「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第8回のテーマは「私が喜ぶ『型』を覚えてもらう」です。

  • 「大事にしてもらう努力」も大事

私が初婚で失敗したのは、自分から相手に「お願い」するスキルがなかったから……と反省していました。

「こうだったらいいな」と思いつつ、「そういう人じゃないし」「わかってて結婚したんだし」とどんどん諦めて、「自分でやったほうが早い」「期待して裏切られると辛い」と、相手に何も求めなくなっていったのです。

そうするととりあえず、生活はスムーズにうまくいきます。でも「これで満足しているんだと」受け取られ、相手からはねぎらいも感謝もなくなります。そうなっても、「そういう人と結婚したんだし」と抱え込んで、「なんだか辛い」と思うようになりました。

そして、私の弱音を聞いた友達から「喉が渇いてないから、私幸せ!って言いながら川の水飲んでる人みたいだね」と言われてしまいました。そう、私は「川の水を飲んでいた女」なのです。

そんな私も力尽き離婚して、「次は誰かにいたわられたり、感謝してもらったりしたい」と願い再婚しました。

現夫は同じく離婚経験者なので「夫婦間でのいたわりや感謝のコミュニケーションは大事」というところまでは理解していて、再婚生活をスタートさせました。でも「私が何をしてもらったら嬉しいのか」「お互い何をしたら感謝を伝えられるか」というところまでは共有できていませんでした。

私は相手が元気がなかったり、落ち込んでいたりしたら励ましたいし、何か差し入れをするなど行動をします。もちろん、そうしたら喜んでもらえると思っているし、相手が喜んでくれたら嬉しい。見返りを求めているわけではありません。

でも、やっぱり「見返りなんかいらない、自己満足だし! 」と、自己犠牲を美化するみたいなことばかりやっていると、また「川の水を飲んで、幸せ」って言うような状態になりかねません。励ましやいたわりはやるのも楽しいけど、やっぱり私にもやってもらいたい。一生、「自分の伴侶にいたわってもらえなくても私は平気なの! 」みたいな人間じゃない、ということは判明しているのです。

「見返りを求めず与える」っていう態度は、私にとって「それができるワタシ」という自意識を満足させてはくれましたが、「自分はいたわってもらえない」という悲しい事実は消えなかった。そして私はそれを乗り越えられなかった。

そこで私は初婚の反省を活かして、諦めずにはっきり相手に「お願い」することにしました。

お願いって、恥ずかしいし、なんだか浅ましいような気がする……。しかも「見返りを求めず、与えるワタシサイコー」みたいな価値観だった人間からはかなりハードルが高い。でもその一歩を踏み出さないと、また同じことの繰り返し。自分がしてほしいことは言わなきゃわからない。

私は、お願いするなら「私をいたわって」とか「やさしくして」とかぼんやりした要求は不親切だと思っていて、具体的に何をしてほしいのか、何をしてくれたら自分が嬉しいのかを伝えることにしました。たとえば、「疲れてるとき、大変なときは甘い物を買ってきて」という感じで。

でも、夫からは「すごくワガママな女」に見えたようなんですよね。なので、はじめはすごく抵抗されました。しかしここで「やっぱりワガママだと思われるんだ……向こうは私をいたわってはくれないんだ」と諦めてはまた同じ事の繰り返し。

やさしくされる努力を怠らない! 自分と円満な夫婦関係のために!と、「やってくれたら嬉しいんだよ」と説得したところ、「抵抗するのも意味がないな」と気が付いてくれたらしく、リクエスト通りやってくれるようになりました。

やってくれたら嬉しいし、喜ばれたほうも「やってよかった」と嬉しい。ポジティブなサイクルが経験できたのは私たち夫婦にとってはよいことでした。考えてみたら最初から完璧ないたわりもねぎらいもありえない。夫婦なんだから、練習すればいいんだと思うようになりました。

以前の私は、相手をいたわる努力ばかりしていて、いたわられる努力をしていませんでした。絶望したり諦めたりする前に、相手がかなえられる簡単なお願いをして、お互い練習していけばいいのだと、今は思っています。

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。