2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第13回は「平成13年(2001年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

平成13年(2001)は、命をめぐるニュースが続いた。6月に大阪の池田小児童殺傷事件、7月に明石花火大会歩道橋事故、9月に新宿の歌舞伎町ビル火災、アメリカで同時多発テロが発生し、報道・情報番組はシリアスなムード一色に。しかし、12月1日に愛子内親王が誕生し、各局が特別番組を放送するなど日本中が祝福ムードに包まれた。

主な番組では、3月に『ルックルックこんにちは』(日本テレビ系)が22年の歴史に幕を閉じたほか、『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』(日テレ系)、『嗚呼!バラ色の珍生!!』(日テレ系)、9月には現在も人気の「芸能人格付けチェック」を生んだ『人気者でいこう!』(テレビ朝日系)が終了した。

一方、4月に『ザ!世界仰天ニュース』(日テレ系)、『きらきらアフロ』(テレビ東京系)、『はねるのトびら』(フジ系)、10月に『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS系)、『給与明細』(テレ東系)、『SmaSTATION!!』(テレ朝系)、『B.C.ビューティー・コロシアム』(フジ系)などの個性的あふれるバラエティ番組が次々にスタートした。

ドラマのTOP3には、優れた脚本でジャニーズの主演俳優を輝かせたフジテレビの3作を選んだ。

熱くダサい「コメディの長瀬智也」が誕生

■3位『ムコ殿』(フジ系、長瀬智也主演)

  • 竹内結子

    竹内結子

  • 篠原涼子

    篠原涼子

今でこそ長瀬智也はコメディのイメージが強いが、そのきっかけになったのは当作だろう。長瀬が演じたのは、クールなキャラで「抱かれたい男NO.1」のシンガーソングライター・桜庭裕一郎。しかし、本当は「熱くてダサくておバカな男」で、世間が抱くイメージとのギャップにコンプレックスを抱えていた。

そんなとき、入院中に新井さくら(竹内結子)と出会い、自分のことを知らない彼女に一目惚れし、トントン拍子で結婚。しかし、世間に内緒である上に、婿養子として7人の家族と同居するという条件つきだった。裕一郎は熱く泥くさい方法で、家族たちが抱える問題に関わっていく……。

ジャンルとしてはホームドラマであり目新しさはなかったが、「トップスターが極秘結婚し、一般家庭で家族たちと生活する」という設定に長瀬がフィット。視聴者は、家でのカッコ悪さと、シンガーとしてのカッコ良さが交互に訪れる展開に笑うとともに、天涯孤独のため家族の絆に憧れ、体当たりで問題解決にあたる姿に感動させられた。

毎週必ず笑い泣きさせるコメディとしてのクオリティは高く、実際フジテレビは2年後に「桜庭裕一郎」という設定をそのまま使った全く別のドラマ『ムコ殿2003』を制作。しかし、それがかえって第1弾の素晴らしさを物語ることになってしまった。

長瀬と竹内に加え、鈴木杏樹、篠原涼子、神木隆之介、相葉雅紀、小雪など主演級のキャストがそろい、所属事務所の社長を演じたつんく♂とマネージャーを演じた段田安則もハマリ役。裕一郎の熱さやダサさに感化されて、絆を育んでいくキャラを熱演した。

なかでも、暴力事件で謹慎と離婚に追い込まれた裕一郎が復帰ライブに挑む最終回は必見。歌う前に、結婚していたことや家族の大切さを語るシーンは、長瀬ファンならずとも涙、涙のクライマックスとなった。

主題歌は松任谷由実「7 TRUTHS 7 LIES~ヴァージンロードの彼方で」。挿入歌の桜庭裕一郎(長瀬智也)「ひとりぼっちのハブラシ」もチャート1位を獲得するなど、相乗効果でヒットした。

検事ドラマにエンタメをもたらした快作

■2位『HERO』(フジ系、木村拓哉主演)

  • 松たか子

    松たか子

  • 阿部寛

    阿部寛

「弁護士が主人公のドラマは数あれど、検事が主人公のドラマは難しい」と言われ、メジャーどころでは『赤かぶ検事奮戦記』(テレ朝系、TBS系)、『女検事・霞夕子』(日テレ系)、『京都地検の女』(テレ朝系)くらい。いずれも視聴年齢層が高く手堅い作品であり、幅広い視聴者に訴求するエンタメ性は低かった。

それだけに『ロングバケーション』(フジ系)、『ラブジェネレーション』(フジ系)、『ビューティフルライフ』(TBS系)とラブストーリーで大ヒットを連発していた木村拓哉を起用した『HERO』のインパクトは絶大。しかも福田靖らが手がけた脚本は、業界を驚かせる超変化球だった。

ダウンジャケットとジーンズのラフな服装、ゆるいパーマの髪型、自ら事件を調べる「おでかけ」捜査、B級通販オタク。スタート当初こそ、その「ありえない」設定に戸惑う人もいたが、すぐに久利生公平(木村拓哉)と城西支部の同僚たちが生み出す脱力感は圧倒的な支持を集め、視聴率は全話30%の快挙を達成した。

飄々とした久利生と堅物すぎる雨宮舞子(松たか子)のコンビに加え、ナルシストで赤ちゃん言葉の芝山貢(阿部寛)と合コン好きな遠藤賢司(八嶋智人)のコンビ、東大卒でプライドの高い江上達夫(勝村政信)と社交ダンス好きな末次隆之のコンビ、ドSの女検事・中村美鈴(大塚寧々)と胃腸薬が手放せない支部長・牛丸豊(角野卓造)。

すべての主要キャラが認知され、愛されたことで、『HERO』以降の連ドラはキャラクターを楽しむスタイルが増えていった。ハイテンポで遊び心ある会話を一話完結の中に詰め込む作風も含めて、作り手にとってエポックメイキングな作品だったと言える。

劇中で久利生が来ていたダウンジャケットがバカ売れしたほか、通販グッズもプチブレイク。木村拓哉が使ったことで、「マーメイドスリム」「アブサイクロンX」などの健康グッズがひそかに売れていた。

主題歌は、宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」。服部隆之が手がけた劇伴もヒットし、なかでもタイトルバックのイントロは当作の代名詞に。