳んでください。そうすることで、「イノベーティブな働き方」が実現できると思います。

執筆者プロフィール : 井上功(いのうえ・こう)

リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント
1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化等に取り組む。