"住まい"という財産と引き換えとは言え、年収の数倍もの住宅ローンの借入額は、考えてみれば恐ろしいことです。それでも上手に住まいを取得すると、将来のリスクを軽減できる可能性があるのをご存知でしょうか?
年金暮らしになって家賃を払い続けるのは相当な負担です。家賃は消費する一方ですが、住宅ローンは住まいという資産になります。しかし、住宅ローンは大きな借金には違いなく、それ自体様々なリスクもはらんでいます。本連載では、年代別にどのようなメリットやリスクがあるのか、リスクはどのようにすれば改善できるかを紹介していきます。
若くて住宅取得、どんなケースがある?
若くして住宅取得するケースは、いろいろ考えられます。それぞれのケースによってリスクは異なります。
ケース1:独身男女の一人住まいの住宅取得
ケース2:新婚若夫婦の住宅取得
ケース3:親族(兄弟・親など)と居住するために住宅取得
20代や30代前半の住宅取得は大いにメリットがある!
メリット1:家賃にお金を消費しなくても済む
単身者用の1ルームを8万円で借りた場合、10年間で敷金・礼金などを考えると、ゆうに1,000万円を家賃に消費することになります。その消費は資産形成に何らつながりません。仮に毎月8万円の返済で20年間の借り入れの場合(10年固定)、約1,750万円借り入れられます。多少頭金を加えれば、築浅のワンルームマンションは都内でも買えそうです。
メリット2:定年前に完済できる
メリット3:共働きであれば、繰り上げ返済が可能
早期に完済し、子供の教育資金や老後の備えなど、次のステップに取りかかれます。
メリット4:返済困難になるリスクが少ない(病気・失職など)
病気になる確率が他の年代に比較して少なく、失職しても仕事が見つかりやすく、早期に生活が立て直しやすいメリットがあります。
メリット5:親も若く現役世代であることが多い
返済が困難となる何らかのトラブルがあっても、一時的な助けが得られる場合がある。一時的支援を受け、生活を立て直して返済を継続できる年代です。
20代や30代前半の住宅取得はデメリットもある!
デメリット1:まだ若く未知数部分が多い。
独身者は結婚により、環境が変わります。共働き夫婦でも、子供が生まれて保育園に入れなかったり、子供が病気がちだったりすると、離職したり働き方を変えたりせざるを得ないケースも考えられます。その場合妻が借り入れた住宅ローンの返済が負担となります。
デメリット2:スキル形成が未熟
何らかのトラブルで一旦フェードアウトすると、その後のスキル形成が困難になるケースも考えられます。若い世代は、働く場はすぐに見つかっても、仕事の質を選ぶとなるとスキル不足で思うような給与の職場に再就職できるとは限りません。
デメリット3:若さゆえの力量の最大減まで借り入れがち
新婚早々にマンションを購入するケースはよくあります。確かに家賃を支払うのであれば、買ってしまったほうが得かもしれません。しかし、そうしたケースでは、給与もまだ多くなく、力以上の借り入れをするケースがよく見られます子供が生まれた後も住み続けられる前提で購入することが一般的ですので、それなりの広さが必要で、価格も高くなり、収入から計算するぎりぎりまで借り入れがちです。なにかトラブルがあった場合は、それがネックになることもあります。
デメリット4:親族と居住する場合は、さらに未知数が多くなる
兄弟姉妹の場合は結婚により、新たな住まいに転出するケースは普通に考えられます。住まいを共有名義にすると、別々に住むことになった場合は、問題を複雑化します。単独名義の場合でも、相手の部屋代相当分の拠出をあてにしてローンを組むと転居した場合返済はその分負担増となります。
デメリットをどうカバーする?
若くして住まいを取得する場合のデメリットは、ほぼ今後の生活スタイルの未知数部分が多いということに起因します。したがって、想定される変化にどのように対応するかを考えて購入することが重要となります。
対策1:容易に貸したり、よい条件で売ったりできる市場性の高い物件を選ぶことが大原則
独身で購入した1LDK程度のマンションは、結婚した後もしばらくは住み続けられるでしょう。住み続けられない場合でも、有利な条件で貸すことができれば、ローン返済後は子供の教育費や老後の生活費に活用できます。この場合、毎月の返済額と管理費の合計額と同等の家賃が得られることが大切です。物件を購入する前に、物件に近い不動産会社で調査をしましょう。市場価値の高い物件でも、入れ替え時は多少空室時期があると思いますので、多少の持ち出しは考慮しておいてください。
対策2:余裕を持った返済計画とする
余裕を持った計画として、その余裕分は万一の場合の返済に備えて別会計でプールしておいてください。月々10万円の返済で2万円ほど余裕があるとします。5年間で1年間分の返済額がプールできます(2万円×12か月×5年間=120万円)。
対策3:当面は生活を絞って貯蓄をふやす
住まいの取得の有無にかかわらず、若い世代は万一に備えて貯蓄額をふやすことが第一です。仕事を通じて社会的スキルの向上に努めるとともに、いざというときに助けになる資金のプールも重要です。
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住宅ローンという多大な負債を負う以上、それなりに生活を絞ることが求められるはずです。しかし若い世代は、エネルギーもあり、やりたいことや買いたいものも多くあり、つい消費が増えがちです。今後どのようなことが起きるかもしれないという将来への想像力も乏しい世代です。共働き家庭で定年までその生活を継続するつもりでも、妻が働けなくなったり、収入の少ない仕事に変わらざるを得なかったりするケースは普通にあるでしょう。いろいろ起きるかもしれない事態を想定して対策を考えて住まいを購入すれば、若い世代で住まいを購入するメリットは大きいものがあります。
<著者プロフィール>
佐藤 章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。
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