どれだけ月日が経とうと記憶から消えることのない東日本大震災、まだまだ復興支援が必要な熊本地震、そして今年猛威をふるった西日本豪雨。『災害大国』と呼ばれる日本では、毎年のように自然災害が起こり、それと同時に多くの人々が助けを必要としている。

ニュースで被災地の惨状を目の当たりにし、「自分も何か力になれないか」と考える人は多いだろう。しかし、忙しい日々に追われ、自分の生活で精いっぱい……と一歩を踏み出せずにいる人もまた多いはず。

  • 被災企業の復興を目指す、松本さんの想い

    「石巻元気復興センター」代表理事の松本俊彦さん

この連載では、東日本大震災の被災地をはじめ、さまざまな形で社会奉仕に繋がる活動を行う人々を取材。彼らの想いを通じて『人のために働く』ことの意味に迫っていきたい。第3回は、宮城県・石巻の被災した企業が一丸となって復興を目指す団体「石巻元気復興センター」の代表理事を務める、松本俊彦さん。

被害企業がすべきことは何か

9月15・16日に開催された復興イベント「ツール・ド・東北」の飲食ブースで、「いらっしゃいませー!」とひときわ威勢の良い声が。声の主は「石巻元気復興センター」ブースの松本さんだ。一見すると、飲食店の大将のように思えるが、松本さんの本職は印刷業。石巻の市街地で印刷広告会社を営んでいる。

「震災前は、飲食業の経験なんて全然なかったんですよ。でも、いざやってみるとおもしろいです(笑)」

  • 「ツール・ド・東北」の飲食ブースの様子

そう気さくな笑顔で話してくれる松本さんだが、ここに至るまでの道のりは実に険しかった。東日本大震災によって、石巻市の全企業の67%(約1,800社)が津波の被害を受けたと言われている。松本さんが営む会社も例外ではない。

「うちの工場も全部やられてしまい、営業を停止するしかありませんでした。会社によって被害規模は違いますが、少ないところだと数千万、多いところだと数億円の被害を受けたと聞いています。自分も途方に暮れるような状況でしたが、こんなときこそ『みんなで力を合わせるべきだ』と思い、みんなに声がけを始めたんです。それが今の活動に繋がっています」

震災から間もない、まだまだ先の見通しが立たない不安な時期、松本さんは率先して石巻の地元企業に呼びかけ、一丸となって復興を目指そうと働きかけた。

「最初の目的は、みんなの今の状況を伝える要望書を地元の国会議員に提出することでした。業種もさまざまな30の地元企業の経営者たちで定期的に集まり、情報交換や石巻のこれからについて話し合うようになったんです。それから次第に復興が進んでいくわけですが、特に大変だったのが水産加工業でした。工場や機械が津波でやられてしまったので、なかなか再起の目途が立たなかったんです。自分も同じような状況だったので、一緒に何かできないかと考え、始めたのが『石巻元気復興センター』の活動です」

一丸となって『石巻ブランド』をアピール

「商品を生産していくことはなかなか難しかったのですが、加工品の在庫を抱えている会社も多かったので、それらの色んな商品を寄せ集めてセット販売で売り始めたんです。それを皮切りに、みんなで関東圏で行われる飲食の展示会に出展したり、今回の『ツール・ド・東北』のようなイベントに参加させてもらったり、『石巻ブランド』をもっと知ってもらうための活動を行っています」

  • 石巻の牡蠣やウニを使用したグルメ

今、石巻の市街地を流れる北上川沿いには、大型の観光交流施設「いしのまき元気いちば」がオープンしている。1階は生鮮マーケット、2階はフードコートとなっており、水産加工品など石巻ならではの味覚が楽しめる施設となっている。これも、松本さんをはじめ「石巻元気復興センター」に参加する企業たちが出資をして作り上げたものだ。

「今の石巻では『自分の会社だけ儲ける』というのは、違うと思うんです。例えば、牡蠣をつくっている会社が『うちの牡蠣おいしいよ!』ってアピールしたところで、たかが知れてます。でも、みんな一丸となって『石巻の牡蠣はおいしいよ!』ってアピールすれば、石巻の水産業全体が潤い、個々の会社にも利益が生まれる。それが必要なことだと思っています」

そうした活動を通じ、震災前は関わりのなかった企業の人たちとも今では『絆』が生まれているのだという。

「チームのメンバーで、しょっちゅう関東圏に泊りがけで展示会などに行くので、なんか合宿みたいで楽しいんですよ。夜は居酒屋で反省会もするし(笑)。もともとはお互いライバルだったけど、今では一緒に協力して新しい商品をつくることもありますし、強い仲間意識ができあがっていますよ」

これからの復興に必要なこと

震災から7年の月日が経った今年、松本さんはようやく新社屋を建て直すことができたのだという。最後に、これからの石巻に何が必要か聞いてみた。

「被災地の復興は、これからが大変だと思っています。震災直後は、家のことも仕事のこともやるべきことが山積みで不安でした。でも、今はそれとは違う不安があるんです。復興が進み、多くの地元企業が失ってしまった機械などを新調し、震災前よりもいい設備を揃えて営業を再開しています。でも、肝心の仕事がないんです。いい車を買ったけど、乗るところもなければ維持するお金もない、といった感じです。だからこそ、これからが大切だと思っています」

  • 北上川沿いに建つ、観光交流施設「いしのまき元気いちば」

そうした現状を受け、松本さんはこれからも『みんなで協力し合うこと』が大切だと語気を強める。

「念願だった市場(「いしのまき元気いちば」)も出来上がったので、この調子でもっと活動の幅や規模を大きくして、より一層、団体プレーに力を入れていきたい。何事も、ひとりは怖いじゃないですか? 失敗したときが。だけど、みんなでやれば大丈夫。もし失敗したら、そのときはみんなで頭をかけばいいんだから(笑)。また出直せばいい!」

そう、松本さんは豪快に笑う。そんな明るさこそ、いつしか「石巻ブランド」が日本全国へ、世界へ、広がっていく未来に続いているように思える。

※取材協力:ヤフー