次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第55回は「SDGsグルメ」。

  • シンシアブルー「ASC認証の真鯛を使ったたい焼き」

「SDGsグルメ」って何?

最近、食べることでSDGsに貢献できる食品やレストラン、すなわち“SDGsグルメ”が増えている。

近ごろよく耳にするSDGsとは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のこと。持続可能な世界を実現するために、国連に加盟するすべての国が2030年までに達成を目指す目標だ。貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、海洋資源など、世界の幅広い課題に対して、具体的な17のゴールが定められている。

日本でもSDGsに取り組む企業が増えており、食品・外食業界も例外ではない。環境にやさしい食材を使ったり、ストローや梱包材のプラスチックを削減したりするのも、その一例だ。

「SDGsグルメ」はどこで食べられる?

SDGsグルメは、SDGsを意識したレストランへ行ったり、商品を購入したりすれば味わうことができる。

身近なところでは、「キットカット」もSDGsグルメだ。ネスレ日本では2020年9月には業務用など一部商品をのぞくほぼすべての「キットカット」大袋タイプ製品の外袋を、プラスチックから紙へと変更。従来と比較して年間約450トンのプラスチック削減が見込まれており、SDGs目標の「12.つくる責任 つかう責任」の達成に向けた取り組みを推進している。

  • 「キットカット」大袋タイプ製品一例(希望小売価格300~550円※商品により異なる)

この取り組みを機に、紙パッケージで折り鶴をつくり、そこにメッセージを書いて想いを伝えるという新たなコミュニケーションも提案している。「キットカット」製品は2022年までに100%リサイクル可能、あるいはリユース可能な素材へ変更することを目指しているそうだ。

「身近なキットカット製品から率先して環境に配慮したアクションを取ることで、楽しみながら環境について考えるきっかけづくりになればと思います。また消費者の方とともに海洋プラスチックごみ問題を考えるきっかけにもしていきたいです」(ネスレ日本コンフェクショナリー事業本部のグスタヴィッチむつみさん)

SDGsに取り組む日本酒もある。群馬県の永井酒造は日本酒消費が減少するなか、もっと気軽におしゃれに日本酒を楽しんでほしいとの思いから、アーティストとコラボレーションした「MIZUBASHO Artist Series-水芭蕉アーティストシリーズ-」を2020年9月に発売。水芭蕉の花をモチーフにしたラベルのイラストは片岡鶴太郎さんが描いたものだ。

  • MIZUBASHO Artist Series。左から、スパークリング酒(1,200円/360ml)、スティル酒(1,300円/720ml)、デザート酒(1,000円/300ml)

タイプは3種類。一般的な日本酒と違い、スパークリング酒(食前酒)・スティル酒(食中酒)・デザート酒(食後酒)というワインのような分類がユニークだ。なかでもスティル酒は、ライチのような甘い口当たりとほのかにグレープフルーツのフレーバーを感じる軽快な味わいで、さまざまな料理と合わせやすい。

同シリーズは、売り上げの 5% が「尾瀬の水芭蕉プロジェクト」へ寄付される。実は、世界的な地球温暖化や気候変動の影響により、尾瀬ではニホンジカによる植生被害が増加しており、水芭蕉などの高山植物が被害を受けているのだ。「尾瀬の水芭蕉プロジェクト」は群馬県・尾瀬の環境保護へ取り組むもので、SDGsの目標「15.陸の豊かさも守ろう」の達成にも結び付く。

「販売は順調で、1年間の寄付金目標額の半分を、4ヶ月で達成しました。価格・ビジュアル・味わいが次世代型の日本酒として若い人や女性を中心に支持されているようで、サイトを訪れる半数以上が20~40代の女性です」(永井酒造マーケティング&PRの永井松美さん)

SDGsグルメは外食でも楽しめる。東京・原宿に2020年9月にオープンした「シンシアブルー」はサステナブルシーフードを使った料理を中心としたブッフェレストランだ。

  • 前菜の一例。「ASC認証の銀鮭を使った瞬間燻製」

サステナブルシーフードとは、環境や生態系を保護し、魚を減らさないよう再生産のペースを守りながら漁獲・養殖された魚介類のこと。乱獲などが原因で日本の総漁獲量が激減している現状を知り、SDGsの目標「14.海の豊かさを守ろう」にも欠かせないサステナブルシーフードを採用したそうだ。

料理はブッフェ料金のみで5900円(税別・サービス料別)。前菜は10種類以上から好きなだけ頼むことができ、さらにメインとデザートが付く。メニューは日によって変わるが、たとえば前菜にはASC(水産養殖管理協議会)認証の銀鮭を瞬間燻製にしてカリフラワーのソースとハーブのオイルで包んだ「ASC認証の銀鮭を使った瞬間燻製」を、メインにはサクサクのパイ生地のなかにASC認証を得た愛媛県の真鯛を入れた「ASC認証の真鯛を使ったたい焼き」(冒頭写真)などを提供している。

「お客様に伝えたいのは、現代を生きる私たちの在り方、考え方で未来の日本の海が変わるということ。サステナブルな魚介類だからといって“おいしくない”なんてことはありませんので、しっかりとした素材の味をカジュアルに気取らず楽しんでください」(同店シェフの吉原誠人さん)

「SDGsグルメ」を味わってみた

今回はSDGsグルメとして、1872年にフランス・パリで誕生した老舗紅茶ブランド「ジャンナッツ」の紅茶を飲んでみた。

  • 「ジャンナッツ ヘリテージシリーズ/アールグレイ(50個入)」(参考価格537円税込)

ジャンナッツでは、2000年よりファム・デュ・モンド財団の活動の支援を通じて、スリランカの茶園で働く女性たちをサポートしている。具体的なサポート内容は、職業訓練や健康に働けるための定期健診、マネージャーのような責任あるポジションでの活躍機会の提供など。SDGs目標の「5.ジェンダー平等を実現しよう」や「8.働きがいも経済成長も」の達成に貢献している。

今回はスリランカ産の茶葉を使った一番人気の「ジャンナッツ ヘリテージシリーズ/アールグレイ」を飲んでみた。スリランカ産のディンブラ茶葉に、イタリア・シチリア産ベルガモット天然香料で香り付けしたもの。ちなみにティーバッグは、ホチキス留めをしていないので環境にもやさしい。

お湯を注ぐと、ベルガモットの爽やかな香りが立ち上り、茶葉も上品な風味ですっきり飲める。ティーバッグを2袋使ってミルクティーにしても、まろやかでほっとする味わいでおいしい。

「私たちが目指すのは、女性が仕事と生活環境の向上を通して、充実した人生を歩んでいける世界。未来の世代へとより良い人生のバトンをつなげていけるように、女性たちの継続的な成長を応援しています。ジャンナッツの紅茶を飲むとき、私たちを取り巻く人や物への“優しさ”の大切さをリマインドする、そんな存在でありたいと思っています」とジャンナッツ広報のシャーロットさん。そんな背景を知ると、おいしさも増す気がする。

SDGsグルメは飲食店やメーカーにとっては社会的責任を果たせるものであり、消費者とっては共感しやすく、買う動機にもなる。今後意識していきたい食選びの観点のひとつといえるだろう。

※価格は特記がない限り税別