2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第8回は「平成8年(1996年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

町にアムラーがあふれ、「たまごっち」が発売された平成8年(1996)は、各ジャンルの長寿番組が次々にスタート。

バラエティでは、『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』(日本テレビ系)、『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(日本テレビ系)。

音楽番組では、『うたばん』(TBS系)、『速報!歌の大辞テン』(日本テレビ系)、『LOVE LOVE あいしてる』(フジテレビ系)。報道・情報番組では、『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)、『ズームイン!!サタデー』(日本テレビ系)。

週末の番組では、『王様のブランチ』(TBS系)、『メレンゲの気持ち』(日本テレビ系)。深夜では、『出動!ミニスカポリス』(テレビ東京系)。地方では、『水曜どうでしょう』(北海道テレビ、テレビ朝日系)の放送がはじまった。

一方で、『なるほど!ザ・ワールド』(フジテレビ系)、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)、『クイズ世界はSHOW byショーバイ!!』(日本テレビ系)などが終了。長寿バラエティが相次いで幕を閉じたことで、一時代の終わりを感じさせた。

その他では、7月にアトランタ五輪が開幕。男子サッカーで西野朗監督が率いる日本代表がブラジル代表に1-0で勝利し、「マイアミの奇跡」と呼ばれた。

ドラマでは数多くの名作が誕生した中、TOP3には心が洗われるような3作を選んだ。

悲劇的な結末すらヒロインの魅力に

■3位『ピュア』(フジテレビ系、和久井映見主演)

  • 和久井映見

    和久井映見

  • 堤真一

    堤真一

放送スタート前から、「月9のヒロインが知的障がい者? しかもラブストーリー?」と大きな話題に。『夏子の酒』『妹よ』のヒットで堂々たる主演女優となっていた和久井映見の演技に注目が集まった。

ドラマがはじまってみると不安は杞憂に終わり、「ピュアだからこそストレートに愛情を伝える」ヒロインに魅了される視聴者が続出。知的障がいを持つ優香(和久井映見)と、両親が自殺した過去があり心に障がいを持つ徹(堤真一)が、徐々に気持ちを通わせていく物語は、月9の枠を超えて多くの人々に愛された。

最終回の急展開と悲劇的な結末は賛否両論だったが、そもそもが「恋よりもずっと深い愛を描こうとした作品」だけに、熱心な視聴者ほど納得していた感がある。「徹を失った悲しみをピュアな優香がどう受け止めるのか」も含めて、余韻を残す最終回となっていた。

ちなみに、まったく同時期の月曜22時に、売れっ子モデル・ちひろ(鈴木京香)と知的障がいを持つ澄夫(大沢たかお)の恋を描いた『オンリー・ユー~愛されて』(日本テレビ系)が放送されていた。「知的障がい者の恋を描いたドラマが2時間連続で放送されている」という超レアケースであり、SNSの発達した現在なら「かぶった! 、「演技は◯◯のほうがうまい」と大騒ぎだっただろう。

その後、症状の違いこそあれ、1998年に『聖者の行進』(TBS系)、2000年に『君が教えてくれたこと』(TBS系)と『天使が消えた街』(日本テレビ系)、2002年に『アルジャーノンに花束を』(フジテレビ系)が放送されたほか、『僕の歩く道』(フジテレビ系)、『だいすき!!』(TBS系)、『ATARU』(TBS系)、さらに現在放送中の『グッド・ドクター』(フジテレビ系)まで、精神障害をモチーフにした作品は多い。

主題歌は、Mr.Childrenの「名もなき詩」。イノセントな歌詞が純愛をテーマにした作風にフィットし、毎話のクライマックスシーンを盛り上げた。

「甘く切ない」高校生の青春ドキュメント

■2位『白線流し』(フジテレビ系、長瀬智也・酒井美紀主演)

酒井美紀

酒井美紀

「1990年代の青春群像劇」と言えば、この作品しかないだろう。

夢と現実に揺れる「高校3年生」という時期、みずみずしい若手俳優たちが見せる恋と友情、長野県松本の美しい風景……どれをとってもプロデュースのバランスが絶妙だった。

なかでも同作を象徴していたのは、10代ならではの葛藤。定時制に通う大河内渉(長瀬智也)と医師の娘・七倉園子(酒井美紀)の格差愛、進路に悩む長谷部優介(柏原崇)、飯野まどか(京野ことみ)、橘冬美(馬渕英里何)、富山慎司(中村竜)、渉に振り向いてもらえず園子に嫌がらせをしてしまう汐田茅乃(遊井亮子)。

そこにいたのは、異性や将来を強烈に意識しはじめた等身大の高校生。当時、高校生の視聴者たちにとっては、難関大学を受験することへの疑問や、夢について考えるきっかけとなっていた。

彼らの物語は、若さゆえの未熟さと繊細さであふれ、思い通りにならないことばかり。純粋な分だけ傷つきやすく、胸を締め付けられるような切ない状況が次々に訪れた。それだけに、全日制の園子と定時制の渉が、同じ教室の同じ机を使ってやり取りをするシーンは、甘酸っぱさが倍増。その後、反対や妨害をされるほど2人の心は通い合い、視聴者を応援せずにはいられない気持ちにさせた。

1996年3月の連ドラ終了後、1997年8月、1999年1月、2001年10月、2003年9月、2005年10月の5度にわたってスペシャルドラマが放送されたのは、視聴者が渉や園子ら登場人物だけではなく、彼らを演じた若手俳優にも感情移入していたからだろう。同作には、長瀬や酒井ら若手俳優が、少年少女から大人の男女に変わっていく姿を追うドキュメンタリーとしての醍醐味があった。

特に高校生の視聴者は、ドラマの登場人物たちと一緒に年齢を重ね、今も彼らが同級生のような感覚があり、ふと会いたくなってしまう……現在そのような若年層に訴求できる連ドラが現在ほとんどないのは残念だ。

何気ない学校や神社の風景、清流や星空などの美しい自然。そして、切なさを誘うスピッツの主題歌「空も飛べるはず」。どれも高校生の日常にある光と影を見事なまでに引き立てていた。