愛すべき「良き友」たちの再生群像劇

■1位『王様のレストラン』(フジテレビ系、松本幸四郎主演)

松本幸四郎

松本幸四郎(現・松本白鸚)

放送当時は、それほど話題にならず、視聴率も10台中盤と普通レベル。「面白いんだけど、凄く好きというほどでもない」という人が目立ち、熱狂的なファンがいるわけではなかった。しかし、時を経るごとにその素晴らしさに気づく人が多かったという。実際、全国各地で何度となく繰り返された「再放送を見てファンになった」という人もいるようで、まさに噛めば噛むほど味わいの増す名作だ。

「三谷幸喜らしいシチュエーションコメディ」と言えばそうなのだが、『王様のレストラン』は、どの作品よりも人間愛に満ちていた。レストランの面々は、「小ズルくて、おバカで……と短所だらけだけど、人の良さがにじみ出ていて、どこかチャーミング。そして、いざというときは力を合わせて、最後は笑顔を分け合える」、そんな体温を感じさせる愛すべきキャラだった。

三谷の脚本は、人をおちょくったような設定やセリフこそ多いが、ベースは決して性悪説ではなく性善説。そのため視聴者は、安心して笑い、時に涙することができる。レストラン名の『Belle Equipe(ベル・エキップ)』が「良き友」という意味であることからも、それが分かるだろう。

劇中、何度も「腰は低いが、態度はデカイ」と言われたギャルソン・千石武を演じた松本幸四郎だけでなく、レストランに務める12人はすべて魅力的だった。なかでも話題を集めたのは、西村雅彦、小野武彦、梶原善、白井晃ら「三谷組」の舞台俳優たち。すでに主演級だった筒井道隆、山口智子、鈴木京香を上回るほどの存在感を見せ、一気にメジャー俳優の仲間入りを果たした。

最終回のハイライトは、千石が店を去るきっかけになるほどの問題児だった稲毛(梶原善)の号泣シーン。千石からフルーツのグラタンを酷評されたあとに「しかし、発想は素晴らしい!」とホメられ、「数々の非礼をお許しください。ずいぶん勉強されましたね」と詫びるシーンは、今も語り草となっている。事実、『家政婦のミタ』『過保護のカホコ』(日本テレビ系)らを手掛けた脚本家・遊川和彦に取材したとき、このシーンを絶賛していた。

当作のような再生物語は不況の時期に合うだけに、現在こそ求められている作風と言えるだろう。今春、同じ作風の『崖っぷちホテル!』(日テレ)が放送されたことが、それを物語っているが、かえって『王様のレストラン』の素晴らしさを再認識することになった。

「撮影はレストランのみでロケなし」と予算に優しく、それでいて飽きさせないのは脚本の妙に尽きる。三谷にまた地上波の連ドラを書いてほしい……と思うドラマフリークは多いだろう。しかし、視聴率や各方面への配慮が必要な地上波の連ドラより、自由度の高い舞台や映画のほうが三谷らしさを発揮できるのも確かだ。マーケティングをもとに制作される連ドラが多い中、当作のような「面白さ重視」のアンチマーケティングな作品こそ、千石の口グセだった「素晴らしい!」ものに違いない。

主題歌は平井堅の「Precious Junk」。デビュー曲らしいみずみずしさがあり、手練れ俳優のそろったドラマとのコントラストが鮮やかだった。


『星の金貨』『未成年』『金田一』『沙粧妙子』

あらためて振り返ると、平成7年は過去のヒット作を踏襲したものから、斬新な新機軸まで、幅広いラインナップだった。

主な作品は以下だが、それ以外でも田中美佐子主演『セカンド・チャンス』(TBS系)、浜田雅功・木村拓哉主演『人生は上々だ』(TBS系)、江口洋介主演『僕らに愛を!』(フジテレビ系)、小泉今日子主演『まだ恋は始まらない』(フジテレビ系)、石田ひかり主演『輝く季節の中で』(フジテレビ系)、東山紀之主演『ザ・シェフ』(日本テレビ系)などがある。

  • 酒井法子

    酒井法子

  • いしだ壱成

    いしだ壱成

耳と口に障害を持つヒロインのラブストーリー『星の金貨』(日本テレビ系、酒井法子主演、主題歌は酒井法子「碧いうさぎ」)。三角関係の行方以上に、大沢たかおと竹野内豊の人気が爆発。「あなたはどっち派?」というトークが、初回視聴率7.2%から最終回23.9%という驚異的なアップ率を叩き出した。

いしだ壱成、香取慎吾、反町隆史、河相我聞、北原雅樹が18歳の少年を演じた青春群像劇『未成年』(TBS系、いしだ壱成主演、主題歌はカーペンターズ「Top of the Word」など)。ほとんどの人物がコンプレックスを持ち、反町の暴力団員、浜崎あゆみの妊娠少女を演じる設定はいかにも野島伸司脚本。

  • 堤幸彦

    堤幸彦監督

  • 本木雅弘

    本木雅弘

高校のミステリー研究会所属で、名探偵・金田一耕助の孫が難事件を解決する『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系、堂本剛主演、主題歌は堂本剛「ひとりじゃない」)。今なお「金田一」と言えば初代のイメージが強い人は多いだろう。堂本の好演に加え、堤幸彦の変幻自在な演出が光っていた。

「スキー」と「片想い」をモチーフにした王道のラブストーリー『最高の片想い』(フジテレビ系、本木雅弘・深津絵里主演、主題歌は福山雅治「HELLO」)。本木と深津絵里(通称「うさぎ」)の恋路を邪魔するのは、有森也実。『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)以来、超ヒールとしての存在感はピカイチだった。

  • 福山雅治

    福山雅治

  • 鈴木京香

    鈴木京香

設定と終盤の展開が「『東京ラブストーリー』そっくり」とも言われたが、福山、桜井幸子、椎名桔平のタイトな三角関係で高視聴率を記録した『いつかまた逢える』(フジテレビ系、福山雅治主演、主題歌はサザンオールスターズ「あなただけを ~Summer Heartbreak~」)。最終回で福山の号泣顔をアップで映し続ける演出は、何気にレア度が高い。

飯田譲二が脚本を手がけたサイコサスペンス『沙粧妙子 -最後の事件-』(フジテレビ系、浅野温子主演、主題歌はマドンナ「LA ISLA BONITA」など)。当時、猟奇殺人を扱った作品は衝撃度が高く、浅野の鬼気迫る演技も見応え十分。佐野史郎の怖さに震え上がる人が続出した。

両親と同居しているにも関わらず、やたら夜の営みをしたがる夫婦のラブコメ『我慢できない!』(フジテレビ系、鈴木京香主演、主題歌はtrf「CRAZY GONNA CRAZY」)。意地悪な姑、ちょっかいをかける妻の元恋人など脇役もコミカルで、明るくエッチな鈴木と西村和彦の夫婦愛を盛り上げた。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。