こんにちは、産業医の武神と申します。私は主に外資系企業で毎年年間1,000人を超える働く人と、心と身体の健康相談をしています。

私たちはこの1年間、新型コロナ感染症の影響を受けてきましたが、コロナ禍のこの状況はまだまだ続きそうです。昨年は約1,000件の在宅勤務者との産業医面談を行いましたが、在宅勤務を喜ぶ人がいる一方、新型コロナ感染症よりも在宅勤務にストレスを感じている人もたくさんいました。

そこで今回は、在宅勤務ストレスとしなやかに付き合っているビジネスマンたちが行っている、メンタル不調を予防する方法を3つお伝えさせていただきます。

空間と時間を「区切る」習慣を身に付ける

1つめの方法は、「区切る」習慣を身に付けることです。これは、空間を区切る、時間を区切る、の2通りあります。

在宅勤務のストレスの1つは、ずっと同じ空間にいることです。出勤や出社という環境の変化がない中で、一日ずっと同じ空間にいるため、オンとオフの区別、メリハリをつけることや気分転換がいつものようにできず、ストレスが溜まってしまうのです。これは、特にワンルームマンションなどに暮らす若者に多くみられました。

また、ワンルーム暮らしでなくても仕事はいつも寝室やダイニングで、家族に遠慮しながらの在宅勤務者からは、息が詰まるという言葉を何度も聞きました。

一方、適度な外出や散歩で気分転換をしたり、家庭内では仕事スペースとリラックスするスペースとを区切ったりできている人は、在宅勤務にも対応できている印象です。

在宅勤務でも、出社しての勤務と就業時間は同じはずです。しかし、在宅勤務中はお昼休みをしっかりとらない人たちや、就業開始時間が会社に到着する時間ではなく家を出る時間だったり、仕事を終えるのは退社時間でなく帰宅時間だったりする人たちもいました。

たまに仕事が立て込んでいる時だけであればいいのですが、これが慢性化してしまう人たちには、上手に時間を区切る必要があると感じます。

プライベートタイムと仕事時間、お昼休みだけでなく1〜2時間に1回の小休憩など、普段会社でやっていたことを在宅勤務でもやる方が、疲れがたまりすぎる前に休むことができ、結果として気力や集中力が1日維持できます。

在宅勤務のおかげで、趣味のコーヒーを毎日ハンドドリップで入れる至福の時間が過ごせるようになったと面談で言っていた社員がいました。とてもいいと思います。

これを就業時間中に不謹慎だと怒る人よりも、羨ましいと思える気持ちがあるならば、誰でも自分なりの休憩時間を決めることは難しくはないことです。

マラソン選手はいいパフォーマンスを出すために、喉が乾いてから水を飲むのではなく、自分で計画した地点で水を飲みます。ビジネスマンがいいパフォーマンスを出すためには、疲れて集中力が切れてしまう前に、小休憩で時間を区切ることが大切です。ぜひ、お試しください。

パジャマや部屋着から着替える

在宅勤務でのメンタル不調を予防する2つめの方法は、着替えることです。

私は在宅勤務者との産業医面談で、在宅勤務はオンとオフのメリハリがなく、寝るまでずっと働いている気分だとか、反対に、家だと仕事モードに入りづらいなどの声をよく聞きました。

そのようなことを言う人で多かったのが、パジャマや部屋着のまま在宅勤務をしている人たちでした。会社によっては在宅勤務中の同僚とのコミュニケーションは電話などの音声のみのこともあります。そのような場合は特に、着替えることが煩わしいようでした。

一方、保育園への送迎やペットの散歩があるために、着替える習慣があった人たちからはそのような声をあまり聞かれませんでした。中には、出社する時につけている香水をつけ流ことで気分を上げて、メリハリをつけている人もいました。

気分転換やメリハリをつけるためにも、部屋着ではなく軽い仕事着に着替えることや、自分で在宅勤務用の服を決めてしまうこと、ぜひやってみてください。

椅子やデスクトップモニターなどに設備投資をする

在宅勤務でのメンタル不調を予防する3つめの方法は、設備投資です。

在宅勤務に伴い、肩こりや腰痛の訴えは増えました。1日の仕事を食卓用の机や椅子、中には床に座ってちゃぶ台でこなしていること、デスクトップではなくノートパソコンを使うようになったこと、様々な要因があると思います。

軽度の肩こりや腰痛は、適度な運動やストレッチで解消できます。しかし、在宅勤務の期間が長くなるにつれ、症状が解消されにくくなり、その結果、睡眠や日々の気分に影響が出てきてしまっている人たちもいました。身体が健康であることは、心の健康のために欠かせません。

考えてみれば、在宅勤務している人は、起きている時間の半分以上を家の椅子に座っています。いい睡眠には自分にあった枕が必要なように、日中快適に過ごすためには、自分にあった椅子や仕事環境が大切なのです。会社が、腰痛になりにくい、不快になりにくいいい椅子を提供してくれていたことに、在宅勤務後に気がついた方も多いのではないでしょうか。

こう言った部分での援助をしてくれている会社は多くはありませんが、上手に対処している人は、コロナ禍の早い段階で、仕事用の椅子やデスクトップモニターを揃えていました。

社員たちに買ったもの、よかったものを聞いてみると、すべてがお金のかかるものではないようです。仕事用の椅子もいいものは10万円以上ですが、ゲーミングチェアなどはもっと安価なものもあります。また、ニトリやイケアを勧める声も多数ありました。自宅に新たにこのような椅子を置くスペースがない人も、骨盤サポートチェアやゲルクッションでもだいぶ効果があるようでした。ぜひ、お試しください。

新型コロナ感染症の影響で在宅勤務という勤務形態が急速に広まっています。コロナ後も、ある程度は続きそうです。心身ともに健康に、最高のパフォーマンスを出せるよう、お役に立てていただければ光栄です。