2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろした「平成」。この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年からのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第23回は「平成23年(2011年)」。

※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

平成23年(2011)は3月11日に東日本大震災が発生して特別番組が編成されたほか、改編期前だったことで唐突に打ち切られる番組が少なくなかった。

世間が自粛ムードの中、日本テレビの看板アナだった羽鳥慎一が3月いっぱいで退社し、フリーとして4月から『モーニングバード』(テレビ朝日系)の司会に就任。それに伴い、日テレは『ズームインSUPER』を終了させて、『ZIP!』をスタートさせた。

7月には「FIFA女子ワールドカップサッカー」で日本代表が優勝したほか、アナログ放送が停止してデジタル放送へ移行。日本全体で共有するニュースの多い一年となった。

バラエティでは、『恋のから騒ぎ』(日テレ系)、『関口宏の東京フレンドパークII』(TBS系)、『やりすぎコージー』(テレビ東京系)、『あらびき団』(TBS系)、『クイズ!ヘキサゴンII』(フジテレビ系)などが終了。新たに『ヒルナンデス!』(日テレ系)、『マツコ&有吉の怒り新党』、『炎の体育会TV』(TBS系)、『マツコの知らない世界』(TBS系)などがスタートした。

ドラマのTOP3には、生き方を考えさせられた作品を選んだ。

■大ヒット映画を掘り下げた感動作

3位『南極大陸』(TBS系、木村拓哉主演)

柴田恭兵

柴田恭兵

放送決定の発表時は、「何で今?」という声が少なくなかった。1983年に公開された『南極物語』は長らく邦画実写映画の興行収入トップに君臨した国民的映画であり、心に刻み込まれているからだ。さらに、主演を務めた高倉健と比較されるのがアイドルの木村拓哉とあって、懐疑的な目で見る人が少なくなかった。

しかし、人間と犬たちが織り成す感動の物語はまったく色あせず。敗戦から立ち直ろうと尽力する人々、「日本のために」と犬を預ける飼い主、犬たちを南極に残して帰る無念、首輪をきつく締めてしまった後悔、帰国後の飼い主への謝罪行脚、残酷な現実と涙の再会……終始、生命の尊さを語りかけるような感動作だった。

素晴らしかったのは、「映画よりも長時間のため、当時の日本が置かれた背景や人間模様をじっくり描ける」という連ドラの強みを生かしていたこと。主人公の倉持岳志(木村拓哉)、白崎優(柴田恭兵)、犬の飼い主たちの葛藤や苦悩を丁寧に描いて、映画『南極物語』の世界観を掘り下げていた。

柴田恭兵、香川照之、堺雅人ら豪華キャストの熱演も光っていたが、やはり素晴らしかったのは犬たち。最終回で倉持と再会したとき、「すぐに近づかない」というリアルな姿を見せたタロとジロはもちろん、体を張って仲間たちを守ったリーダー・リキに涙を流した人が多かった。

同作は「TBS開局60周年記念番組」であり、冬の根室で3カ月弱にわたって撮影が行われた大型プロジェクト。視聴率では同時期に放送された『家政婦のミタ』(日テレ系)にかなわなかったが、作り手と視聴者の熱量では決して負けていなかった。

「悲しい」「重い」物語は思わず目を背けたくなってしまうが、見はじめると目をそらすことができず「最後までしっかり見守ろう」と思いはじめるもの。現在は明るく癒されるような物語ばかりだけに、『南極大陸』のような作品がもっと放送されてもいいのではないか。

主題歌は、中島みゆき「荒野より」。

■血のつながりを超えた男と双子と犬

2位『マルモのおきて』(フジ系、阿部サダヲ、芦田愛菜主演)

芦田愛菜

芦田愛菜

放送前は、まったくのノーマーク。前年に『Mother』(日テレ系)の演技が絶賛された芦田愛菜の人気があっても、同じ時間帯に放送される大ヒット作の続編「『JIN ―仁― 完結編』(TBS系)と勝負にならないだろう」と言われていた。

しかし、はじまってみたら芦田に加えて鈴木福とムック(ミニチュアシュナウザー)の人気に火がつき、阿部の演技が絶賛を集め、主題歌とダンスも大ヒット。視聴率争いも五分に近い健闘ぶりで、最終回は23.9%を記録し、3年後にはスペシャルドラマも制作された。

高木護(阿部サダヲ)、笹倉薫(芦田愛菜)、笹倉友樹(鈴木福)、ムック。さらに、アパートの大家であり居酒屋「クジラ」の店主・畑中陽介(世良公則)と娘の畑中彩(比嘉愛未)、護の勤める「あけぼの文具」の上司・鮫島勇三(伊武雅刀)と塩沢民子(千葉雅子)……いずれも血のつながりを超えた家族のような温かい人間関係が描かれていた。

忘れてはならないのは、各回のラストに書き込まれる“おきてノート”へのメッセージ。「子どもは子どもらしく! 犬は犬らしく!」「遠慮は無用」「うがい、手洗い、かぜひかない」「すききらい、いわないのこさない」「好きでも嫌いでも家族」「たんじょう日は家族みんなでお祝いすること」「そうじはちゃんとやること! 足ウラせいけつ! バイバイスリッパ!」「ケンカしたあとは、ペコリンコビーム」「みんなでみんなを応援しよう」「はなればなれでも家族」。心地よい余韻を残すとともに、自分の家族に思いをはせるエンディングとなっていた。

ともあれ、震災で暗いムードに覆われた日本を救うような作品だったのは間違いない。めまぐるしい急展開や変人の主人公でバズることを狙った物語が増えているが、当作は「普通の日々を描いたホームドラマでも十分勝負できる」ことを証明。過剰にならず、押しつけがましさのない演出も含め、『マルモのおきて』には現代の連ドラプロデュースにおけるヒントが詰まっている。

主題歌は、薫と友樹、たまにムック。「マル・マル・モリ・モリ!」。