「その業務、私の担当じゃないのに……」
「そこまでやれって言われても、役職者じゃないのに……」
このように、自分の役割以上の仕事を振られて、困ったり、納得がいかなかったりすることが、現場ではよくあるのではないでしょうか。「役割以上の仕事を振られる」と一言で言っていますが、よく見ると、2つのパターンがあることがわかります。
●役割以上の「範囲」の業務をさせられるケース
その期が始まる前にチームできちんと業務分担をしておいたが、期中に新しいテーマが発生してその業務が振られる。
●役割以上の「上位者」の仕事をさせられるケース
まだ主任にもなっていないのに、課長がするような判断を求められる。
そこで今回は、役割以上の範囲の業務をさせられるケースで、「しなくていい努力」をしないための対応を考えていきたいと思います。
真の仕事は役割の外で発揮される
20代の私にも、納得いかないまま、渋々、文句をいいながら対応したり、あるいは想定外の責任の重さに困惑し、「それは無理です」と断る、といった日々がありました。
役割以上の範囲の仕事を振られたとき、なぜ当時の私はイライラし、納得がいかなかったのでしょうか。それは、「割りに合わない」「同じ給料なのに自分だけ損する」などと考えたからです。
いま振り返ると分かるのですが、当時の私は、仕事を、勉強のような個人種目だと考えていたのです。学校のテストで、他人の分までやらされたら、確かに納得はいかないですよね。
仕事をスポーツの団体種目で考える
しかし、仕事を、野球やサッカーと同じ「団体種目」と捉えたらどうなるでしょうか。野球でも、「ピッチャー」「サード」といったように、あらかじめ役割は決められています。
たとえばセンターにフライが飛んできたとします。しかし、センターはボールを見失ったのか、動きません。そんなとき、ライトの選手はどうすべきでしょうか?
「ライトなのに、センターのフライまで取りにいくのは割りに合わない」
「同じ給料なのに、そこまで広いエリアをカバーするのは損だ」
かつての私のようにこう考える選手がいたら、監督やコーチや、そして観客は、はたしてどう思うでしょうか?
団体種目では、役割と役割との間に、必ずグレーゾーンがあります。そして、必ず、試合前に想定した以外の突発事態が発生します。ですから、そこでどのような行動をするかが、実力の見せどころなのです。「自分の役割を明確にしてください!」と上司に迫る人がいますが、これは上司から見るとかなり無理な注文です。
それはまるで、野球選手が、「私が動く範囲を決めて、グランドに線を引いてください!」というのと同じです。そんな選手が一人でもいたら、そもそも、野球という団体競技は成立しなくなってしまうのです。
チームが困ったとき信頼されるのがエース
チームに想定外の業務が発生したり、突発的な大トラブルが起きたりした時に、誰が「仕事ができる人」と評価され、誰が「あまり仕事ができない人」と思われているのかが判明します。
そのようなときに、その仕事を振られる(任せられる)人が、実は上司や周囲から「仕事ができる」と日ごろから信頼されている人なのです。
逆にいえば、そのようなチームのピンチの場面で、「君はいいから……」とその仕事を振られずにすんでいるとしたら、それはラッキーなことではなく、かなりピンチな状態なのです。
この回を押さえれば念願の日本一が決まるという場面で、当時の東北楽天ゴールデンイーグルスの星野監督は、前日に完投したエースの田中将大投手(現 ニューヨーク・ヤンキース)をリリーフとして起用しました。サッカーでも、チームが負けていて、あと5分しかないときは、「エース」と呼ばれる人にだけ、常にボールが集まります。
仕事も、野球やサッカーと同じ団体種目です。チームが一大事のときは、「エース」と呼ばれる人にだけ、仕事が集まるのです。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。