地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒やしてくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方のものを食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。
今回のテーマは宮城県です。東北地方の太平洋側にあり、北は岩手県、南側は福島県、西側は山形県に接しています。
「ずんだ餅」「伊達政宗」「牛タン」で知られる宮城県
県庁所在地の仙台は東北最大の人口規模をほこります。その仙台は、日本のフィギュアスケート発祥地だそうで、ゆかりある人物として、羽生結弦さんや荒川静香さんの名前が並びます。
歴史関係では伊達政宗が有名。お酒好きな筆者としては、ニッカウヰスキーの宮城峡蒸留所は一度行ってみたい場所です。そんな宮城県は漁業、養殖業の生産量が全国3位の県で、サメ類、ギンザケ、カジキ類、ヒラメ、養殖ではホヤの水揚げ量が日本一。日本有数の水産県です。
今回は、市ヶ谷にある「金市朗 市ヶ谷本店」さんにお邪魔しました。JR市ヶ谷駅から麹町方面に徒歩5分ほどのビルに入っているお店です。
入ってすぐのところには炭火の焼き台があるカウンター。テーブル席は半個室になっています。客席は全部で50席ほど。大人数でワイワイガヤガヤというよりも、少人数でお食事を楽しむという感じですね。
「世界の牡蠣王」の名前が付いた牡蠣を堪能!
最初にいただいたのは「焼き牡蠣」(580円)です。「金市朗」さんでは、「世界の牡蠣王」の異名を持つ宮城新昌氏が、牡蠣の養殖法を確立した万石浦(まんごくうら)湾産の真牡蠣「新昌(しんしょう)」を提供しています。
「焼き牡蠣」となっていますが、後から身を炙っているようです。焼き牡蠣って旨味が凝縮される感じでとてもおいしいんですが、バーナーで炙ることによって得られる凝縮感は、その比ではありません!
例えるなら「カルピス原液」。しかも炙り加減が絶妙。中はいい感じの半生感を残しているのでクリーミーさも健在。しかも臭みは全く感じない。食べたときの情報量が多すぎて頭バグりそうになります(笑)。まさに衝撃的な旨さでした!
お次に登場したのは「金華鯖の炙り〆鯖」(880円)です。石巻市の金華山沖で漁獲され、石巻魚市場に水揚げされたもののうち、漁法・重量・品質が基準を満たしたものだけが認定される「金華鯖」を使用しているとのことです。
〆サバの炙りって、わりとポピュラーなものです。いかにブランドサバといえど、だいたいの味の想像は付きますよね。でも食べ終わって思い知りました! ブランド鯖やべー!これほどにサバが存在するなんて……。
まず、あまりにジューシーさに驚きます。脂のノリが半端ではない。身は締まっていて、〆て炙っての行程を経ても損なわれることない弾力。目をつぶって食べたら、魚を食べているのか、お肉を食べているのか若干わからなくなる……。こんな体験そうできるもじゃありません。口に残る旨味と香りにうっとり。もはや自分の身に何が起きているか、わかりません(笑)。
そして3品目は「厚切り牛たん炭火焼き」(1,780円)です。仙台名物といえば「牛タン」。お馴染みですね。戦後、米軍基地で消費されなかった牛のタンとテールを「太助」というお店さんが売り出したことで定着したとされています。
わりと厚めの断面。表面は炭火でカリッと、中はややレア感を残した良い感じの焼き上がりです。味付けは独自配合した合わせ塩に漬け込んでいるらしいのですが、シンブルで上品な塩味。
そして驚くのは食感です! コリコリとした歯ごたえがありながら、なんなく噛みきれてしまうやわらかさ。「歯ごたえがある」と「やわらかい」って、矛盾する表現な気がするんですけど、この食感が同居しています。
今まで、筆者が雑に食べていただけなのかもしれないですが、牛タンを食べてこんな感想を持ったのは初めてです。タンってこういうお肉だったんてすね…。ド定番の名物でもこんな驚きが待ってるなんて「金市朗」さんのポテンシャルが怖い。
近頃有名な〆の焼きそば
締めにいただいたのは、「マーボー焼きそば」(880円)です。
認知が広がったのはここ10年ほどなんだそうですが、その歴史は1970年代まで遡ります。もともとは中華料理店「まんみ」というお店の賄いメニューだったものが始まりだそうで、今では仙台市内にあるいろんなお店で味わうことができるんだとか。
この「マーボー焼きそば」、わりと定義が緩いものらしく、出すお店によってかなり仕上がりが異なるそうです。「金市朗」さんのものは、中華麺はやや平たく、マーボーのアンは少なめ、ひき肉は粗目の塊、お豆腐はお肉の大きさに合わせるように小さく、オイリーな仕上がりです。
全体をよく混ぜていただきます。ジャージャー麺とかタンタン麺みたいな要領ですね。一口食べると広がるのは花椒の香り。ちょっと塩味強め、ピリ辛。お酒を飲んだ後の〆には、ピッタリです。豆腐を細かくすることで麺とよく絡み、粗めのよりひき肉が味を吸うんですね。非常によく考えられています。
酒は日本有数の銘柄がズラリと並べる
宮城は日本酒のラインナップの層が厚く、日本酒の銘柄を気にして飲んだことのある人なら、日本酒界における宮城の存在感の大きさを感じた人は多いのではないでしょうか。
今回は、宮城県北西部にある栗原市の酒蔵・萩野酒造さんの「萩の鶴 純米吟醸 別仕込 こたつ猫」をいただきました。「萩の鶴」の猫ラベルシリーズは、季節ごとに異なるお酒とラベルを楽しめるのが特徴です。
温かみがあり、かわいらしい猫のイラストがたまりません。「金市朗」さんでは、年間を通して季節ごとの猫ラベルシリーズを楽しむことができます。冬限定の「こたつ猫」は、リンゴを思わせるような甘い香りと、若干のガス感があります。まさにこたつに入りにながらちびりちびりといただきたい一本でした。
食材の良さとバリエーションの豊かさが魅力
「金市朗」さんは、創業7年目。仙台市出身の伊藤一紀さんが店長を務めるお店です。牡蠣もサバと宮城の選び抜かれた食材を提供してくれるだけでなく、今回いただいた調理法以外にも、牡蠣なら、生・フライ・バター醤油焼き・西京焼きとバリエーションが多いのが特徴です。メニューを選ぶときのワクワクと、次はあれを食べに来ようという楽しみを持って帰ることができます。
牛タンもカツオも自慢の焼き台で仕上げます。始めて知った食材も、食べ慣れていたはずのも料理もどちらも驚きがあり、おいしい。まさにエンターテインメント。そんな何度も通いたくなる市ヶ谷「金市朗」さんにぜひ来てけさいん!
<お店情報>
「金市朗」
住所:東京都千代田区六番町4-3 GEMS市ヶ谷 6F
営業時間:[月~金]11:30~14:00、17:00~翌0:00/[土曜・日曜・祝日]17:00~23:30
※取材時の2021年3月には、緊急事態宣言下にあり、ディナータイムは20:00までの短縮営業中。お弁当のテイクアウトを行っていた
定休日:不定休
※メニューは税別
古屋敦史
取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)