人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者である前川孝雄氏が、「人を大切に育て活かす」企業の取り組みに着目。本連載では、その最前線を紹介します。


ローランズは、「排除なく、誰もが花咲く社会」の実現をビジョンに掲げたソーシャルベンチャー企業。前回に続いて代表取締役の福寿満希氏に障がいのある従業員の支援と企業経営との両立、今後の展望などについて伺いました。

  • ローランズ代表取締役/フローリストの福寿満希氏(右)とFeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師の前川孝雄氏(左)

それぞれが得意な仕事をする

——障がい当事者でお花づくりも初めての人を採用して、研修や配属はどのように行ってきたのですか。

支援体制としては、一人のベテラン・スタッフに、5人前後の障がい当事者がアシスタント・スタッフとしてついて業務を行います。お花づくりは、複雑な作品でも、工程を細分化すればすべてシンプルな業務に分けられます。そこで、本人が得意な工程を一つ選び、繰り返し練習してもらうようにすれば、比較的早く習得できます。障がい特性の違いによる得意なことを組み合わせて、トータル的に業務効率をアップさせることを行っています。

かつて各自にすべてのパートを担当してもらおうとして、苦手な作業に自信をなくした人が辞めてしまうこともありました。得意な仕事なら、自信をもって働いていただけます。

社内ジョブ・チェンジも積極的に行っています。「フラワー」「グリーン」「カフェ」など各事業の異なる繁忙期に、スタッフに相互の応援をお願いします。今より自分に合った仕事があれば異動し、活躍してもらいます。ジョブ・チェンジのチャンスは、何度でもあります。一般に、精神障がい当事者の仕事の1年定着率は48%といわれるところ、ローランズでは90%です。

特別扱いはしない

——その中でも苦労されたことはありますか?

障がい当事者雇用を始めた初期の頃、当事者を特別扱いをしてしまい、失敗した経験があります。当事者は支援してもらうのが当たり前になり、仕事が終わらなくても他人に任せて引き継ぎもなく帰ってしまう。その仕事がゆっくりでも、最低賃金以上が支払われます。スタッフ側は残った仕事に追われて、何のための支援かとモチベーションを下げ、辞めていきました。当事者も結果的に疎まれ、孤立してしまいました。

そこで、支援者は当事者ができない仕事を巻き取るのでなく、どうすれば当事者が仕事を主体的にやり切れるかの工夫を考え、環境整備に徹する役割に切り替えました。その結果、強みを生かした細かな役割分担に行きつき、当事者が責任を持って仕事を完結できるようになったのです。すると、「もっと仕事をください」という姿勢に変わり、もっと自分のやれることが増えるように学んだり、自分が習得したことを周りに伝えるようになったりと、職場に活気が溢れるようになりました。

——障がい当事者に限らず、すべての働く人に通じるお話ですね。

私は、企業の方に障がい当事者雇用のお話する際には、「障がい当事者を特別扱いすることは、決して本人のためにも会社のためにもなりません。配慮が一人にではなく、すべての人に行き届くのが企業に及ぼす本当のプラスの効果です」とお伝えしています。

——起業して10年で9割が消えていくといわれるほど、経営の舵取りは難しいものです。障がいや難病と向き合うスタッフの育成や活躍と、会社を持続成長させる経営を、どう両立しているのですか?

会社のKPI(Key Performance Indicator=業績評価指標)には、売上高だけではなく、障がい当事者雇用者数を置いています。「今期は何人雇用を作ろう」と目標を設定し、そのために必要な売上を見定めるという順序で考えます。社会的意義に重心が行き過ぎて、商品を同情で買ってもらうようではいけません。まず商品が素敵であることが第一で、その事業プロセスに障がいと向き合う人がどう関われるか、社会課題の解決を載せていけるかと考えます。

自分たちの仕事を通して作りたい社会を言語化

——御社が目指すビジョン「排除なく、誰もが花咲く社会」とは、どんな社会ですか?

人には十人十色、百人百様の"咲き方"がある社会です。自分を周りと比べなくても大丈夫。自分が納得した咲き方ができれば120点! という考え方です。誰もがお互いを排除することなく、受け入れ合える社会にしたいという思いです。

そのために私たちの会社ができることは何かと考え、ミッションに「色のある事業を通じてマイノリティの働くを彩る」、3つのバリューとして「社会的意義と品質」「人と環境」「パートナーシップと柔軟」を掲げました。

障がい当事者の就労の場は、「狭くて、暗くて、遠い」イメージです。世間から見えないバックヤードで、淡々とこなす作業になりがちです。そうではなく、よりオープンな場所で明るい気持ちで働けるようにしたい。このお店の造りでも心がけたことです。一人ひとりのその人らしい"働く"に彩を添えていく場にしたいのです。

ローランズが提供する商品づくりには必ず障がい当事者が関わり、かつ環境に配慮しています。いくら利益が上がるものでも、その条件を満たさない仕事は受注しません。かつ、"障がい当事者が作るものだから買っていただく"のではなく、品質をしっかり保つことで、心から買いたいとリピートしていただけることを重視しています。

商品やサービスを通じて、人と環境に働きかけていきますが、それも自分たちだけで完結するのではなく、取引先や他の企業・団体ともよきパートナーとして協働していくことを大切にしています。障がいと向き合う人は、どうしても変化に適応していくのが苦手な場合があります。その点は、まさに植物のように、周囲の環境に合わせて育ち方を柔軟に変えていくことをめざしていこうと考えています。

私たちが「ビジョン」「ミッション」「バリュー」をしっかり定めたのは、ここ数年のことです。それまではスタートアップ企業として走ってきましたが、「自分たち目線」ではなく、自分たちの仕事を通してどのような社会を作りたいかを明確にしなければと考えました。

他の企業や団体と幅広くコラボしていくうえでも、私たちが目指すものを言語化して内外で共有できることが大切だと考えました。そこで、外部パートナーの皆さまにもご協力をいただき、何度も何度も壁打ちの話し合いをして、1年がかりでやっと言葉にできたものです。

——今後の展望を教えてください。

カフェの夕方の遊休時間を活用し、他企業と協賛して「お花屋さんのこどもごはん」を始めました。地域で困難を抱える子どもたちの支援が目的ですが、運営を担っているのは障がい当事者のスタッフです。障がい当事者が社会課題の対象ではなく、社会課題を解決する主体の側に立っています。障がいがあっても、自分も誰かのために働くことができ、共によりよい社会を作っていく一員なんだと、外向き・前向きに変えていきたいと思っています。

また、お花の業界を障がい当事者を含めより多くの人に活躍してもらえる場所にするため、フラワーアカデミーをこの冬オープンする予定です。お花で働きたいと思う人、実際に働ける人を増やし、多くの人が自ら花咲くことができる業界にするために、障がいの有無は関係なくお花を学べる場が必要だと考えました。

ローランズのブランド・ロゴは、凛と咲く一輪のバラと、差し伸べられた手を描いたものです。「一輪の花から始まるやさしさの循環」とも表現しています。誰もが双方向に支援し合い、やさしさが循環する社会をつくっていきたいと考えています。

——本日は、どうもありがとうございました。